YELLOWFACE(B)

  • HARPERCOLLINS UK (2024年5月9日発売)
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Amazon.co.jp ・洋書 (100ページ) / ISBN・EAN: 9780008532819

感想・レビュー・書評

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  • どうしても数年前に生じた一連の盗作、詐称、虚偽にまつわる事件を思い出す。

    研究論文・データの捏造・偽造、現代音楽作曲家のゴーストライティング、経歴職歴学位を詐称してニュースなどに出演していたコメンテーターなど…

    このひとたちに起きた事も、ひょっとしたら日常の中で生じた大きな事象を小さな意図で掴んだことに起因してしまったのではないか、と。

    主人公June(白人女性)もまた同じく、「優秀で成功している美人のアジア人」作家の友人に起きた事故を契機に盗作に手を伸ばしてしまう。

    盗んだ作品のテーマが第一次大戦に巻き込まれ、参画を余儀なくされた中国人労働者階級(苦力)移民の物語となる。

    June自身にはアジア系、中国系とのバックグラウンドはない。旅行さえしたことない。

    作品が成功するにつれて情緒的連帯、共感と親密といったアイデンティティを「創作」し、その創られた仮面を基に話し、感じ、振る舞わざるを得なくなる。

    この仮面ももちろん、友人から「拝借」したものでしかない。

    出版社、映像制作プロダクションとの折衝、大学での講師活動、アジア人作家協会での講演などなど活動をこなすうちに、虚像としての仮面が成長する。

    およそこの高度資本主義社会において、移民大国において、アイデンティティ(社会・経済・情緒全て)の分断が生じている時代で、自ら作り上げたはずの仮面は、営利・非営利、個人・集団を問わずさまざまな主体との関係性の中で肥大化してゆく。

    全てが借り物の肥大した虚像は簡単に崩れうる。

    アジアフェティッシュ批判、ホワイトウォッシュ、人種差別とそのカウンター。

    彼女にとって借り物で競走するにはテーマがあまりにも複雑に、相互に与え与えられる影響は大きすぎていたかもしれない。

    守るためには徐々に猜疑心を強めるしかない。

    いつしかJune自身は盗作の加害者たる罪悪感よりもむしろ、人種差別をめぐる被害者としての意識の方が強まってしまう。

    P.147 I am the victim here.

    現実世界で露見したあのひとたちも、ひょっとしたら、同じようなことを、同じように体験していたのだろうか…

    そして、そういうひとたちの罪とは、いったい何だったのだろう。

    June はと言えば、本来は読書が好きで、書店が好きで、物語を書くという行為が「生きること」そのものだった。(引用.ページ数忘れ)

    それは姪に対して、スマホ依存、tiktok中毒のバカ女になるより本好きになってほしい(P.165〜 iPhone addict TikTok obsessed bitch 〜)と願ってしまうことにも顕れるし、何よりも P.318 I am innocent.my only sin is loving literature too much.というこの本最大の苦虫潰し顔にならざるをえない履き違えてしまった罪悪感に現れる。

    このJuneの語り口からは確かに純粋に読書好きである一方で、しかしやっぱり本を読まないひとたちや本好きを理解しないひとたちへのうっすらとした小馬鹿にする態度と、成功している(と感じさせる)ひとたちへの劣等感も感じさせるし、これは原初的には妹(優秀で仕事に恵まれ家族もいる。

    そして本は読まない)や母親(読書好きや作家になりたい夢に否定的)、早期に亡くしている父親対象の不在といった源泉を見出せる。
    しかし、June自身も本当はものすごく優秀で魅力的なはずなのだ。自分自身の能力・魅力をうまく使うことができなかった女性と言えるかもしれない。

    そして、このことは、あのひとたちにも生じていたことなのではないか?

    元来は純粋に研究が好きで誰かを助けたいと、音楽が好きで世界を変えたいと、スピーチや会話が好きで誰かを喜ばせたいと、感じていたのではないか?

    現在、あのひとたちは今、笑顔を取り戻せたのだろうか?

