こんにちは、ブクログ通信です。
尾崎世界観さんは、ミュージシャンでシンガーソングライター、小説家としても活躍する多彩な人物です。2012年にロックバンド「クリープハイプ」としてメジャー・デビューすると、中性的なボーカルで大きな存在感を示しました。2016年には半自伝的小説『祐介』で小説家デビューを果たします。2020年に『母影』で、2024年には『転の声』で「芥川賞」候補となり話題を集めました。
今回は、そんな尾崎さんの著書の中から、代表的な5作品を紹介いたします。尾崎さんの持ち味でもある独特な言語センスが光る傑作選です。ぜひこの機会に手に取ってみてくださいね。
1.尾崎世界観『転の声』2024年上半期の「芥川賞」候補作!音楽業界のリアルに迫る意欲作
あらすじ
ロックバンドでボーカルを務める以内右手は焦っていた。思うように声が出ず、自分の曲すら歌いこなせないのだ。そんな以内に、カリスマ転売ヤーが囁く。「地力のあるアーティストこそ、転売を通してしっかりとプレミアを感じるべきです」——自分のチケットにプレミアが付くたび、喜びが湧き上がる。ところが、以内の欲望は制御を失い始めて……。
おすすめのポイント!
第171回「芥川賞」の候補作です。尾崎さん自身を彷彿とさせる主人公・以内右手を通して、バンドマンが観客に対して感じる葛藤や感情をリアルに描き出しています。ライブチケットにプレミアが付くということの意味、転売を巡る葛藤や欲望、ライブシーンの描写など、まさに尾崎さんにしか書けない作品だと言えるでしょう。音楽業界のリアルな裏側を垣間見ることができ、バンドマンの本音がちらりと見え隠れしてドキっとさせられる作品です。個性的な言葉選びも印象的なので、ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか?
本作を読んだ方は、ぜひレビュー投稿をお願いいたします!
2.尾崎世界観『祐介』冴えないバンドマンの苦悩と葛藤をを描いた、著者デビュー作
あらすじ
バンドマンの祐介は、冴えない日々を送りながら、いつの日かスポットライトを浴びる日が来ることを夢見ている。スーパーでアルバイトをし、ライブをしても客は数名、メンバー同士に結束なんてありはしない。そんな祐介が恋をした相手はピンサロ嬢で……。投げやりな性と暴力、そして暴走の果てにあるものとは?
おすすめのポイント!
尾崎さんの作家デビュー作です。著者の本名と同じ題名ということから、自伝的小説として知られています。冴えないバンドマンが、上手くいかない日々や社会への怒りと葛藤を抱えながら、性と暴力に傾いてゆく様子を赤裸々な表現で描き出している作品です。過激な描写もありますが、だからこそ夢と現実のはざまで葛藤する主人公の苦悩が引き立ちます。主人公の鬱屈とした感情が生々しく描かれ、心を揺さぶられるような衝撃を感じることでしょう。著者自身の人生も垣間見えるような、魂のこもった小説です。
尾崎祐介から尾崎世界観になるまでの道は想像を絶するほどのもので。考えたことも想像したことも聞いたこともない出来事ばかりが並んでた。感じたことのない気持ち悪さを覚えるくらい。こんな経験を、考え方を、生き方をしてきた人だから、あんな歌詞がかけて、歌が歌えるんだな…と。
3.尾崎世界観『母影』社会から少し外れた母娘の危うい世界を描く「芥川賞」候補作
あらすじ
小学生の「私」は、学校で友だちをつくれず、どこにも居場所がない。母親の勤めるマッサージ店で、カーテンの陰に隠れて息を潜めて過ごしている。お客さんの「こわれたところを直している」というお母さんは、なぜか日に日に苦しそうになっていくのだった。「私」は「もうこれ以上お母さんの変がどこにも行かないように」と願うが……。
おすすめのポイント!
