トーベ・ヤンソン作品5選 〜ムーミン谷の世界に出かけよう!〜

こんにちは、ブクログ通信です。

ムーミンシリーズで有名なトーベ・ヤンソンは、15歳からイラストレーターとしての才能を表していました。1945年、終戦後の混乱期に『小さなトロールと大きな洪水』を発表。1948年に『たのしいムーミン一家』の出版を機に、世界中で大ヒット作品となります。多くの文学賞や挿絵に対する美術賞を受賞したムーミンシリーズでは、「フィンランド国民文学賞」も受賞。画家・絵本作家・作詞家・デザイナーなど精力的な活動は、2001年、86歳で天寿をまっとうされるまで途切れることはありませんでした。

そんなトーベ・ヤンソンの作品は、ムーミンシリーズだけではなく、また子ども向けのものばかりではありません。今回は、世代を超えて楽しめるトーベ・ヤンソンのおすすめ作品を5作品紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

『トーベ・ヤンソンの経歴を見る』

トーベ・ヤンソンの作品一覧

1.トーベ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水』幻の第一作目!

小さなトロールと大きな洪水 (講談社文庫)
トーベ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水 (講談社文庫)
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あらすじ

8月の終わり、ムーミンパパはニョロニョロとともにどこかに行ってしまい不在。だけどもう待っていられず、ムーミントロールとムーミンママは、冬ごもりのための家を建てようと、光あふれる温かい場所を探していました。森をさまよう彼らはおそろしい沼や荒れ狂う海に翻弄されながらも、旅を続けます。二人は家を建てる場所を見つけられるのでしょうか。そして、ムーミンパパと無事に再会できるのでしょうか。

おすすめのポイント!

全9作品のムーミンシリーズの中でも特別な本作。1945年に出版されましたが、発行部数はわずか、1991年まで再版されない幻の作品でした。ムーミンの体はふっくらしておらず、全体に漂う空気感もまるで別物のようです。一方で、今ではおなじみの仲間たちとの出会いや、ムーミンたちがムーミン谷で住むことになるまでのお話が書かれており、これまで知らなかったストーリーを知ることができます。原点を思わせる作品です。

妖精たちのさざめきを描いた作品。物語というより、観察して記録したような客観性を感じる。イラストにしたってムーミンもママも可愛くないし(癖になる味はあるけど)、物語の大部分は森が舞台だからか、なんだか鬱蒼として暗い雰囲気。それでも、「たのしいムーミン一家」よりも好きだ。ふわふわ楽しい物語よりも、泥臭い方が私は面白い。

miuさんのレビュー

2.トーベ・ヤンソン『たのしいムーミン一家』読めばムーミン谷の仲間入り!

新装版 たのしいムーミン一家 (講談社文庫)
トーベ・ヤンソン『新装版 たのしいムーミン一家 (講談社文庫)
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あらすじ

ある春の日、冬眠から覚めたムーミントロールたちは黒い帽子を見つけました。その帽子は中に入ったものをおかしな格好に変えてしまいます。卵の殻は雲になり、ムーミントロールはガリガリのやせっぽちに。そんな不思議な体験をしているうちに、実はその帽子が、謎の魔物「飛行おに」の持ちものだと分かり……?

おすすめのポイント!

ムーミンシリーズの登場人物たちは、みんなとても個性的です。優しいムーミンママに、ちょっぴり夢見がちなムーミンパパ、自由を愛する旅人のスナフキン、不思議な生きものニョロニョロ。そんなムーミン谷の日常が、ほのぼのとユーモラスに描かれています。それでいて、哲学的な内容やハッとするような心に残る言葉が多いのも、ムーミンシリーズの読み継がれるゆえんです。ムーミン作品を読んだことのない方は、まずはここから!

ムーミンシリーズ3冊目。いつの間にか住人が増えていくムーミン屋敷、その暮らしに起こる事件や冒険は、大人(四捨五入すれば五十)が読んでもわくわくする。ムーミンパパが、子どものころ「だれにも愛してもらえなかった」という一説で泣く。詳しくは次作「ムーミンパパの思い出」に書かれているのだろう。ムーミン谷、ムーミン屋敷のように懐の深い場所があるなら、住みたいなぁ。

maria98さんのレビュー

3.トーベ・ヤンソン『トーベ・ヤンソン短篇集』大人にこそ読んでほしい短篇

トーベ・ヤンソン短篇集
トーベ・ヤンソン『トーベ・ヤンソン短篇集
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あらすじ

13歳の日本の少女との、老年に至るまでの手紙のやりとりを綴った「往復書簡」。反発の先に心を通わせあう二人の紳士に人生の機微を感じる「植物園」。認知症の祖母との旅を描いた「時間の感覚」。ほか、「自然のなかの芸術」や「軽い手荷物の旅」など、無駄のない文体で書かれた20のアンソロジー短編集。創作にまつわるものや子ども時代、旅、老いについてなど、著者を形作る5つのテーマに沿って編まれたベストセレクション。

おすすめのポイント!

