こんにちは、ブクログ通信です。
横山秀夫さんは、新聞記者から作家へと転身した、異例の経歴の持ち主です。『ルパンの消息』が第9回サントリーミステリー大賞佳作受賞したことを契機に、新聞社を退社します。以後はフリーランスで漫画や児童書の執筆を続け、1998年に『陰の季節』で小説家デビューを果たしました。2000年には、『動機』が第53回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞、第124回直木三十五賞候補にも選ばれます。その後も、『半落ち』や『クライマーズ・ハイ』など、数々の名作・話題作を発表し、作家としての地位を盤石なものとしました。横山さんの作品は中国やアメリカなどでも翻訳出版され、海外でも多くの読者を魅了し続けています。
ブクログから、そんな横山さんのおすすめ作品を5作紹介いたします。手に汗握る展開、哀愁を秘めた魅力的な登場人物、アッと思わせる結末など、横山さんの持ち味を存分に楽しめる5作なので、ぜひチェックしてみてくださいね。
『横山秀夫(よこやま ひでお)さんの経歴を見る』
1.横山秀夫『ルパンの消息』 著者処女作!幾重にも絡まる謎に翻弄される、極上ミステリー

ブクログでレビューを見る
あらすじ
1人の女性教師の墜落死、警察はそれを自殺と結論付けた。しかし、15年後に突然、彼女の死は殺人だとするタレコミがもたらされる。事件当時、3人の高校生が校舎に忍び込んでいたという。3人の目的は、期末テストを盗み出すことだった。女性教師は、本当に殺されたのか?事件の時効が24時間後に迫る中、捜査陣の懸命な操作が始まる——。
おすすめのポイント!
この作品は、横山さんの処女作です。物語冒頭からぐいぐい惹き込まれ、読者は二転三転する展開に翻弄されてしまいます。24時間という、限られた時間の中で犯人は見つかるのか、事件の真相は明らかになるのか……。ドキドキハラハラさせられる極上のミステリ―サスペンス作品です。横山さんの現在の作風とは一味違う、粗削りながらも惹き込まれる文章をお楽しみください。2008年に上川隆也さんが主演を務めたテレビドラマ版もおすすめです。
さすが横山秀夫の隠し玉と言われている作品。どの場面もドラマを見ているように目に浮かぶ。内容もわかりやすく読みやすい。事件の真相を自分なりに推理しながら最後までいっき読み。
2.横山秀夫『陰の季節』異色の警察内部小説!松本清張賞受賞作を含む、必読の短編集

ブクログでレビューを見る
あらすじ
二渡(ふたわたり)真治は、D県警警務部警務課の調査官だ。人事を担当する、警察一家の要の職である。二渡は現在、天下り先のポストに執着する大物OB尾坂部の説得にあたっていた。尾坂部は、「任期は三年」という暗黙の掟を破り、二渡の説得を撥ねつけるばかりだ。尾坂部の周囲を探るうち、二渡はある未解決事件にたどり着く。やがて、思わぬ事実が浮かび上がってきて——。
おすすめのポイント!
本作の特徴は、警務課や秘書課といった、「警察の裏方」な存在が主役だということです。警察内部のしがらみや利権争い、人間関係といった、一般人には知ることのできない世界を垣間見ることができます。表題作『陰の季節』は、第5回松本清張賞において、選考委員の絶賛を浴びた受賞作です。他の収録作も、読み応えのある作品ばかりなので、ぜひ手に取ってみてください。また、本作は2000年から2004年にかけて、「陰の季節シリーズ」としてテレビドラマ化され、主演の上川隆也さんによる好演が話題を集めました。
警察小説の枠にとらわれない、粒ぞろいの短編集
世間の事件を追うだけが警察の仕事ではありません。例えば表題作「陰の季節」では、警務課の調査官・二渡の人事異動を巡る争いがテーマですが、卓越した人物描写によって、密度が濃く迫力あるストーリーに仕上げています。魅せる短編に、派手な事件は不要だと思いました。特に凄まじいのは「地の声」。どんでん返しの末の結末に何を思うか。社会に身を置く者は、常に死の恐怖と向き合って生きていく戦士なのでしょう。
3.横山秀夫『ノースライト』 淡い光のように、心に沁みとおる感動作

