前作『ブラック・スワン』がトレーディング、リスク管理の話が多くテクニカルだったのに対し、本作は、それを現実社会の事例(医療等)に拡張しどういう社会システムを作るべきかという規範的内容まで踏み込んでおり前作よりも示唆に富む内容になってます。
今作も登場人物は古代ギリシアの哲学者からスティーブ・ジョブスまで多岐に亘り格調高く(第17章 Fat Tony Debates Socratesとか)、相変わらず経済学者(マーコウィッツ、サミュエルソン、クルーグマン、スティグリッツ、ブラインダー先生)が罵倒されてます。
タイトルの「Antifragile」を初めとして、タレブ用語が沢山でてきますが、親切に巻末に用語集が添付されてます。また、付録Iでは、「Fragile(脆弱)」、「Robust(頑健)」、「Antifragile(反脆弱)」の各概念が、グラフ(ペイオフ図や確率分布図)で判り易く、様々な場面で解説されてます。こちらを見ながら読んだ方が判り易いですね。付録IIでは、経済モデルが「Fragile」になってしまう理由(本来非線形が一般的な経済現象に線形モデルを仮定し、2次の項(コンベキシティ)を無視、パラメータを確率変数ではなく定数とみなしてしまうこと)を、マーコウィッツのEVモデル、リカードの比較優位等で、判り易く解説してます。(最後の、(べき分布ではなく)正規分布においてもパラメータ(標準偏差)推定誤差は、稀な事象になるほど、確率推定誤差が爆発的に増加するという指摘は興味深かったです。)
本書の内容を大胆に要約するならば、不確実性はどこにも存在するし、予測も計測も困難。(無理にやろうとすると「Fragile」なシステムになる。) 不確実性に対処するには、(ダンベル型を含む)「オプションの買い」の様なポジション(「Antifragile」)を取ること。自然や近代以前制度は、進化の過程で「Fragile」が淘汰され、このポジションのみ生き残っていた。ところが、近代以降、株式会社を初めとする新しい制度により、Principal –Agent 問題が発生し、自分たちが「Antifragile」になるために、他者を「Fragile」にする(≒オプションを売らせる)都合の良い制度を設計する輩が出てきた(アラン・ブラインダー問題)。このエージェンシー問題に対処するには、「Skin in the game」(身銭を切らせること)が必要→次回作 https://www.amazon.co.jp/Skin-Game-Hidden-Asymmetries-Daily/dp/0241300657 に続く。という感じでしょうか。