こんにちは、ブクログ通信です。
自著『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』を手売りし、テレビ出演もあって大きな話題となった新井見枝香さん。そんな彼女と6月13日渋谷大盛堂書店にて、吉祥寺の某有名書店員&詩人、花本武さんとのトークショー「わたしたちが書店に勤める理由と、文章を書く理由」が行われました。お二人の出会い、書店に入るきっかけ、POP論、創作する時の心持ちなど、さまざまなテーマが語られました。
トークショー登壇者プロフィール

新井見枝香(あらい・みえか)さん
東京都出身、1980年生まれ。アルバイトで書店に入社し、契約社員数年を経て、現在は正社員として某書店文庫売場に勤める成り上がり書店員。文芸書担当が長く、作家を招いて自らが聞き手を務める「新井ナイト」など、開催したイベントは300回を超える。独自に設立した文学賞「新井賞」は、同時に発表される芥川賞・直木賞より売れることもある。出版業界の専門紙「新文化」にコラム連載「こじらせ系独身女子の新井ですが」を持ち、文庫解説や帯コメントなどの依頼も多い。テレビやラジオの出演も多数。
花本武(はなもと・たけし)さん

1977年生まれ。幼稚園時代ご学友の尻にハサミを刺して年長組から年少組に降格される。清掃業、印刷会社を経て、武蔵野市吉祥寺の某書店にアルバイトで入社。その後正社員に。ブックスピストルズ、ブックストリートボーイズのメインMC。ごくまれに自作の詩を朗読する活動を行う。著書に私家版詩集『POP』『花本武の不在証明詩集』『ひとかどの男』などがある。オフィシャルサイト「電脳西荻城」、ブログ「電脳コガネイ城」。
「花本物産展」サテライト版
花本武さんは吉祥寺の某書店で多くの書籍の拡販に努め、多くの書評誌でも連載を持ってきた著名な書店員のひとり。そして詩人・パフォーマーとしても中央線を中心に活動を続けています。今回、トークショー会場で「花本物産展」サテライト版が行われるそうで、潜入取材してまいりました。
花本物産展とは、自身の来歴全体の記録集。本人いわく「他に類を見ない自分礼賛」企画。

会場に入ると、そこには大変多くの資料が並んでいます。



詩集、スクラップブック、写真・パネルなど、色々なものが並んでいます。近くのものを手にとってみると……

その近くにあった日記帳は……

花本さんは幼稚園時代にご学友の尻にハサミを刺して年長組から年少組に降格されるというトラウマがあるそうで、その頃のものだそうです。そのそばには、キン肉マンごっこをして遊ぶ大人たちの写真が。

花本物産展とは、書店員として、そして詩人としても活動を続ける花本さんの全来歴を写す鏡だったのです。新井さんも書店員としてキャラ立ちしていますが、花本さんもキャラとして別格です。そんな詩人の花本さんと、作家の新井さん、キャラ立ちしている書店員同士のトークショーは、どんなものになるのでしょうか?そのハイライト部分をお伝えします。
なおトークショーの司会は、今回も大盛堂書店の山本さん。

花本武さんの書く詩

司会:本日はよろしくお願いします。そもそも花本さんは詩にどう出会ったんでしょう。
花本さん:中学生の頃から、自分の生きた証を残したい、って思いがあったんですね。文章書くのは辛いんだけど日記を書くことだけは好きで、毎日起きたことを綴る行為が好きなんですよ。膨大な量の日記があるんですね。後世の歴史家が僕のことを調べるときに便利なようにしといてあげたいという思いがありまして。
司会:……。
新井さん:……。
花本さん:ええと、つまり僕の年譜とかを歴史家が書くときのために、日記を書かなきゃって思いがあって。逐一日記をつけているんですよ。その日記帳は通年で日付が書いてあり、日記を書かない日があると空白のページが生まれる形式です。絶対書き続けないとな、という思いで書き続けていたんです。
でも人生がヒマになっちゃった時期があるんですよ。如何ともしたがく何もしない日々が続きます。日記のネタがない。もうあまりにもすることがないんで、日記を埋めるための文字列が、ある種の詩になっちゃったんですよね。しかも文字列が、何もしない日々の積み重ねを通じて、段々と洗練されてきた。それを発表したい、と思うようになったんですよ。
司会:なるほど。
花本さん:その頃に『ダ・ヴィンチ』を通じてポエトリーリーディングをイベントで行っているカフェがある、って知ったんですね。毎週金曜夜にオープンマイクというイベントを行っていて、自由参加で自作の詩を読んでる人々が集まって盛り上がっていると。
それは高田馬場のベンズカフェって場所でした。今はもう閉店しちゃったんですが。そこにおそるおそる参加して日記帳の文字列を読み上げたら、大ウケして皆さん盛り上がってくれたんですよね。それが詩のはじまりであり、ポエトリーリーディングを始めたきっかけです。その頃の僕の詩のタイトルって全部日付だったんですよ。
詩集について
花本物産展 意外とよかった pic.twitter.com/lB7AyCFzfu
— 新井見枝香「探してるものはそう遠くはないのかもしれない」 (@honya_arai) 2018年6月13日
花本さん:そして私の『短い詩集』、600円で販売しております。ギリギリで黒字になる金額です。500円だとギリギリで赤字。そんな値段設定です。キンコーズでコピーをして算出したリーズナブル価格ですよ。新井さん、読んでいただけましたか?
新井さん:読んだ読んだ。意外と良かったよ。
花本さん:皆さんそう仰るんですけれども一番嬉しい感想ですね。
新井さん:それを読んだ時に想像の余地があって、全く想像ができないわけじゃなくて、っていう微妙な感覚が生まれる。あと自分の視点とか、見るところ、温度、感情とかが作品そのものに含まれてたところが面白い。
花本さん:ちなみにこの詩集、字が大きいじゃないですか。それは最近のおじいさんおばあさんへの配慮だったりします。
新井さん:優しい。フォントって面白いですよね。本にも色んなフォントが使われてるんだけど、フォントの種類、文字の配置で言ってることが全く違うように見えるんです。この詩集はあえてゴシックですよね。
花本さん:詩の世界でゴシックってあんまり使われていなくて、言葉だけを抽出するために匂いとかを消し、漂白したいなと思ってゴシックを選んだんですよね。やっぱり明朝体って「かっこよくしよう」って意識が出ちゃうんですよ。ゴシック体ってすごくフラットなんですよ。だからゴシック体で詩を書くってことについて、コンセプチュアルな気持ちで取り組みました。