ブクログでレビューを見る
あらすじ
一級建築士の青瀬稔は、売れっ子建築士だった過去を引きずり、仕事もやる気も失っていた。妻とは離婚し、愛する娘とは月に一度しか会えない。友人の建築事務所に潜り込み、やっとのことで日銭を稼ぐ毎日だ。ある日、思いがけない依頼が舞い込んだ。「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」。かつてない好条件に奮い立ち、念願の「ノースライトの家」となるY邸を建てた青瀬だが……。
おすすめのポイント!
青瀬という人物を通して、熱い人間ドラマが描かれた傑作長編ミステリーです。細部まで丁寧に練られた人物像、思わず感情移入してしまう心理描写、先へ先へと興味を引くドラマチックな展開と、横山さんの筆力に感嘆させられます。建築に詳しくない人も、デザインや家づくりに興味が湧いてくる1冊です。本作は、2020年に西島秀俊さん主演でテレビドラマ化されました。宮沢りえさんや北村一輝さんといった、名だたる名優が共演したドラマ版も必見です。
バブルの浮き沈みを経験し自暴自棄になっていた建築士が、遠い過去から繋がってくる糸に導かれるように少しずつ前を向いて歩き出していく。読後感が良くてあまり言葉が出てこない。ピューと吹き抜けていった感じ。
4.横山秀夫『影踏み』 著者の新境地を開拓する、ハードボイルド・ミステリー

ブクログでレビューを見る
あらすじ
真壁修一は忍び込みのプロだ。住人が寝静まった家に侵入する窃盗犯「ノビ師」である。ある夜、真壁は忍び込んだ稲村家で異変を感じた。女が夫に火をつけようとしている——。直後に逮捕されてしまった真壁は、二年後に刑務所を出るとすぐ、稲村家を調べ始めた。夫婦は離婚していたが、何の異変も起きていないようだ。疑念がぬぐえない真壁は、女の行方を追うのだった……。
おすすめのポイント!
アウトローな主人公がカッコいい、ハードボイルド作品です。主人公の真壁は窃盗犯ですが、複雑な過去と暗い秘密を抱えています。とある理由から、稲村家の秘密を追うことになりますが、そこに真壁自身の問題も絡んで……という奥行きのある作品です。ミステリ要素ありサスペンス要素ありで、読み応えのある1冊です。7つの短編に分かれており、1話完結なので、ちょっとした空き時間の読書時にも楽しめます。2019年に映画化され、ミュージシャンの山崎まさよしさんが主演を務め、話題を集めました。
泥棒が主人公なので、他の横山秀夫の警察小説とは趣を異にするが、これはこれでハードボイルドな雰囲気がよかった。短編集だが、主人公が共通で話も微妙につながっているので、長編小説の読了感もありちょっとお得な感じ。
5.横山秀夫『真相』 人間の本性を問いかける、重く心に響く短編集

ブクログでレビューを見る
あらすじ
10年前に息子を殺した犯人が捕まった。自慢の息子だったのに、なぜ殺されなければいけなかったのか——。犯人の自供により、父親の知らなかった息子の姿が浮かび上がる。10年目にして明らかになる真実。犯人逮捕は事件の終わりではなかったのだ。(『真相』)表題作他4編を含む短編集。
おすすめのポイント!
犯罪と人間心理をテーマにした短編集です。1つの事件を背景に、個人と個人の心のぶつかり合いを描き出しています。罪を犯した者の心理、事件に巻き込まれた者の心情を、横山さんならではのキレのある筆致で巧みに切り取った名作集です。人間の感情の暗い部分、醜い部分が突きつけられる作品ばかりですが、切なさや哀しさも感じさせる、心揺さぶられる短編集に仕上がっています。本作は2005年にテレビドラマ化され、主演の小林稔侍さんの渋い演技が好評を博しました。
短編5編からなるミステリー小説。どれも面白かった。読みやすい文章な上に、主人公の内面の葛藤や暗さが巧みに描かれていて、誰しも持っている心の弱さや偏窟な人間性に心が惹かれる。物語一つ一つの「真相」が気になって進む手が止まらず、終始ハラハラドキドキした。特に「18番ホール」が印象的で、「世にも奇妙な物語」を思い出させられた。
横山さんは、重厚な人間ドラマの名手です。今回は、深みのある人物描写とスリリングな展開が魅力の作品をご紹介しました。時間を忘れて読んでしまう傑作ばかりなので、ぜひ一度手に取ってみてくださいね!