こんにちは、ブクログ通信です。
35歳から小説を書き始め、2014年に『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞し小説家デビューした寺地はるなさん。2020年には『夜が暗いとは限らない』で第33回山本周五郎賞候補となり、遅咲きながらも才能あふれる作家として注目を集めました。2021年に『水を縫う』で第42回吉川英治文学新人賞候補となり、同年同作で河合隼雄物語賞を受賞します。その後も精力的に執筆活動を続け、しっとりと心に響く人間ドラマの名手として多くの読者を魅了し続けている女流作家です。
ブクログから、そんな寺地さんのイチオシ作品を5作紹介いたします。温かみのある文章と、優しくもときにほろ苦い物語が魅力の寺地さんの作品たち。多くの文学賞にもノミネートされている注目作ばかりです。ぜひチェックしてみてください。
『寺地はるな(てらち はるな)さんの経歴を見る』
1.寺地はるな『ビオレタ』 不思議な雑貨店で出会う人々の傷と再生の物語

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あらすじ
結婚を目前にして、婚約者に突然別れを告げられた田中妙。雨の中泣いていた妙に声をかけたのは、長身で不愛想な女性・菫さんだった。わけもわからず菫さんの家に連れていかれた妙は、菫さんが店主を務める雑貨屋「ビオレタ」で働くことになる。『いつも心に棺桶を』を社訓とするこの店で働くうち、何事にも自信を持てなかった妙が少しずつ変わり始めるのだった。
おすすめのポイント!
個性豊かな登場人物と、独特なセンスが光るセリフ回しが魅力の作品です。主人公・妙は自分に自信がなく、婚約破棄されたことで自己肯定感も極度に低くなってしまいます。そんな妙が出会った迫力ある人物の菫さん、そして菫さんを介して出会う新しい人々。みなクセの強い人物ですが、根底には優しさと思いやりを秘めた人間であるため、きっと彼らのことを好きになってしまうことでしょう。立ち直れないほど傷ついた妙が、菫さんをはじめとするさまざまな人たちと出会い、どう変わっていくのかを、ぜひご自身の目で確かめてみてください。
ブクログさんから献本でいただきました。心に棺桶を。その言葉を唱え続ける菫さんの覚悟と、それを知って変わっていく妙と、妙を受け止める健太郎が、それぞれが同じだけ愛おしい。そこに確かな毒があるのに、美しい。そして健やかさえ感じる。ビオレタにはきっと音がない。だからこそ美しくて、吸い続けた息をようやく吐き出せたような、安堵を覚えるのだと思う。
2.寺地はるな『水を縫う』 人は変わっていくから素晴らしい、と思わせてくれる作品

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あらすじ
高校一年生の松岡清澄は、母と姉、祖母との4人暮らしだ。祖父はずいぶん前に亡くなった。父は、清澄が小さい頃に家を出ていった。清澄は手芸が好きだ。だから、学校で浮いている。女子力が高すぎとか、男が好きなんじゃないか、とか思われているからだ。そんな清澄は、秋に結婚する姉のためにウエディングドレスを手作りすると宣言した。かわいいものや華やかな場が苦手な姉のために、一肌脱ごうとするが……。
おすすめのポイント!
主人公の清澄を中心とした、家族6人の物語です。「男らしく」「女らしく」「母親らしく」「父親らしく」……そんな『普通』からはみ出した人々の姿を、優しく伸びやかに描き出しています。この作品を読むと、無意識に持っていた「〇〇らしくしないと」という考え方の危うさや窮屈さに気付かされるでしょう。2020年に発表されたこの作品は、第42回吉川英治文学新人賞候補作となりました。惜しくも受賞は逃しましたが、同年同作で河合隼雄物語賞を受賞しています。読む人全ての心に新たな気付きをくれる、爽やかな感動作です。
六つの短編から。それぞれのストーリーを通して家族の思いが溢れてくる。そして水青の結婚を通して疎遠だった家族がまた繋がっていく過程にワクワクした。清澄の未来も楽しみなラストでした。
3.寺地はるな『今日のハチミツ、あしたの私』ひとさじの蜂蜜のように、明日への活力をくれる1冊

