こんにちは、ブクログ通信です。
柚木麻子さんは、2008年に『フォーゲットミー、ノットブルー』で第88回オール讀物新人賞を受賞し、作家デビューしました。同作を含む初の単行本『終点のあの子』は、2010年に刊行されるとすぐに高い評価を受けます。その後も、『伊藤くん A to E』や『本屋さんのダイアナ』で直木三十五賞候補になるなど、柚木さんの卓越した文章力、表現力は多くの人を惹き付けてきました。2015年には、『ナイルパーチの女子会』で第28回山本周五郎賞を受賞しています。
ブクログから、そんな柚木さんの人気作・オススメ作を5作紹介いたします。悩み葛藤しながら成長する女性の姿を、描く力に定評のある柚木さん。その数ある作品の中でも、特に読み応えがあり読後の余韻も素晴らしい名作たちです。ぜひ手に取ってみてくださいね。
『柚木麻子(ゆづき あさこ)さんの経歴を見る』
1.『BUTTER』 有名事件をベースにした、濃厚で芳醇な欲望の物語
あらすじ
3人の男たちから次々と金を奪い、死に追いやった容疑で逮捕された女・梶井真奈子。決して若くも美しくもない彼女の姿に、世間は騒ぎ立てるのだった。週刊誌の記者である里佳は、獄中インタビューを取るために梶井に近づくことを決める。なかなか里佳を受け入れない梶井だったが、ある日、里佳が「料理のレシピを教えて欲しい」と手紙に書いたことから態度が軟化し始めた。交流が深まるほどに、里佳は梶井に心酔していく……。
オススメのポイント!
この作品は、2007年~2009年に発生した、首都圏連続不審死事件がモチーフとなっており、強烈なリアリティが感じられます。梶井という女性を通して、本作では「女らしさ」「女性としてあるべき姿」といった価値観への問題提起をしている点にも注目です。また、タイトルにあるように何種類ものバターの描写が出てくるのも、本作の特徴です。バターを使った濃厚な料理の描写と、独自の信念を持つ梶井という女性の生き様が絡み合い、どっしりと重厚な読み応えのある作品です。
人間の内面の面白さや醜さ、恥ずかしさ、清々しさ、色んな面を描き出している作品で面白い。テーマは重く思いがちでも、読んでみると登場人物の力強さや、生きていくことの前向きなパワーを感じる。食と生きることの結びつき、生活を健康に営んでいくことの大切さ、この話を読むと自分らしく生きていくことと向き合っている気持ちになる。ついつい忙しさにかまけて怠けてしまう生活だけど、こんな時期だからこそ大切にしてみたいと思った。周りの目を気にして、環境に自分を当てはめるのではなくて、色んな気持ちも受け止めて自分らしい道を見つけていきたいと思える。
2.『嘆きの美女』少しの「毒」が隠し味!女たちの本音を描いたエンタメ小説
あらすじ
25歳の耶居子は、仕事を辞めた後、引きこもりニート状態だ。外見も性格も「ブス」だから、ネットに悪口を書き連ねることでストレスを解消している。そんな耶居子の目下のターゲットは、「嘆きの美女」というサイトだ。美女ばかりがブログを公開し、美女ならではの悩みを相談するサイトらしい。美女たちのオフ会に忍び込もうとした耶居子だったが、ある出来事をきっかけに、彼女たちと同居するはめになってしまい——。
オススメのポイント!
主人公・耶居子の成長を通して、スカッと爽快な気分を味わえる物語です。物語序盤では、美女を妬んでいた耶居子ですが、美女たちとの交流を通して少しずつ心が変化していきます。さんざん凝り固まった価値観を覆すには時間がかかるのですが、そこは柚木さんならではの丁寧な心理描写が見どころです。この作品は2013年に、タレントの黒沢かずこさん主演でドラマ化されました。黒沢さんは文庫版の解説も担当しており、ドラマ・解説共に好評を博しています。ぜひ、併せてチェックしてみてください。
誰の心の中もきっといる、美人と不美人。ヤイコにも、そしてユリエにも感情移入しやすく、あっという間に読み終えてしまった。人生って、誰でも平等にハードなんだよ。良い意味で、この言葉がすぅーっと体に溶け込んでいくような読後感。さぁ、明日からまた頑張ろう。
3.『マジカルグランマ』 主人公は75歳!老後を毅然と生きる女の波乱万丈の物語
あらすじ
結婚を機に女優を引退し、主婦になった正子。75歳になった今、映画監督をしている夫とは同じ敷地内で別居中であり、5年も会話をしていない。ある日、先輩女優のすすめで、正子はシニア俳優として再デビューすることになる。CM出演も決まり、「日本のおばあちゃんの顔」とまで呼ばれるようになった。順風満帆の日々が続くと思われたが、夫の急死によって仮面夫婦であることが暴露され、日本中からバッシングを受けることに……。
オススメのポイント!
