夏目漱石おすすめ文庫5選!~卓越した文才を堪能できる傑作選~

こんにちは、ブクログ通信です。

「月が綺麗ですね」のフレーズでおなじみの夏目漱石は、明治末期から大正にかけて活躍した、日本を代表する文豪の1人です。漱石は教職に就きながら、1905年に処女作『吾輩は猫である』を発表しました。その後、『倫敦塔』『坊ちゃん』と立て続けに作品を発表し、作家としての地位を確立します。

職業作家となった漱石は、『虞美人草』や『夢十夜』などの名作を生み出す一方で、胃潰瘍やノイローゼに悩まされたことでも有名です。俳人・正岡子規から多大な影響を受けたことでも知られる漱石は、芥川龍之介や久米正雄など多くの作家とも交流がありました。

ブクログから、文豪・夏目漱石のおすすめ作品を文庫で5選紹介いたします。漱石ならではの先見性ある作品は、現代社会を生きる私たちにさまざまな「気づき」を与えてくれます。この機会にぜひチェックしてみてくださいね。

『夏目漱石(なつめ そうせき)の経歴を見る』

夏目漱石の作品一覧

1.夏目漱石『こころ』 人の心が持つさまざまな感情を言葉で見事に表現した不朽の名作

こころ (新潮文庫)
夏目漱石『こころ (新潮文庫)
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あらすじ

親友を裏切って恋人を得た「私」。しかし、親友は自殺してしまい、罪悪感に苛まれるのだった。やがて、「私」は死を決意する——。鎌倉の海岸で出会った不思議な魅力を持つ「先生」をある学生の視点から描く前半、主人公の告白体を取る後半。人間のこころの純粋さ、内包する闇、生への葛藤と死への願望を、漱石の秀明な文体が鮮やかに描き出す傑作。

おすすめのポイント!

本作では、ある1人の人物を異なる2つの視点で描いているのが特徴です。物語前半では第三者視点から、後半では自己視点から捉えることで、より多角的に人物像が浮かび上がります。物語や構成の見事さももちろんですが、本作の最大の魅力は「文章の美しさ」だといえるでしょう。幼少期から賢く英語も堪能だった夏目漱石ならではの、端正な文章表現を味わえる名作です。人の心の機微を言葉で的確に表現している夏目漱石の文才に圧倒されます。

いつ読んでも、時に言葉は人を殺すほどの力を持ってしまうのだなと思わされます。読み継がれていくべき名著。「理解させる手段があるのに、理解させる勇気が出せないのだと思うとますます悲しかったのです。」

あさんのレビュー

2.夏目漱石『私の個人主義』激動の時代に生きる漱石の思考を学べる講演集

私の個人主義 (講談社学術文庫)
夏目漱石『私の個人主義 (講談社学術文庫)
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あらすじ

明治44年に関西で行われた講演から、「道楽と職業」「現代日本の開化」「中味と形式」「文芸と道徳」を、大正3年に学習院で行われた講演から「私の個人主義」を収録。文豪としてはもちろん、座談や講演の名手としても知られた夏目漱石の思想と語りを厳選して1冊に収録した本書。機知とユーモアに富んだ語り口で、漱石が抱いていた近代個人主義の考え方を知ることができる1冊。

おすすめのポイント!

本書は、夏目漱石が行った講演の中から「近代個人主義」をテーマに、5本の講演内容をまとめたものです。身近な出来事をきっかけに、より深く普遍的なテーマへと話題を導いていく漱石の語りの巧みさを実感できます。まるで漱石の講演を目の前で聞いているかのような臨場感ある1冊です。先見性に満ちた内容は、100年前の講演とは思えないほどです。作家というよりは学者、教師、芸術家といった漱石の一面を垣間見ることができる貴重な本です。

夏目漱石の演説をその言葉遣いのまま文字起こししたもの。漱石の言葉遣いの面白さを感じられる。内容も現代に通じるところがあるので、なお面白い。YouTubeに朗読版があるみたいなので、それも聞いてみたい。

egueguさんのレビュー

3.夏目漱石『明暗』 これぞ漱石の集大成!濃密な人間ドラマに魅せられる未完の大作

明暗 (新潮文庫)
夏目漱石『明暗 (新潮文庫)
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あらすじ

30歳の津田由雄には、お延という23歳の妻がいる。勤め先の社長夫人に仲立ちしてもらった結婚だった。平凡な毎日を送る由雄だが、彼にはかつて将来を誓い合った清子という女性がいた。ある日突然、由雄を捨て友人のもとへ嫁いでしまった清子は、今や1人で温泉場に滞在しているという。それを知った由雄は、密かに彼女の元へ向かうが……。

おすすめのポイント!