幼い少女の視点で描かれる、母親への深い愛情と社会から少しはみ出した親子の暮らしを描いた純文学作品です。2020年に刊行され、第164回「芥川賞」の候補作となりました。本作は文体や漢字表記が主人公の年齢に合わせたものとなっており、主人公である少女が見聞きし感じたことを追体験できる作品です。まるで子供に戻って世界を見ているような、不思議な感覚を味わえます。尾崎さんならではの言語センスや感性が光る、「芥川賞」候補も納得の力作です。
感受性豊かな子どもが感じたことをそのままの言葉で書いてあって、すごいな、と思った。お母さんがしている仕事は何か変なことだ、きっとしちゃいけないことだ、何をしてるのか知りたい、という思いとともに、母に直接聞いてはいけないことのように感じている。でも、試着室でカーテン越しに母の影を見て、カーテンで隔てられている今なら、聞いてもいいのではないか、返事が怖いけど思い切って聞いてしまった「私」。その場面の心の動き、ドキドキ感が伝わってきて、こういう感じ、子どもの時あったなぁと思い出した。銭湯にいた同級生の男の子の、見ては行けないものを見てしまった感覚も。そういうことは、教えられたわけでもないのに感じるんだと思った。
4.尾崎世界観『苦汁100%』著者への何気ない日常をありのままに綴った純度の高いエッセイ
あらすじ
本当に大切なことは書かないし、書けない。だから、書く——ロックバンド・クリープハイプのフロントマンで作家としても活躍する尾崎世界観が、自意識過剰な日々を赤裸々に綴る。炎上や批判、周囲に理解されないなど、「苦汁」にまみれる日々の中で思ったこと、感じたことをありのままに書き出したエッセイ。
おすすめのポイント!
人気ロックバンドのフロントマン、デビュー作が話題をさらった注目の作家、そんな肩書で語られることの多い尾崎さんの本音の部分に触れることができるエッセイです。下品なことも危ういことも、思ったままに綴る素直さは、ある意味衝撃的でもあります。しかし、だからこそ著者の考えたことや感じたことがダイレクトに伝わってきて、その人となりと魅力を感じることができるのです。尾崎世界観という人物を知らない人にこそ読んで欲しい、純度の高いエッセイとなっています。
クリープハイプ のファンで、毎日のように音楽を聴いてるのですが、それにプラスしてこれを読んでたら、まさに視覚も聴覚も尾崎世界観で幸せでした。尾崎さんの素直な言葉はスッと入ってくる。綺麗事じゃなくて、取り繕っていない人間らしさが溢れている人柄。これからも音楽も本も楽しみにしてます。
5.尾崎世界観『犬も食わない』きれいごとではないからこそ、心に響く異色の恋愛小説
あらすじ
派遣秘書の二条福は、雇い主と出かけた先で廃棄物処理業者の大輔と最悪の出会いをした。ろくな謝罪もない大輔に激高した福は罵詈雑言を浴びせ、大輔はそれに一言でやり返す。そんなひどい出会いから始まった関係は、他人の「いいね」からは程遠い、喧嘩ばかりで格好つかない日々の積み重ねだ。イマドキの恋愛の本音を、男女の視点別に描いた共作小説。
おすすめのポイント!
「直木賞」受賞作家である千早茜さんとの共作小説です。女性視点を千早さんが、男性視点を尾崎さんが描いています。最悪な出会いから始まったとある男女の恋愛模様を、2つの感性、2つの文体で描くというユニークな試みの一冊です。本作で描かれる恋愛は、面倒でダメなところが多く、理解し合えない男女の苛立ちが前面に押し出されています。しかし、だからこそリアルで等身大な恋愛小説となっていて、不思議と心に響くのです。
共作小説というものを初めて読んだかもしれない、が、違和感なく入り込め、とても面白い。この汚さ、不毛な喧嘩こそがお互いを絡め取ってずるずる続いていく感じ、これが恋愛だよね、と。変人で嫌悪すら抱きかねない男の絶妙な描き方をする尾崎世界観もすごいし、それに対峙しつつ己の中の女としての葛藤や苦悶を妙にシュールに描く千早茜もすごい。
尾崎さんの作品は、生きづらい社会への怒りや葛藤を、残酷なまでに素直に描き出します。その文章は、きっとあなたの心を揺らすことでしょう。ぜひこの機会に、尾崎作品を体験してみてはいかがでしょうか?