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あらすじ
塚原碧は、河川敷で出会った見知らぬ女性に小さな蜂蜜の瓶をもらった。それから16年後、碧は恋人の故郷で蜂蜜園の仕事を手伝うことになる。仕事を辞め、頼りない恋人についていく形で見知らぬ土地へやってきた碧。恋人と結婚するはずだったが、思わぬ障害が立ちふさがる。養蜂家の黒江と娘の朝花、スナックのママ・あざみ、さまざまな人と出会ううち、碧の心は少しずつ変化し始めて——。
おすすめのポイント!
「ひとさじのはちみつ」が人生を変えるお話です。読んでいると美味しい蜂蜜を食べたくなります。主人公・碧は、中学時代いじめにあっていました。「明日なんて来なければいい」と思っていた日々の中で、見ず知らずの女性に蜂蜜をもらったことから、気付かぬうちに人生が変わり始めていたのです。寺地さんの描く人物は、みな地に足のついた感じがあります。何度も間違ったり遠回りして、それでも前向きに生きていく姿に、読者は勇気がもらえるのです。甘くはないけれど心に沁み渡る、そんな滋味あふれる物語です。
嫌な気持ちに自分の感情をそのままぶつけないってホント大事。少し客観的に自分を見る冷静さが必要ですね。あとハチミツ食べたい
4.寺地はるな『大人は泣かないと思っていた』がんばりすぎる大人の心を柔らかくしてくれる物語

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あらすじ
九州の田舎町に暮らす時田翼は、32歳独身だ。母は11年前に出奔し、家には大酒飲みでいつも不機嫌な父だけが居る。翼は農協勤めで、仕事は面白くもやりがいもないが、それなりに過ごしている。ある日、父から庭のゆずを盗んでいく犯人を見つけろと言われた翼。隣に住む田中絹江が怪しいと考える。小学校からの友人・鉄腕に協力してもらい見事に犯人を捕まえた翼だが、ゆず泥棒は意外な人物で——。
おすすめのポイント!
九州の田舎町を舞台に、傷つきながらもひたむきに生きる、ごく普通の人々の姿をみずみずしく描きだした作品です。この物語では、社会的には一人前とされる「いい大人たち」のつらさや苦しさ、葛藤にスポットがあてられています。大人はどんな状況にも、原則自分で立ち向かわなくてはいけません。どんなにつらくても、幼子のようには泣けません。本作はそんな大人の心にそっと寄り添うような、温かな物語集です。泣きたいときに泣けない大人にこそ読んでほしい、心震わす感動作となっています。
寺地はるなさんらしい、最高の一冊。誰かのために生まれてきたわけではない、つまり、自分の人生、自分のために生きろ、というのは、きっと皆わかっている。それでも、誰かのために頑張ってしまう、そんな優しき登場人物たち。この物語の舞台が、いわゆる「田舎」なのが、特に良い。田舎だからこその囚われ感が、痛いくらいに分かる。皆に幸あれ。
5.寺地はるな『夜が暗いとはかぎらない』 一歩一歩、地道に生きる大切さを教えてくれる

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あらすじ
大阪市近郊にある暁町。閉店が決まったスーパー「あかつきマーケット」で、マスコットキャラクターの「あかつきん」が突如姿を消した。その後、町のあちこちで目撃されたあかつきんは、なぜか人助けをしているという。町の住人たちによってSNSにその姿があげられるあかつきん。『あかつきんのしっぽをひっぱたら幸せになれる』という噂まで流れだすのだった。あかつきんが人助けをする理由とは——。
おすすめのポイント!
どこにでもありそうな小さな町を舞台に、ちょっと不思議でささやかな人間ドラマが描かれています。この本には13の物語が収められていて、それぞれごく普通の町の人々が主人公です。何気ない日常の中で嫌なことやつらいこと、面倒くさいことを抱えながらも、実直に生きる姿が丁寧に切り取られています。閉店するスーパーと行き場のないマスコット「あかつきん」を軸に描かれるさまざまな人生の中に、きっと1つは共感できるものがあるでしょう。毎日をしっかり生きていく尊さが心に沁みる物語集です。
あかつきマーケットをめぐる連作短篇集。鼻の奥がツンとするような物語たち。なかでも「バビルサの船出」がグッときた。トキワサイクルのじいちゃんの言葉が深くてとても良かった。次々と登場する人物の相関図を書いてもう一度読んでみたい。
寺地さんは、地に足を付けて前向きに生きる人間の美しさを描く名手です。今回ご紹介した作品はブクログのみなさんからも高評価の傑作を取り揃えました。ぜひ一度手に取ってみてくださいね!