大正5年に「朝日新聞」に掲載された長編小説です。作者病没のため、物語は完結しませんでした。晩年、漱石が理想としていた「則天去私」の境地を描こうとした作品だともいわれています。とある夫婦を軸に、彼らを取り巻く人々のエゴや人間関係を破綻することなく見事にまとめ上げている点が見どころです。とにかく登場人物が多い作品ですが、各個人の思惑や利害関係、愛憎などが複雑に絡み合い奥深い世界を構築しています。物語の終わりは、「これはこれで良い」と思ってしまう絶妙な味わいで、未完の大作とは思えない完成度です。

僕にとっては…「微細な糸を、丹念に、緻密に織り上げていった結果、巨大な、極美な織物が出来上がった」といった感じの作品。未完に終わっているので、「出来上がった」とはいわないのかもしれないけど…。読めども読めども、知り尽くせない、語り尽くせない、巨大なミクロコスモス。

まーちゃんさんのレビュー

4.夏目漱石『行人』 漱石の卓越した文才が描き出す、愛に悩む人間の姿

行人 (新潮文庫)
夏目漱石『行人 (新潮文庫)
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あらすじ

学問を生きがいとする一郎は、頭脳明晰で絶対的な自信を持ち、他人に厳しい人物である。妻はもとより家族にも理解されず、常に孤独を抱えていた。妻を愛しているが、妻を信じ切ることができない一郎。妻の愛情が弟・二郎に向いているのではと疑っているのだ。思い余った一郎は、弟に自分の妻と一晩よそで泊まってほしいと頼むのだった。

おすすめのポイント!

人間心理の描写に定評のある漱石ですが、本作では我執にとらわれた人間の孤独や哀れさが胸に迫ります。愛ゆえに人を疑い、愛ゆえに狂っていく——そんな近代知識人の姿を、美しくも儚く切り取った文章にご注目ください。恋愛や夫婦関係を題材としていますが、俗っぽくならず、純粋さに近いものを感じる点はさすが漱石といったところです。「他人の心を知ることはできない」という、当たり前にして絶対的な事実を漱石ならではの切り口で表現した珠玉の作品となっています。

二郎の目を通して伝わってくる、兄の苦悩と孤独。それを思うと、やるせない気持ちになる。何となくそれを感じていたからこそ、もう少し親しい言葉を掛けてあげて下さいと、嫂に言ったのかも知れないけど…夫婦間のことって二人にしか分からないこともあるから…何と言うか、上手く言えないんだけど、読むのに体力を使う小説だった。でも、面白かった。兄はこの後どうなるんだろう。兄の苦悩の孤独を思えば、Hさんの言うように、このまま目が覚めなかったら、永久に幸福なのかも知れない。

いぬさんのレビュー

5.夏目漱石『文鳥・夢十夜』 漱石の作家としての多彩な魅力を凝縮した小品集

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)
夏目漱石『文鳥・夢十夜 (新潮文庫)
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あらすじ

金がかからないから良いと、知人に勧められて文鳥を飼い始めた。お手伝いさんの助けを借りて始まった飼育生活だが、徐々に文鳥への興味がわいてきた。しかし、忙しさゆえに放置してしまい、文鳥は死んだ——「文鳥」。夢に出てきた髪の長い女が、静かな声でもう死にますという。真白は頬の底には程よく血の色が差し、唇は赤い。それでも、もう死ぬというのだ——「夢十夜」。ほか5編を収録した小品集。

おすすめのポイント!

自由な語り口でつづられた小品を7編納めた本です。何気ない日常の出来事をつづっているようで、著者が感じる孤独をにじませている風にも読み取れる「文鳥」。少し恐ろしげで幻想的な世界観に引き込まれる「夢十夜」。長編小説とはまた違った趣の作品たちを楽しめます。漱石の人となりや思考、理想などがより色濃く感じられる作品集です。

「夢十夜」の印象が強い。夢の形式で描かれた短いエピソードたちだが、夢といいつつ、怪奇譚に近い雰囲気のものが多い。そのじっとりした質感は、まさに悪夢の感触かもしれない。この話たちはどこから生まれてきたのだろうか?と不思議に思う。子どもの頃に読んだ「学校の階段」に紹介された怪奇譚の読後ともどこか共通する。夢は誰でも見るし、じっとりしたこわさもなぜか、経験したことがある人が多いようだ。そのこと自体も、なんだかこわい。夢の不気味さ・不思議さに気づく作品。

ふじのんさんのレビュー


夏目漱石の作品は、私たちに日本語表現の多彩さ、言葉の美しさを改めて教えてくれます。現代で読んでも全く色あせない名作の数々、ぜひこの機会に手に取ってみてはいかがでしょうか。