    さらに言えば自分はどうだろう。

    本を読まないひとたちをうっすら下に見ていないだろうか?

    洋書をオーディブルで「読む」というひとたちのことをうっすらと(時として明らかに)認めていないのではないだろうか?

    このような自分の偏狭さは、外国の文学を原書でもなるべく読む、世界のさまざまな物語に触れるという「多様性に触れ、洗練された教養で共感する(恥)」みたいなものとは逆向ではないか?

    そして自分に課したスローガンの背景に、やはり、劣等感と羨望、嫉妬と軽蔑が、奥底で蠢いているのではないか。

    こんなことを思ってしまう。

    本邦未邦訳なので誠に勝手ではございますが邦題を付けさせて頂くとしたら『黄色の仮面』ではいかがでしょう。

  • 目と眉のイラストが綺麗な黄色に映える、とっても目立つこの表紙。ネット上でも目に留まり、先日本屋を訪れた時にも特設コーナーに積まれて目立っていたので手に取ってみたら、去年のうちに読んでしまいたかったのに読めず、今年こそは…と心に決めて『2023年中に読了したい洋書3冊』としてブックリストに載せているうちの1冊、”Babel”を書いた作者が早くも出した新作だった。”Babel”を読んでないのに新作を読むのもな…と思ったけど、新作のほうが短そうでトピックもとっつきやすそうだったので、こちらからまず読んでみることに。オーディオで8時間半強という長さで丁度良く、ナレーターも上手く、結果的にとても楽しめた。

    【あらすじ】
    書き手としての情熱と才能は充分にあり、作家として成功することを夢見ているJune Hayward。デビュー作を発表するもあまり評価されない中、Juneとは正反対で学生時代から出版業界で認められ、ベストセラー作を発表し続けている友人のAthena Luの成功をいつも羨ましく思っていた。そんなある日、いつものようにAthenaに誘われるも乗り気でないまま彼女と飲んでいたJuneは、流れで初めて彼女のアパートに招待され、そこで意外にも楽しい時間を過ごすことになるが、Juneの目の前でAthenaが事故死してしまうという展開になる。そこで、Athenaがその日に書き上げたばかりで、誰にも内容を話したことがないと語っていた原稿が目に止まり、そのストーリーが大ヒットする可能性を瞬時に見抜いたJuneはその原稿をAthenaのアパートから黙って持ち出してしまう。Athenaが亡くなってしまった状況で、この原稿に出版という日の目を見させないのは故人であるAthenaにも申し訳ないと自分に言い聞かせ、元の原稿を磨き上げて自分の作品として発表することにしたJune。”The Last Front”とタイトルがつけられたAthenaのこの作品は、世間では知られていない、第一次世界大戦で労働を強いられた中国人達の存在をテーマにしたものであり、中国人としてのルーツを持つ彼女だからこそ書き上げられたものだったが、白人女性であるJune自身も彼女なりに中国という国についてリサーチし、”The Last Front”をより良いものに書き換えていくことに全力を注いでいき、名前もJune HaywardからJuniper Songという、実は自身のミドルネームだが、アジア系の苗字とも捉えられる可能性のある名Songに意図的に変えて出版することに決める。そんなこんなで発表された”The Last Front”は瞬く間にベストセラーとなり、Juneはベストセラー作家として脚光を浴びることになるのだが…。

