To Kill a Mockingbird (Harperperennial Modern Classics)

著者 :
  • Harper Perennial Modern Classics
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本棚登録 : 92
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・洋書 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9780060935467

感想・レビュー・書評

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  • 公民権運動を経て黒人差別が撤廃されてからまだ100年もたっていないと聞くと、私なぞはちょっと驚いてしまいます。LGBTQなど多くの性的な差別すら解消されようとしつつある昨今に対し、自分たちの父母ないし祖父母が若かったころ、アメリカではいまだに堂々と黒人差別がまかり通っていた。そして本作は、そのような差別に対する善良な人々の対応を描く素晴らしい作品でありました。

    <あらすじ>
    本作の語り手であるScoutは兄Jem、弁護士である父親Atticus、通いのお手伝いのCalpurniaとアラバマ州のMaycombという田舎町で生活をしている。とある日、父親は公選弁護士として黒人被疑者のTomのレイプの罪を弁護することに。子供たちがこっそり潜入し裁判を見届けるなか、Atticusは証人たちの偽証を暴くも、最終的にTomは有罪判決に。そればかりか…。

    ・・・
    で、本作の最も素晴らしい部分はやはりそのテーマではないかと思います。私は個人的には本作のテーマは『社会の恥部にどのように対峙するのか』という事だと考えています。具体的には、黒人への偏見ということになります。レイプ犯被疑者のTomは推定無罪ともならず偏見のもと有罪に。小学生ならがこの裁判をこっそり目撃したScoutと兄のJemは当然のことながらショックを受けます。こうした社会悪に対する父親の冷静な態度が秀逸でありました。

    “but let me tell you something and don’t you forget it -- whenever a white man does that to a black man, no matter who he is, how rich he is, or how fine a family he comes from ,that white man is trash. ” (拙訳) ”だけどこれだけは言わせてほしい、そして忘れてほしくない。黒人を騙そうとする白人が居る時は、いつだって必ずその白人はクズだ。それがだれであれ、金持ちであれ、いい血筋であれ、関係はない。”(23章)

    この判決がおかしい事を理解している近所のおばさんMs.Maudieも、そもそもAtticusが公選弁護人に選ばれたことの意味を子どもたちに諭します。本来選ばれるべきは経験の浅い弁護人であったのに、他でもない公正なAtticusが弁護人として選ばれたことは、つまりTomの無罪を陪審制というスキームの中で実現できるよう取り計らった人がいるということです。

    最終的に努力叶わずTomは有罪になり、そして死んでしまうのですが、そうしたことを含め、社会の良くない点を認知し、その仕組みの中でよりよく機能させようとする誠実さには心打たれます。『悪法も法なり』と毒杯をあおって冤罪判決に従って死んだソクラテスを想起させるかの遵法精神です。

    加えて、社会の矛盾をどう子どもに教えるのか(黒人差別の現実とキリスト教の平等理念、さらに不公正な判決)、偽証しようとした同じコミュニティの構成員を悪く言わないように諭すなど、その人の立場や境遇を推し量るAtticusの度量の広さは私には素敵に感じますが、恐らく多くの人は賛否両論あるのではなかろうかと感じました。

    そうした意味で、本作は、色々な倫理的状況が設定されており、議論の例題として非常に良い出発点になりうると感じました。

    ・・・
    英語は非常に癖のあるものでした。be動詞のスラングであるainは多用され、’で省略された表記や省略した音・癖のある音をそのまま英語表記してあったりで一部は非常に読みづらいと感じました。前半に多い米国南部の四季の移り変わりの描写は、確かに美しいのですが、読書速度を大分落としました。他方、中盤以降は裁判でのやり取りはじめ展開が早く、多少の難しい単語も気にならずに割と早く読み進められます。

    ・・・
    実に面白かったです。米国では親が子どもに読ませたくない本のランキングに名を連ねる常連作品だそうですが、私は寧ろこれを子どもたちに読ませてどう感じるか聞きたいと感じました。そして皆さんにも是非読んでいただき、その意見や感想を聞きたいとも思いました。日本では『アラバマ物語』という名前にて翻訳されています。
    そういえば、結局原題”To Kill A Mockingbird”の意味が分かりませんでした。美しく鳴くだけの小鳥を打ち落とす合理などはないという記述が作中にありましたが、黒人を小鳥になぞらえていたのか??。。。まあそんなのが分からずとも120%楽しめる作品です。

