こんにちは、ブクログ通信です。
小川哲さんは東京大学大学院に在学中の2015年に、投稿作『ユートロニカのこちら側』で第3回「ハヤカワSFコンテスト」の大賞を受賞し作家デビューしました。2017年に発表した『ゲームの王国』は、第38回「日本SF大賞」をはじめ有名文学賞の受賞や候補作となり、各界から高い評価を受けています。小川さんの作品は中国でも高い評価を受けるなど、特にSF小説界では国内外で多くの読者を魅了しているのです。
そんな小川さんの作品の中から、初めての人にもおすすめの5作品を紹介いたします。文学界から高く評価され、ブクログユーザーからの評価も高い人気作ばかりです。今注目の作家の一人である小川さんの作品を、ぜひチェックしてみてくださいね!
『小川哲(おがわ さとし)さんの経歴を見る』
1.小川哲『地図と拳』 満州を舞台に男たちの熱い戦いが描かれるSF歴史小説

ブクログでレビューを見る
あらすじ
日清戦争後、日本は南下を続ける帝政ロシアへの警戒を強めていた。密偵の高木は茶商人へと化け、乗合船でハルビンを目指す。軟弱な大学生・細川が通訳として同行中だ。今やロシアの根拠地であるハルビンに潜入するのは危険極まりない任務である……。高木と細川、ロシア人神父のクラスニコフ、叔父に騙された移住者・孫悟空——、「燃える土」があるという<李家鎮>へと、数多の男たちが運命に導かれ集まってゆく。
おすすめのポイント!
第168回「直木賞」受賞作です。日清戦争後の満州を舞台に、様々な理由でかの地へとやってきた男たちの知略と殺戮にまみれた日々を描いています。600頁を超える超大作で、鈍器のごとき分厚さに読むのをためらう人も多いかもしれません。しかし、本作では日露戦争直前から第二次大戦までの約半世紀を虚実入り混じる壮大なストーリーで描き出し、歴史映画を見ているような重厚かつ読み応えある作品に仕上げています。歴史ものでありながら、SF要素もあるため読みやすい作品です。
小川哲『地図と拳』読了。日露戦争前夜から日本の敗戦までの満州の架空都市を舞台とした地図と建築と戦争を巡る物語。史実と虚構の織り成す様式美と圧倒的に濃厚な〈人間〉の物語。600頁の厚みに気圧されて積んでいたけれど、直木賞受賞と聞いて読み始めたらどんどん引きずりこまれていった。いろんなインテリが出てくるけどここまでインテリをキャラを立たせながらも書き分ける人もいないだろう。説得力がすごい。ガッツリの長編を読んだのは久々だったけどまたものすごい物語に出会ってしまったという感動がある。
2.小川哲『嘘と正典』 作者の膨大な知識と斬新な発想力に唸らされる傑作短編集

ブクログでレビューを見る
あらすじ
稀代のマジシャンと呼ばれたある男。手掛けた事業が失敗し、家族は離散した。時が経ち、男は再起を賭けた大マジックに挑むという。男の息子は姉と共にそのショーを見に行くが……(『魔術師』)。亡くなった父が遺した競走馬。その血統を辿ってゆくうちに、思いもよらない事実が明らかになって……(『ひとすじの光』)。他4篇を収録したSF短編集。
おすすめのポイント!
第162回「直木賞」候補作です。また、本作に収録されている『魔術師』は、中国で最も歴史と権威あるSF文学賞「銀河賞」の銀賞にも輝きました。この作品にはタイムトラベルなどのSF的要素はもちろん、ミステリーやサスペンス、ヒューマンドラマといった要素も含まれており、多角的な楽しみ方ができる一冊です。SF好きはもちろん、普段あまりSF小説は読まないという人もきっと楽しめます。本作は短編集ですが、全6編の物語はどれも秀逸で読み応えがあり、完成度の高さに唸らされるはずです。
短編集。「最後の不良」だけ既読。SFの要素は薄めな印象。普通にエンタメ作品として面白い。表題作は難しい舞台設定だけど、意外と普通に読めて、構成も上手い。「ひとすじの光」も興味のないジャンルにも関わらず、とても面白かった。全体的に非常に満足。
3.小川哲『ユートロニカのこちら側』個人情報と引き換えに「幸せ」は手に入るのか?

