乗代雄介さん作品5選!~確かな筆致と個性的な世界観が魅力~

こんにちは、ブクログ通信です。

乗代雄介さんは、学生時代にブログで創作活動を始めたという、異色の経歴を持つ作家です。大学卒業後、学習塾に勤務しながらインターネットで知り合った仲間と共に文芸同人誌「なし水」に参加し、執筆活動を続けていました。2015年、『十七八より』で第58回「群像新人文学賞」を受賞し、作家デビュー。各賞での受賞やノミネートを経て、新作発表の度に注目を集めています。

今回は、そんな乗代さんの作品の中から、特に人気の高い作品を5つ紹介いたします。芥川賞にもノミネートされた確かな筆致を実感できる名作の数々を、ぜひ手に取ってみてくださいね。

乗代雄介さんの作品一覧

1.乗代雄介『それは誠』第169回「芥川賞」候補作!高校生の小さな冒険を描いた青春小説

それは誠
乗代雄介『それは誠
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あらすじ

高校二年生の佐田誠は、修学旅行で東京に行くと知り、密かにとある計画を立てていた。自由行動の1日を使って、日野に住む叔父に会いに行くのだ。クラスの中でも目立たない存在である誠の大胆な計画に、同じ班のメンバーたちは最初は反対するものの、徐々にその気持ちが変化してゆき……。

おすすめのポイント!

第169回「芥川賞」の候補作となった中編小説です。高校の修学旅行中に起こる小さな冒険を切り取った、青春群像劇でもあります。複雑な家庭環境で育った主人公・誠を中心に、ただ同じ班になっただけの同級生たちが少しずつ変化してゆく様子がみずみずしく描かれている点が魅力です。若者ならではの無鉄砲さ、ちょっとしたことで心が近づく純粋さなど、高校生年代特有のきらめきが胸に迫ります。読後には、ちょっとした切なさと温かさが残る、じんわりと心に響く感動作です。

素敵!!爽やか!!登場人物みんながとても素敵であんなクラスがあったら幸せだろうなぁ。3班のらみんなも先生もなんて素敵なんやろう。一緒に修学旅行に行って一緒におじさんを待ってる気持ちになる位引き込まれる。松くんがまた素敵で、松くんのお母さんも素敵。落ち葉の描写が綺麗過ぎて、本を読みながらもキラキラした光が見えて本当に幸せなった。やっぱり素敵な本を読んだら元気になるなぁとほっこりしました。

しょーさんのレビュー

2.乗代雄介『パパイヤ・ママイヤ』親子関係に悩む少女たちのひと夏を切り取るガールミーツガール作品

パパイヤ・ママイヤ
乗代雄介『パパイヤ・ママイヤ
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あらすじ

アル中の父親を嫌っていて、バレーボール部に所属しているパパイヤ。芸術家の母親にいつも振り回され愛憎半ばで、写真が好きなママイヤ。17歳の夏にSNSで知り合った二人は、<木の墓場>で週に一回会うようになり、次第に心通わせてゆく。やがて、二人の夏は特別なものになった……。

おすすめのポイント!

SNSで知り合った二人の少女が、お互いに影響し、強く成長してゆく様を描いたひと夏の物語です。それぞれが親子関係に問題を持ち、なりたい自分でいられない葛藤を抱えています。誰しも、親との関係に一度は悩んだことがあるでしょう。子どもならではの不自由さ、子どもだからこそ感じる親への苛立ちが、臨場感あふれる文体で巧みに表現されています。人生で一度きりしか訪れない17歳の夏を、淡々と、それでいてかけがえのない時間として描き出す筆致がさすがです。

SNSで知り合ったパパイヤとママイヤという17歳の2人の女の子が過ごした一夏を描いた物語。17歳っていうキラキラした青春真っ只中の一夏を、最初から最後までほぼ2人だけのやり取りで丁寧に描いてあって、すごくよかった。

yupa0326さんのレビュー

3.乗代雄介『旅する練習』姪と叔父のまぶしくも切ない珍道中

旅する練習
乗代雄介『旅する練習
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あらすじ

2020年、中学入学目前のサッカー少女・亜美(アビ)は、コロナ禍で予定がなくなり退屈な春休みを過ごしていた。小説家の叔父に頼み込んで、二人は鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る。千葉の我孫子を出発し、鹿島アントラーズの本拠地まで徒歩の旅路だ。距離にして約68キロ、時間にして徒歩で14時間弱の旅が今始まる……。

おすすめのポイント!