75歳の主人公・正子の、波乱万丈な物語です。この作品には、差別や偏見といった社会的問題が映し出されています。正子の活躍を通して、私たちは普段何気なく口にしていた言葉の重みや、当たり前だと思っていた価値観の揺らぎに気づかされるのです。また、75歳にして、主婦から女優へと返り咲いた正子の姿に、きっと多くの人が勇気をもらえることでしょう。「いくつになっても人は変われる」「固定概念を捨て、自由に生きよう」。本作からは、そんなメッセージが感じられます。年を取ることが楽しみになる、素敵でパワフルな物語です。
正子さんのキャラがすごく面白い。高齢化問題、セクハラ…今の日本が抱えているいろんな問題をまるでマジックのように正子さんが解決していく。エンディングもまさかの展開であっという間に読み終えた。歳をとるのもいいものだと感じる一冊です。
4.『王妃の帰還』 これはクラス内革命だ!思春期のヒエラルキーと揺れる心情を描く傑作
あらすじ
聖鏡女学園中等部2年の範子は、地味ではあるが仲良しのグループで、毎日平和に過ごしている。ある日、クラスの頂点に君臨していた滝沢美姫が、とある事件を起こした。「王妃」の地位を蹴落とされた美姫は、範子たちのグループに加わることになる。わがまま放題の美姫に、グループ内の調和は崩壊寸前だ。平和な日々を取り戻すため、範子は美姫の人気回復とグループ復帰を計画するが——。
オススメのポイント!
スクールカーストに翻弄される少女の、揺れる心と成長を描いた物語です。中学生ならではの閉塞的な学校生活と人間関係、そこに葛藤する範子の心情が、臨場感あふれる描写で描き出されています。クラスのトップから地味グループへ落とされた美姫を、フランス革命になぞらえて描いている点もユニークです。スクールカーストがテーマではありますが、陰湿ないじめ描写などはなく、カラリと明るい雰囲気の作品となっています。読めばきっと、自分の中学生時代に心がタイムスリップすることでしょう。読後の爽やかな余韻を、ぜひ一度味わってみてください。
スクールカーストとフランス革命をリンクさせた個性ある青春小説。小さい教室が世界の全てだったあの頃。その苦くも甘酸っぱい日々を思いだしました。最高のガールズ小説です!
5.『あまからカルテット』 女4人と美味しいものが織りなす、あまからい人生の短編集
あらすじ
編集者の薫子、美容部員の満理子、ピアノ教師をしている咲子、専業主婦の由香子。4人は中学からの同級生で、28歳になった今も深い絆で結ばれている。月に1度、咲子の家に集まるのは、14歳の頃から4人が大切にしている習慣だ。恋に仕事に家庭に、それぞれの悩みや壁にぶつかったとき、4人は美味しいものを食べながら解決策を相談する。ある日、咲子が花火大会で一目惚れしたという。そのお相手は……。
オススメのポイント!
美味しいものと軽い謎解き、女4人組の明るい友情物語を楽しめる連作短編集です。柚木さんといえば、作中に登場する食べ物の描写が素晴らしく、読んでいるとお腹が空いてくると評判の作家さんです。この作品でもその筆力が存分に発揮され、1話目から食欲が大いに刺激されること間違いなし!人生の甘さも辛さもほど良くちりばめられた、彩り豊かな5つの物語をお楽しみください。
職業もファッションも考え方もばらばらな4人だけど、だからこそ最強で最高な親友なんだ。そして、同じものを美味しいと感じられる同じ味覚を持っていることが、なによりも深い絆となってるんだろうな。ここまでの関係性をもった友達って、大人になってからじゃ絶対につくれない。そんな4人の絆と味覚が羨ましくなった物語。
柚木さんは、女性同士の人間関係や心のぶつかり合いを描く名手です。今回は、濃厚な人間ドラマと、繊細な心理描写の光る名作を集めました。読後の余韻も味わい深い柚木さんの作品世界を、ぜひ味わってみてください。