ブクログでレビューを見る
あらすじ
マイン社とサンフランシスコ市が共同で建設したサンフランシスコ特別提携区「アガスティアリゾート」。そこでは、住民の個人情報と引き換えに高水準な生活が保障される仕組みとなっていた。数万倍の倍率を潜り抜け、特別区での暮らしを手に入れたジェシカと夫・ジョンには理想の街での完璧な暮らしが待っているはずだった。ところが、楽園のような生活の中で、夫妻は次第に幻覚や幻聴に悩まされるようになってゆく……。
おすすめのポイント!
「全ての個人情報を提供することで、お金に娯楽にも困らない完ぺきな暮らしが手に入る」という、近未来に起こりそうな設定が目を引く作品です。本作は第3回「ハヤカワSFコンテスト」の大賞受賞作であり、小川さんのデビュー作でもあります。現実社会の延長線上にありそうな舞台設定、登場人物たちの緻密な心理描写が効いていて、とてもリアリティがある作品です。「幸せな暮らしとは?」「プライバシーはどこまでが大切か?」といった、現代社会を生きる私たちにとって切実な問いを投げかける意欲作だと言えるでしょう。
世界観が素晴らしい。作者の頭脳明晰なことが際立っている。近未来を予測させる内容で、非常に面白く読ませて頂いた。
4.小川哲『ゲームの王国 上』文学賞W受賞作!虚実の境が溶けてゆく歴史SF小説

ブクログでレビューを見る
あらすじ
フランスから独立後、国内の混乱が続くカンボジア。共産主義革命勢力クメール・ルージュの首魁サルト・サルの隠し子とされる少女ソリヤは、貧しい夫婦のもとで育てられた。田舎村に暮らす少年ムイタックは小さい頃から賢く、天賦の「識(ヴィンニャン)」を持つといわれている。1975年のバタンバンで、運命と偶然に導かれた二人は出会った。理想国家建設を目指す人々の信念と人生が交錯する超大作。
おすすめのポイント!
第38回「日本SF大賞」および第31回「山本周五郎賞」受賞作です。ポル・ポト政権下のカンボジアを舞台に、ある少年と少女の運命的な出会いと成長を描いています。死と隣り合わせの日々を生きる市井の人々の様子がリアルで、ルポルタージュ映画のような迫力ある作品です。一方で、ソリヤやムイタックをはじめとする異能者たちも躍動感あふれる描写で、本当にこんな人々が居たのではないかと思わされます。カンボジア現代史と歴史ファンタジーが見事に融合したスリリングな物語なので、ぜひじっくり読み込んでお楽しみください。
史実とSFが組み合わさっていてとても読みごたえのある作品だった。過酷で残酷な日常がリアルに表現されている中、現実では有り得ないSF要素が上手く合わさっていて、違和感なく読み進めた。登場人物それぞれに焦点があてられて、その話が複雑に絡み合って1つの世界の物語になっているのが素晴らしかった。
5.小川哲『君のクイズ』クイズに人生をかける若者たちの情熱を描いた極上エンタメ作品

ブクログでレビューを見る
あらすじ
生放送のクイズ番組「Q-1グランプリ」の決勝戦で、クイズプレーヤーの本庄絆は問題文を一文字も聞かないうちに正解し優勝した。本庄は暗記が得意な東大生だが、本当に実力で「0文字押し」という偉業を成し遂げることができるのか——。ヤラセ疑惑が持ち上がる中、対戦相手だった三島玲央は、本庄のこれまでの解答を一問ずつ検証してゆく。やがて、三島は自分自身の記憶をも掘り起こすことになるのだった……。
おすすめのポイント!
某人気クイズ番組を思わせるユニークな設定でエンタメ性の高い作品です。クイズプレーヤーはなぜ、多種多様なクイズに正解することができるのか?その理由を、「物知りだから」「たくさん勉強しているから」だと思う人は多いかもしれません。しかし、本作を読むとそれらの理由だけではない、クイズプレーヤーの真の強さを知ることができます。出題中にどんなことを考えているか、クイズに挑む姿勢はどんなものか……クイズにかける熱い情熱を思い知らされるのです。クイズに対するイメージを良い意味で一新してしまう一冊です。
クイズ大会で問題が読み上げられる前に解答した本庄絆。なぜ彼は問題を聞かずに正答することができたのか?という魅力的過ぎる謎に、対戦者だった三島は調べ始める…。なんだこの小説は。読んだことない部類だ。しかもフェアに答えが提示されるあざやかさ。クイズを通して人生が問われる様に痺れさえ感じてしまった。急にクイズについて興味を持ってしまった。
小川さんの作品はSFジャンルを超えた面白さで、国内外の読者を魅了しています。小川作品を未読の人やミステリを読み慣れていない人にもおすすめなので、ぜひこの機会に読んでみてはいかがでしょうか?