大人のユーモアや孤独、人生の悲哀など、決して明るいだけではないヤンソンの人間性が現れています。自然の力強さや、日照が短いからこそ新鮮に感じられる朝の光の美しさなど、自然美があちこちに描かれているところに、北欧で生まれた物語を感じます。ムーミン谷にも通ずる世界観の奥行きがあり、ムーミンだけではない、小説家トーベ・ヤンソンの素晴らしさがぎゅっと詰まった、大人向けの短編集です。

ムーミンシリーズで知られる作家の短篇集。完全に大人向けである。文体は切り詰められ、きりりと冷たいそっけなさを感じさせるが、それがむしろ心地よい。自由と孤独、そして人生の悲哀のようなものが、少ない言葉からバシバシ伝わってくる。

Pさんのレビュー

4.トーベ・ヤンソン『誠実な詐欺師』味わって読みたい長編小説

誠実な詐欺師 (ちくま文庫)
トーベ・ヤンソン『誠実な詐欺師 (ちくま文庫)
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あらすじ

北欧のある寒村に、カトリとマットは住んでいた。二人の村での評判は、愛想のない姉と役立たずの弟。人間関係もうまくいかず、村ではじきものにされた彼らは困窮していた。お金に困ったカトリは、老画家のアンナに近付き、彼女を利用しようと目論んだ。雪に埋もれた海辺にたたずむ「兎屋敷」で、薄明かりのなか進められる企み。しかし、その「誠実な詐欺」は、予期せぬ方向へと舵を切っていった。著者の初めての長編小説。

おすすめのポイント!

誠実であろう、潔癖であろうとしすぎるあまり、かえって冷徹な人物と思われ孤立してしまうカトリと、人当たりは良いが孤独とともに生きるアンナ。真逆のような二人ですが、読んでいる内に、二人は表裏一体であるという気がしてきます。老画家・アンナは、ヤンソン本人をモデルにしたのでは?と思わせる人物ですが、もしかすると、アンナもカトリも、ヤンソン自身の中から生まれたのかもしれません。大切に読みたい、上質な長編小説です。

ムーミンの作者の長編小説。北欧の冬から春にかけての景色が美しい。読んでいる間ずっと「誠実な詐欺師」とは何のことか考えていた。数字に疎い老女性画家アンナと実務的な若い女性のカトリ。カトリは雑貨店や出版社にアンナが「ちょろまかされていた」ことを明らかにしていく。他人の悪口を言わず、人の好かったアンナは段々猜疑心が強くなっていく。猜疑心の虜になったアンナは美しい春の訪れも感じられなくなってしまう。教訓的に読む話ではないのかも。世の中には芸術的気質の人間と実利的な人間がいるってことだろうか?トーべ=ヤンソンが実際に陥ったジレンマの話なのかはわからない。

ももりんかさんのレビュー

5.トーベ・ヤンソン『島暮らしの記録』大自然の中で生きるということ

島暮らしの記録
トーベ・ヤンソン『島暮らしの記録
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あらすじ

四方に水平線しか見えないフィンランドの孤島・クルーヴ島(ハル)。トーベ・ヤンソンの作品の多くは、そこで生み出された。母・ハムと親友・トゥーリッキ、そして猫のプシプシーナ。通算80年にわたるヤンソンの島暮らしは、雨の、波の、風の、鳥の歌とともにあった。気ままな島暮らしの様子は、あくまで写実的に、「記録」として語られる。厳しくもあり、優雅さも感じさせる自然との対話に、感性が磨かれる自伝的小説。

おすすめのポイント!

島暮らしというと、のんびりと豊かなイメージがありますが、それは暮らしの「理想」的な一面に過ぎません。実際に小さな島に住むという「現実」は、相応の覚悟がなければできないものでしょう。ムーミンシリーズには格言・金言が多数見られますが、哲学的な言葉を生み続けた背景には、著者の妥協のない生き方があったのではないでしょうか。ヤンソン本人もムーミン谷に住んでいたのではないかとすら思わせられる、そんな作品です。

それぞれ好きに気ままに過ごしている空気。島で母と親友と三人暮らし。理想かもしれん。

マエダさんのレビュー


自然美に憧れたり、人間くささに共感したり。ヤンソン作品を通して気付くことはたくさんあります。子どものものと決めつけず手に取ってみれば、新たな発見や心に刻まれる言葉との出会いがあるかもしれません。