Blindness (Harvest Book)

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  • Amazon.co.jp ・洋書 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9780156007757

感想・レビュー・書評

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  • 先日読み終えた”The Diary of a Bookseller”のエントリーで、作者が経営する古本屋に持ち込まれた本の中にこの”Blindness”があって、それを読んだ作者が”astonishing”だったと感想を書いていた。この作品はかなり前から気にはなっていて、Audibleでオーディオブックをダウンロードしてはいたものの、聴き始めるタイミングを逃しまくってたんだけど、スコットランドで一番大きな古本屋の店主が絶賛しているのに背中を押され、やっとこさ味わうことが出来た。

    作者がポルトガル人で、原作が英語に翻訳されているのを耳読書したけど、物語の舞台は近未来でもなんでもなく、今現在の、世界のどこかにある街。ある日いきなり、一人の男性が車を運転中に視力を失い、この男性が妻と共に訪れた眼科医のクリニックから、感染病のように周りの人達も次々と視力を失っていく。政府はその流れを食い止めようと、既に視力を失ってしまった人達と、まだ視力はあれど盲目になってしまった人々と接触していずれ視力を失うだろうとされる人達を、整備もろくに整っていない施設に監禁し、軍隊に監視させる形で対策を取ろうと試みる。感染を恐れる軍のメンバーは、中にいる人々に食料を運ぶのはもちろん、どんな形でも接近するのを最大限に避け、監禁された人々は食料不足で飢えだし、施設内の盲人達の間では権力争いが勃発し、少ない食料を巡って貴重品を通貨のように扱い出したり、女性達がリーダー格のグループに体を差し出す代わりに食料を分けてもらったり、そんな中でシャワーも浴びれずトイレにも自由にたどり着けない盲人達の体が放つ異臭と、絶望感。この地獄からどうにか脱出しようと、盲人の一人が起こした放火を機に、必死で生き延びた人々が外に出ると、軍隊全員も視力を失ったせいで監視する者が誰も周りに残っていない施設の周辺。でも街中の全員も視力を失い、社会全体の機能が停止してしまっていて…。

    という、最初から状況がぐんぐん悪化していき、聴き進めるごとにどんどん気が重くなるストーリーでした。社会が崩壊していく様が淡々と描写されていて、恐ろしい。キーパーソンは、眼科医の妻。最初に盲目になってしまった、車を運転していた男性の妻や、彼を診療した眼科医はすぐに視力を失ってしまったのに、眼科医の妻だけは、夫に付き添って盲人のフリをしながら隔離施設に入れられた後も、そこから脱出した後も、ずっと視力を保ったまま。彼女がいなければ、眼科医率いるグループが生き残ることは不可能だっただろうし、物語自体の流れが全く違ったものになっただろう。まだ目が見えるたった一人の存在として、立場を横領されないように、自分の視力のことは夫以外には隠しつつも、周りの人々を手助けしたり、守ったり、誘導したり、でもその分、目にしたくもない社会のおぞましい現状が目に飛び込んできて、「いっそ私も目が見えないほうがいい」と願ったり。五感の一つが欠けるだけで、社会の秩序がこんなに崩れてしまうのか…生き残る為とはいえ、人間ってお互いにこんなに自分勝手で残酷になれるのか…と、愕然とした。これもまたある種のディストピア作品で、最後の最後に待っている希望に辿り着くまで、延々と生々しい人間らしさが描かれ続けていて、読んで楽しい作品では決してない。けど、こんな地獄みたいな状況の中でそれでもお互いに助け合おうと協力する人達の、これまた『人間らしさ』にも心が救われるし、普段当たり前に思っている『見える』ということが、改めてどんなに有難いことなのかがわかる。一度読んでみる価値のある本だと思う。

    と、こんなことを考えていたら、三重苦のヘレン・ケラーなんか偉人過ぎて言葉が出てこないと思ってしまった…。

  • 選択課題図書リストに入ってて、かつディストピアン小説に興味があったから読んでみたら、大当たり。

    一文をコンマなどで長くつなげていたので、途中から主語を忘れてしまいそうになったくらいです。会話文の書き方も独特で、あえてクオテーションマークを使わないでいるところ、地の文と同じ文や入れてしまうところがよかったです。

    話はみんなの目が見えなくなる、というものです。前述の文体がその盲目状態とうまく符合していて、読者自身も盲目の中にいるような気分になれました。

    人間の醜い部分をリアルに描いていて、すごくよい作品だったと思います。

  • 高校時代に初めて手にとって以来、何度も何度も読み返している本。

    視界が真っ白になる伝染病が、世界中に広がっていく。政府は患者の隔離を行うが、秩序は乱れ、人間の汚い部分がむき出しになってく。
    見えないことをいいことに、いかに文明は堕ちて、人間性は堕ちていくのか。
    非常に冷めた視点で、世界のなれの果てを眺めてる感じ。凄く背筋凍る。

    全てが空想、でもこれはシュリールの世界だよね。
    少数の抑圧抹消と、抑圧される人たちの中での秩序崩壊。
    「見えない」ことは、力にもなるってこと。悪い意味での。


    文体が独特。ピリオドもクオーテーションマークも使わずに、とにかく何行も一息で読ませにかかってくる。
    どれが誰の発言か、どこで一文が切れてるのか微妙なこともあるけど、緊迫感あって好き。



    blind people who can see, but do not see.
    白い闇が去った後、世界が目にするものはあまりにもあっけなくて、でも真実。
    瞳で見えるようになっても、でも見えてないものが多いんじゃないかって恐怖。
    なんか一時期絶版になっちゃったらしいけど、去年あたり映画化されました。私的には映画より本の方をお勧めします。

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