奥田英朗さん作品5選~短編も大長編も読み応え抜群の傑作選~

こんにちは、ブクログ通信です。

奥田英朗さんは、コピーライター、構成作家などを経て、出版社に持ち込んだ『ウランバーナの森』で1997年にデビュー。2004年に『空中ブランコ』で第131回「直木賞」、2009年に『オリンピックの身代金』で第43回「吉川英治文学賞」を受賞されています。「心理描写の達人」の異名を持つ奥田さんの作品は、その細やかな描写が特徴的です。メディアミックス作品も多数あり、海外でも翻訳・出版されるなど、国内外で人気を博しています。

奥田さんの作品は、コミカルなものから社会派のものまで様々ですが、今回はその中から、特におすすめの5作品を選びました。気になる作品がありましたら、ぜひチェックしてみてくださいね。

『奥田英朗(おくだ ひでお)さんの経歴を見る』

奥田英朗さんの作品一覧

1.奥田英朗『罪の轍』ズシリと重みのある読後感

罪の轍 (新潮文庫)
奥田英朗『罪の轍 (新潮文庫)
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あらすじ

翌年に東京オリンピックを控えた昭和38年。東京の下町で、一人の男児が誘拐された。若手刑事・落合昌夫は、スリを繰り返し、子供達からは「莫迦」と呼ばれていた北国訛りの青年・宇野寛治を疑うが、彼にはどうにも憎めない愛嬌のようなものもある。警察の失態、憔悴する家族、男児の安否、犯人の正体……。犯人の生い立ちから事件の行方までを描いた、大長編犯罪小説。

おすすめのポイント!

文庫本で800ページ超えという厚みのある本作。それでいて、途中でダレることがなく、クライマックスに向けてどんどん引き込まれてゆきます。また、本作は昭和38年に実際に起きた事件をモデルにしており、その時代背景をとても細やかに書き表しています。今なら考えられないような不便さの中、それでも事件解決に向けて情熱を持って捜査に取り組む警察官達の姿に胸が熱くなります。骨太な警察小説を探している方に特におすすめの作品です。

800ページを越える大作、しかも傑作、ページをめくる手が止まらない。礼文島でバカ呼ばわりされる寛治は、痛ましい生い立ちだ。コソ泥を働くが憎めない男で、寛治をよく知る人々は口を揃えて言う、「あいつはそこまで悪い奴じゃない」。読者だってそう思ってしまう。舞台は東京へ変わり凶悪な犯罪が起きるが、真犯人が現れるのを待ったのは私だけだろうか。最後は何ともやりきれない読了感だが、ミキ子と明男の人情味溢れる人柄に癒される。星六つあげたい。

オオヤマメさんのレビュー

2.奥田英朗『イン・ザ・プール』心が軽く、明るくなる

イン・ザ・プール (文春文庫)
奥田英朗『イン・ザ・プール (文春文庫)
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あらすじ

伊良部総合病院の神経科には、注射フェチの医師・伊良部一郎と、露出狂の助手・マユミがいる。泳ぐことばかり考えてしまうプール依存症の大森和雄や、10分触っていないだけで手が震える携帯依存症の津田雄太など、訪れる患者は皆、深い悩みを抱えている。相談を聞くと、伊良部は天性の楽観思考と破天荒な治療法で、何故か患者達を救ってゆく。気付けば笑顔になる短編集。

おすすめのポイント!

何かが気になって仕方がない、気を遣ってばかりで疲れてしまった。そんな人にぜひ手に取ってほしいのがこの作品です。思い悩む患者達に共感したり、伊良部先生のぶっ飛び治療に驚かされながらも、何だか自分の悩みが馬鹿馬鹿しくなったり。生きるって、もっと気軽で楽しいのかも。そんな気持ちにさせてもらえます。「直木賞」受賞作『空中ブランコ』は、本作を初作とする「精神科医・伊良部シリーズ」の2作目となっています。

なんだかほんとに明るい伊良部一郎。診察室は地下にあるのに「いらっしゃーい」なんてもうそれだけで心が軽くなりそうです。とんでもないアドバイスが何故か患者を救う、あのなんともいえない間と緩い感じ、いいなぁ。

pukuchansさんのレビュー

3.奥田英朗『コメンテーター』17年の時を経て、伊良部一郎が帰ってきた

コメンテーター
奥田英朗『コメンテーター
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あらすじ

美人精神科医を探せと命じられたテレビマンの畑山圭介。しかし手違いにより、出演することになったのは何と、トンデモ精神科医の伊良部一郎と助手の看護師・マユミだった。言いたい放題の伊良部と超ミニナース服のマユミ。放送事故寸前の二人に批判が大殺到、かと思いきや、マユミちゃんが大バズり!?コロナ禍を吹き飛ばす、「精神科医・伊良部シリーズ」最新作。

おすすめのポイント!