  • ついこの間読了した“The Reading List”に登場するブックリストに挙げられている8冊のうち、リストの一番上のアイテムとして取り上げられているこの作品。日本では『アラバマ物語』というタイトルで映画にもなり、誰もが知っている名作だけど、私はぼんやりと『黒人差別が題材になった本』ということしか知らず、いつか読むべきなんだろうとは思いつつなかなか手を出さず仕舞いだったところ、”The Reading List”に登場したことで今回ようやく耳読書してみた。

    感想としては…この本を称賛する人が大多数を占める中、そして”The Reading List”でも作中のキャラクター達がこの本に感銘を受けていた事も踏まえ、こういう事を言ってしまうのは気が引けてしまうんだけど、期待値が高過ぎたのもあってか、そこまで「この本は凄い!」と思えず。確かに、黒人差別を糾弾するだけでなく、物語の舞台である小さな町に住んでいる、俗に言う『変わり者』のレッテルを貼られた人間に対する偏見をも、JemとScoutという2人の子どもの純粋な目を通して描くというのは、本が出版された1960年当初は多くの支持を得るに値する作品だったんだろう。だけど、肝心の裁判シーンに至るまでがなかなか長く、かなり強めの南部訛りは耳読書では難易度が高かったのもあって、展開が気になってどんどん聴き進めてしまう!という事態にはならず、読了までかなり時間が掛かってしまった。

    でも、裁判シーンで、無実の心優しい黒人青年Tom Robinsonがレイプ犯に仕立て上げられてしまった本当の理由が明らかになった時に、彼の有罪無罪は関係無しに、白人であるMayella Ewellが口を開いた瞬間に彼の運命は既に決まってしまっていた、という事実は本当に悲しい気持ちになったし、白人とは言えヒエラルキーの底辺にいるような生活をし、友人もいないMayellaに対して黒人であるTomが同情心を抱いていたということがわかると、その同情心こそが罪のように受け止められてしまったのは、それだけ黒人に対する歪んだ差別が浸透している証なんだというのが感じられた。

    Mayellaの父親が犯人だという証拠があれほどあったのに、それでも黒人という理由だけで有罪になってしまったTomが辿る運命と、変人であるに違いないと決めつけて恐れていたBooの優しさに触れたこと、弱い立場にいる人間に手を差し伸べる人がどこかにいるということ、そして父親であり子ども達が尊敬出来る大人であるAtticusという存在によって、JemとScoutはこれからも正しく優しく育っていくんだろうなぁ、という確信を得ながら読了出来たのは良かったし、結局、他の人のことは推測は出来ても、実際にその人の立場になってみないと真実はわからないものなんだ、ということを子どもの視点から再確認出来るストーリーだった。目読書だったらもっとこの本を楽しめたのか、それとも私の心がやさぐれてしまっているが為にそこまで感銘を受けなかったのか…。むむむ。でも、やっとこの本を読めて良かったな思う。

  • めちゃくちゃ良かった。読んでいて、何度も胸がいっぱいになった。
    アメリカでは学校教材として使われていると聞いて、こんな話を授業で読めるなんて!と嫉妬してしまいそうになるくらい素晴らしい話。
    日本ではそれほど読まれていないのは、ひとえに・・・ひとえに・・・若輩者がこんなことを言うのは非常に申し訳ないけど・・・や、訳が良くないから、としか・・・(←ひそひそ声)

    どうしてこんなに長く訳が更新されないのだろう。
    続編が出た時に、ついでに新訳が出てもおかしくないのに。
    オトナの事情によるAll about moneyな理由だとしたら本当に残念。
    今日図書館で日本語版を見かけて、クライマックスあたりをチラ見したけど、「Uh huh」が「う、うん」と訳されていて、のけぞった。もちろん全然口ごもるシーンじゃないです。
    そして、感動的な邂逅のシーンでスカウトが言った「Hey」は「ちわ」と訳されていた。
    「ちわ」、て!
    ハムの衣装が脱げなくてスカウトが「pinioned」だった状態は、「私は腕を胴にくっつけてがんばった」って訳になってて、意表をつかれてつい笑ってしまった。誰もつっこまなかったのかな? すごく不自然なのに。

