Immortality (Perennial Classics)
- Harper Perennial Modern Classics (1999年10月20日発売)
- Amazon.co.jp ・洋書 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9780060932381
感想・レビュー・書評
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この小説、好きと思ったので3回読んだ。どうして好きなのか知りたいというのもあって3回読んだ。他の人はどう思ったのか興味があって、アマゾンの読者レビューでみると筋らしい筋はないがいい小説だ、というようなことをいってる人が少なからずいた。
筋はある。姉妹とその父、姉の夫と子ども、妹の恋人がでてくるストーリーがあり、小説全体の一部しか成してはいないが、核を成している。前半から中盤にかけてこれと平行して別のストーリー、ゲーテとその崇拝者であったベッティーナという女の話が進行する。こちらの方にでてくるのはナポレオン、ベートーベンも含む実在した人物で、内容もほとんど実話だが作者の現代的(遊び心があるという意味も含め)なストーリーテリングによって小説風に書かれている。
核の方のストーリー、仮にアニエスのストーリーと呼ぶことにして(姉のアニエスが私は主人公だと思うので)、アニエスのストーリーとゲーテのストーリーはタイトルであるimmortalityを主題として連係している。
日本語訳は「不滅」だがこれだとなんのことかわからない。訳がダメだというのでなくて、翻訳不可能なことばだと思う。「人が死んだりしてもその人とは関係のないところで着実に人の記憶、歴史の中に生き続けるふるまいやその人に関係づけられた事柄」という意味だと思う。
ゲーテの奥さんがベッティーナのあまりにも生意気な態度に腹をたてて、ベッティーナに平手打ちを食わせようとするのだが(この部分は作者の創作かもれしない!)その時にベッティーナのかけていたメガネが床に落ちて割れる。この、immortalityであるエピソードにリンクしているのはアニエスが妹のローラが泣きはらした跡を隠すためにかけていた黒のサングラスを床に落とすふるまいだ。成人女性が成人男性の膝の上に冗談半分で座るというあいまいなエロティズム(エロティズムのあいまいさ)も二つのストーリーに現れ、作者は分析、考察している。
三つめのストーリーがある。作者が一人称で語る部分でアニエスという登場人物の誕生した裏話などがアベナリウス教授との対話という形で語られる。第六章では全くちがう登場人物を出すと「予告通知」したり、小説そのものに言及するメタフィクションになっている。しかしこのメタ性には奇をてらうという(もしくは伝統的な手法に対する抵抗という)作為性は感じられない。「作者」は自然に登場し、しっくりと虚構の人物たちと肩を並べている。文学、小説というものに肩の力をぬいて向きあう作者のスタンスがこのしっくりさ、自然さに現れているようで、そのあたりを私は好きなのかもしれない。
アベナリウス教授だって実在するのかもしれない。いや、誰が小説中の虚構人物で誰が実在なのか、そんなことはどうでもいいんだよ、とクンデラはいいそうだ。そんなこと気にしないで小説の小説らしさを楽しんでいいのだ。その実践が複雑な構造をもちつつ流麗で、人生の真実のアイロニーを提示しつつもどこか軽やかで肯定的な、この小説なのだと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示