【ブクログスタッフレビュー】酉島伝法さん『るん (笑)』

こんにちは、ブクログ通信です。

ブクログスタッフによる最近読んだ本のコラム記事!
第10弾は、酉島伝法さん著『るん (笑)』のレビューコラムです。
ぜひ、この機会にお読みいただけると嬉しいです。

酉島伝法『るん (笑)』(集英社文庫)

るん (笑) (集英社文庫)
酉島伝法『るん (笑) (集英社文庫)
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あらすじ

スピリチュアルと科学が逆転した、架空の日本で繰り広げられる不条理劇。平熱は38度で、病気の原因はクスリを飲むこと——お祈りやおまじないですべての病気を治す世界を描いたディストピア小説。

「龍の鱗」って何!?この世界はいったい何なのかを推しはかり戦慄する

酉島伝法さんは、独自の造語を多用する難解な作風で知られるSF作家。デビュー作は通常単行本では付かない「解説付き」で発売されたという逸話があるほど。今作は、氏の作品では最も入りやすいと言えよう。なんといっても舞台は(謎の未来世界ではなく)身近な私たちと同じ現代の日本のようだからだ。

ただこの世界、何かが違う。簡単にいうとスピリチュアルが一般常識として広がっているようなのだ。例えば1話の視点人物は熱がずっと下がらないのだが、医者や薬に頼るのではなく「龍の鱗」によって浄化された水(なお閼伽水と書いて「アクア」と読む)に頼るように薦められる。当然熱は下がらない。視点は常にそちらの世界からの描写であるため、ウォーターサーバーに浮かんでいる「龍の鱗」が一体何なのか、推測しかできないところがゾワゾワする。

本作は単に偽科学的なものの可笑しさを描いたものではない。3話からなる連作短編なのだが読むにつれ、どうやら薬も病院も存在するらしいなど、この世界の情報が断片的に与えられる。3話目で大きなヒントが提示されるのでお見逃しなきよう。これまでたびたび登場していた「龍」の正体を予想しゾッとする。ありえなさすぎる世界であるが、こうだったかもしれない「if」の世界を覗ける傑作だ。

(文=ブクログスタッフ・nt)

おすすめ度:★★★★☆
読みやすさ:★★★☆☆
意味不明度:★★★★★
住みたい度:☆☆☆☆☆


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