2006年刊行の三作目『町長選挙』から17年が経った2023年5月に刊行された本作。相変わらず破天荒な伊良部先生ですが、もしや天才なのでは?と思わせられる展開も健在です。息をするのも不安になるようなコロナ禍でしたが、そんな時勢すらも違和感なく作品に取り入れられるのは、奥田さんの力量の成せる業でしょう。コロナ禍が収束しつつある今も、息苦しさの余韻のようなものを感じている方にぜひ読んでほしい作品です。

精神科医題材の短編集。かなりぶっ飛んだ医者が主人公やけど、なるほど理にかなってる感じで爽快感があっておもしろかった。広場恐怖症とアンガーマネジメントの話がおもしろかった。

でかぽとちびぽと時々ぽむぽさんのレビュー

4.奥田英朗『リバー』連続殺人事件を追え!犯罪小説最前線!

リバー
奥田英朗『リバー
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あらすじ

渡良瀬川流域の群馬と栃木で、女性の死体が相次いで発見された。手足を縛られた全裸遺体に、渡良瀬川の河川敷という場所。現場の状況は、10年前に起きた未解決事件と酷似していた。両県の刑事達が捜査を進め、やがて三人の容疑者が浮上する。被害者の父、新聞記者、犯罪心理学者、元刑事。関係者による執念の捜査の末に明かされる犯人は——。緊迫の群像小説。

おすすめのポイント!

10年前の事件を解決できなかった元刑事の苦悩や、被害者家族の悔恨など、事件に関わる人々の心情が見事に表現されています。単行本で600ページを超える本作。本自体の厚みだけではなく、その内容も重厚なものになっています。文章が立ち上がり、動き出すのではないかと思う程、登場人物達の想いが伝わり、迫力すら感じます。これだけの厚みがありながら、「瞬読してしまった」という読者も。読みやすさと読み応えを兼ね備えた傑作です。

読み応えたっぷり。さすが奥田英朗さん。10年前に起きた連続殺人と今回起きた2件の殺人は同一犯か模倣犯か。決め手がないままずーっと引っ張られ、たいてい私はこのパターンになると飛ばし飛ばし読むのだが、奥田さんはそうさせない。どこで急展開するか分からないから気合入れて読んだ。面白かった〜。

ゆきみだいふくさんのレビュー

5.奥田英朗『ガール』30代女性の葛藤を描いた短編に共感の嵐!

ガール (講談社文庫)
奥田英朗『ガール (講談社文庫)
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あらすじ

広告代理店で働き、仕事もプライベートも充実しているはずの由紀子。しかし彼女には、ふとブルーになってしまう瞬間がある。(『ガール』)表題作の他、大手不動産会社の管理職に抜擢された聖子や、マンション購入を検討するゆかり、シングルマザーの孝子など、いずれも30代の働く女性を主人公にした5編。どの道を選んでも苦悩はある。人生の機微を捉えた傑作短編集。

おすすめのポイント!

女性はいつまで「ガール」なのか。若者と呼ばれていた20代を過ぎ、心の中の自分は変わっていなくても、社会的な立場や体の変化、ライフステージなどが、女性をいつまでも「ガール」ではいさせてくれません。本作には、戦いながら社会を生きる30代女性が克明に描かれています。働く女性だけでなく、女性の悩みを理解したいと考えている男性にもおすすめです。葛藤を描く一方で、清々しい結末も用意されています。2012年映画化。

短編5話どれも良かった。男の私が読んでも純粋に面白かった。働く30代女性は、リアルにこんな感じなのだろうなぁと勝手に想像を膨らませつつ、やっぱり女性はかっこいいし、すごいなぁとリスペクト。そしてこんな女性目線の物語を男なのに書けてしまう奥田英朗にもリスペクトです。

shimejiさんのレビュー


自分のようだと共感したり、異なる境遇の人物に感情移入したりできるのは、奥田さんの観察眼と文章力、両方が揃ってのものでしょう。様々なジャンルの作品がありますので、まずは気になった一冊から、ぜひ手に取ってみてくださいね。