    実は、5年くらい前に一度、日本語版を読もうとしたことがあったのですが、あまりに昭和感あふれる訳に耐え切れず、2章目あたりで挫折してしまった。
    高度成長期のころのニッポン、な香りが漂っていて、スカウトが ”あばれはっちゃく” とかちびまる子ちゃんの世界にいるみたい。

    そのまま忘れてましたが、去年、知り合いの日米カップルに子供が生まれてアティカスと名付けたと聞き、「もちろんアラバマ物語からだよね?」と会話した後、そうか、子供の名前にしたくなるくらい良い話なんだ、と改めて気になった。そして、もう一回頑張って読もうかな?なんてぼんやり考えた数日後に、BOOKOFFの洋書コーナーでこの本を発見!
    「そうだ、原書で読めばいいんだ」とハタと気付いて購入しました。
    あの店のわずかしかない洋書コーナーで、読みたい本にタイミングよく出会える確率は奇跡に近い。神に感謝しかないです。

    原文は私には分かりづらいほのめかしとかメタファーとかにあふれていて、でも、その意味を全部味わいたい、一語たりとも見逃したくない、と思ったので、読んでいるというより、調べてるという方が近かった。でもそれも含めて読むのがとても楽しかった。

    多くの人から深く愛されている本のせいか、ほぼすべてのページの解説がネットで簡単に見つかる。
    そういう解説サイトを可能な限り読みつつだったので、読み終わるのに4か月もかかってしまったけれど、アティカスやミス・モーディがステキすぎて、ぜんぜん苦痛じゃなかった。
    逆に1冊でこんなに長く楽しめるなんてありがとう!って感じです。

    人のやさしさってことを嫌というほど考えさせられる本。
    裁判シーンでは、ハラハラドキドキした。アティカスの弁護に注目か?と思っていたのに、アティカスよりも脇役たち(メイエラとか、ディルとか、判事とか)の予想外の行動に、すっかり心奪われてしまった。手に汗握ってしまった。
    そうそう、ディルのキャラクターがたまらなかった。
    カポーティがモデルだと読んでいる途中で知ったのだけど、そういう目で見ると、ほんとカポーティにしか見えない。
    ちなみに、アティカスはまさにグレゴリー・ペックのイメージ。グレゴリー・ペックにしか見えない。

    映画も見なくちゃ~!

  • 人種差別が根強く残る1930年代のアメリカ南部でが物語の舞台。白人女性への性的暴行容疑で逮捕された黒人青年の事件を担当する弁護士アティカス・フィンチのの娘のスカウトが、当時の出来事を回想して語る。いままで読んだ洋書の中で特に心に残った本の一冊がThe Shadow of the Windでその作家のThe Angel’s Gameを前回読んだのだけど、今ひとつ物足りなくて、歴代ベストセラーというか読むべき一冊としてすすめられていたこれを見つけました。1962年に日本ではアラバマ物語としてグレゴリー・ペックの主演の名作として有名だそう。ちょうどクリスマスか正月のヒマになった時間に観てみたいと思う。物語はなんともノスタルジックな心に響く作品です。2021年の今是非読み直す価値のある本だと思います。

  • 比喩?というか、暗示というか、文学的なトリックがすごい!

  • 素晴らしい!子供達の感情や成長がとても瑞々しい。読めて良かった。

  • 原題:「To Kill a Mockingbird」
    邦題 : 「アラバマ物語」

    アメリカ南部アラバマ州メイコーム郡。 住民の誰もが親戚のような関係で、のんびりとした時間が流れる小さな町を舞台にしてジェムとスカウトの兄妹の成長していく過程を綴っていく。彼らの父であり、メイコームの弁護士でもあるアティカスを通じて、人間が持たずにはいられない偏見や差別に焦点をあて、人間として本当に大切なのは何なのか、と問いかける物語でもある。

    人種差別ででっちあげられた罪を背負った黒人少年トム・ロビンソン。そして隣人ブー・ラッドリー。何十年も家に引きこもって生活をしていたこの男は町の人々の噂になり怖がられる。ジェムは成長し、ブーの立場になって物事を理解できるようになってゆく。

    不朽の名作。この作品は絶対に読むべき。
    大切なものを教えてくれた、宝物といえる一冊である。

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