    事故死した友人が書き上げた原稿を盗み、自分の作品として出版してしまうという大胆なストーリーだけど、まだまだ荒削りだったAthenaの原稿をJuneが自分の文章力やリサーチスキルを駆使してかなり手直しし、『ほとんど自分の作品だ』と思えるくらいのレベルにまで持っていったという状況で、Juneが自分の言動を正当化したい気持ちや、同時に罪の意識に苛まれてAthenaの幽霊が自分にリベンジしようとしていると信じ込んで精神的に追い込まれていく様子も、かなり共感出来てしまった。マイノリティーとされるアジア系のAthenaが中国人を題材に本を書いたらそれだけで評価されるのに、白人であるJuneが自分のルーツとは関係がない中国人について本を書くと、必要以上に厳密にジャッジされ、『白人なのにこんな話を書くのは正しいのか?』と逆人差別の標的になってしまうというのも興味深かった。そして、そんな白人女性を主人公にこのストーリーを書いている作者がバリバリの中国系アメリカ人であるというのも面白いなと思った。昔に比べ、最近ではマイノリティーな立場にある人達を保護する姿勢が世界中で見られ、それは素晴らしい事だけど、それに過敏になり過ぎてしまうと逆に過剰に批判されてしまう人達が出てくる。しかし、多様化が叫ばれる社会においては、批判される人達がいわゆるマジョリティーというカテゴリーに収まる人達であるなら、今はそんな批判を良しとしてしまう風潮があるよな…と考えさせられたし、逆にそれはまた別の意味での人種差別になり得るなと感じた。プロット的には、結局のところ盗作でベストセラー作家として認められるようになったJuneの罪が世間にバレて、制裁を食らうことになるんだろう…と予想しながら聴き進めていたけど、単純にただそれだけでは終わらずに、Juneの書き手としての執念がメラメラと燃えている様子で、この先にまだドラマが待っていると匂わせてストーリーが終わる形が新鮮で良かった。きっと”Babel”とは世界観も全く違うはずのこの作品だけど、Juneに感情移入してしっかり楽しめたし、出版業界のプロセスも垣間見れて興味深かった。そして、やはり人種問題というものはきっといつまで経っても形を変えて根強く残っていくんだろうなと考えさせられた。これからマイノリティーな立場の人達が自分達の人権を主張し過ぎることで、結果的にマジョリティーな立場の人達を意図的に攻撃していき、それが人種差別として問題になっていく…という将来も十分にあり得るよなぁ。

  • 不愉快だけど気になる本でした。

  • インパクトのある表紙ですごく良い評判を聞いていたのですぐ購入。
    主人公のJuneがAthena と大学からの友達で一緒に作者を目指して頑張っていたが、アジア人のルーツを生かした小説を出したAthenaが注目されるようになってしまい、どんどんと成功していくところを嫉妬の眼差しで見つつもJuneは友達関係を続けていた。ある日、些細なことで突然目の前で亡くなったAthena の部屋から準備していた下書きを持ち出し、WW1の中国人労働者についての歴史小説を書くことになる。それがかなり注目も集め、ベストセラーリストにも入るが、それと同時に白人であるJuneが本当に全て調べて書いたのか、Athena から盗んだのではないかとネットでは炎上してしまう。盗んでいないことを主張し、SNSで議論されていることに張り付いて鬱状態になるが、時間が経つにつれてJune は注目の的にすらならない。それもまた不満を感じてしまい、次の作品もまたAthena の下書きからインスパイアを受けたもの。SNS上ではまた盗んだ疑惑が出てしまい、同じく炎上してしまう。SNS上でAthenaの亡霊と言うアカウントからハラスメントを受け、夜眠れなくなってしまい、幻覚を見るまでになってしまう。
    白人である特権、出版業界の矛盾をうまく入り交えた話になっていてとても面白かった。
    Athena が描こうとしていた史実ではなく白人がよく見えるように編集者と完全に書き換えてしまったり、白人だからすんなり通った依頼も数々あるように思えた。
    自分が本当にゼロ→イチで書いていることを言い聞かせるようにしながら罪悪感にまみれて最終的にSNSに振り回されてしまう。
    炎上している間は本の注目を受けているので売上が見込めること、次回作のテーマを決めるために外部委託して世の中が何を求めているのかテーマの候補出しをしてもらえるシステム、炎上中に出版社側から何も声明文を出そうとせずいたところなど数々の問題点が見受けられた。
    話に出てくるキャラは決して好きにはなれないが、とにかく人種、出版業界の問題点、SNSの怖さなどの要素を入っていて良かった。
    何より作者がひと学年下で驚愕してしまった笑

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