第164回「芥川賞」候補作です。姪である亜美は、サッカーボールさえ蹴っていれば機嫌が良いという、天真爛漫な少女。予定がなくなった春休みを有効活用するため、小説家の叔父に旅の計画を持ちかけます。仲の良い二人の微笑ましいやり取りに心がなごむロード・ノベルかと思いきや、時折差し込まれる叔父の文章に不穏さが見え隠れし、一気に読んでしまうこと必至の一冊です。何気ない日常の中に隠れている、まぶしくも特別なひと時の尊さをみずみずしく描いています。

小学生を連れての歩き旅。叔父の小説の練習、姪のサッカーの練習。道連れになった女子大学生にも、小学生にもいろいろあるよな〜って思い…皆が少し成長して、いい旅だったね、と思ったのに最後の最後はこんな結末…夜中に読み終わり、目が少し濡れちゃった。

あんさんさんのレビュー

4.乗代雄介『最高の任務』「書く」という行為を通して言葉の持つ力を再認識できる異色作

最高の任務
乗代雄介『最高の任務
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あらすじ

大学の卒業式を目前に控えた私は、ひょんなことから亡き叔母にもらって書き始めた日記帳に目を通す。日記を通して蘇るのは叔母との記憶だった——(『最高の任務』)。僕は、2歳年上の従姉に長い手紙を書いている。幼い頃から好きだったことや一年前の再会についてのこと。あの日伝えられなかった想いも——(『生き方の問題』)。

おすすめのポイント!

中篇2編を収めた作品です。表題作は第162回「芥川賞」候補作に選ばれ、大きな話題となりました。表題作では「日記」、もう一方では「手紙」をモチーフに、書くという行為にフォーカスした一冊です。時を経てもなお色濃く残る想いや、心残り、強い気持ちといったものが書くという行為によって徐々に浮き彫りにされてゆきます。改めて、言葉の持つ力のすごさを感じさせてくれる異色な作品です。本好きな皆さんに、ぜひ一度は読んで欲しい本だともいえます。

第162回芥川賞候補作の表題作と、中篇「生き方の問題」を収録。「手紙」と「日記」を通して「書く」という行為の意味を問題定義したのかな。過去を客観的に俯瞰してとらえるということなのかな。候補作の方は、日記で、それは叔母との記憶に関するものだった。日記を書くという習慣には、自分とは誰を追求する作業にも似たものがあるのかな。「生き方の問題」の方がおもしろく、少しエロくて変態的な「手紙」。これはラブレターだ。過去の記憶を「手紙」にすることで、自分の本当の意思と向き合うという秀作だった。すごく斬新でいい。

可不可@the beautiful worldさんのレビュー

5.乗代雄介『皆のあらばしり』男子高校生と中年男、異色のバディが贈るミステリー風小説

皆のあらばしり
乗代雄介『皆のあらばしり
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あらすじ

高校の歴史研究部に所属する「ぼく」は、部の活動でとある城址を訪れる。そこで出会ったのは、人を喰った大阪弁を話す中年男だ。最初の印象とは裏腹に深い学識を持つその男は、旧家の好事家が蔵書目録に記していた「謎の本」の存在を追うという。うさん臭いと思いつつも、「ぼく」は男の博識さに興味を捨てきれないのだった。

おすすめのポイント!

第166回「芥川賞」候補作。男子高校生と中年男が、『皆のあらばしり』という幻の書を探し求めるミステリー風作品です。唐突な出会いゆえ、いつまでもうさん臭さが消えない中年男と、彼に翻弄される男子高校生のちぐはぐなバディっぷりが見どころです。先の読めない展開にドキドキさせられ、ページをめくる手が止まりません。ラストの意外な逆転劇にもご期待ください。一見軽薄な中年男が、心に残る名言の数々を発するところにも注目です。

歴史の隙間に落っこちてしまっている様な物に調査と推理で迫っていく過程はとんでもなくスリリング。ラストも痛快。ゆかりのある地名も多く、より楽しめた。

本屋のおっさんさんのレビュー


乗代さんの作品は意外性のあるストーリーと、現実世界とリンクした世界観が魅力です。
今回ご紹介した5作品は個性的な名作揃いなので、ぜひこの機会にチェックしてみてくださいね!