The Selfish Gene (Oxford Landmark Science)

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  • Oxford Univ Pr
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  • Amazon.co.jp ・洋書 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9780198788607

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  • The Royal Academyが2017年に行った投票で"the most inspiring science books of all time"の1位にも選ばれた、世界的なベストセラー。
     2年前に日本語版(『利己的な遺伝子』)を読んでいるが、再読。生物学が専門というわけでもないし、特に原書にあたる必要はないのだが、ちょうど英語の勉強をしなければならない事情があったので。

     ダーウィンが提唱した進化論だが、当初のそれは生物個体を中心に捉えるものだった。つまり、個体は自らの子孫をできるだけ多く残そうとし、その目的を達成するための手段が遺伝子だという見方である。しかし、このようなナイーブな個体優位の考え方では、社会的昆虫などに見られる利他的行動を説明できない。利他的行動は自身の子孫を残すことに何も寄与しないだけでなく、限りあるリソースを無駄に費やす損失になるからだ。この問題を解決するために提案されたのが、遺伝子を個体よりも優位に置く「遺伝子淘汰論」である。本書で、ドーキンスは「個体は遺伝子の乗り物である」という新しい生物観を広く世に知らしめた。個体が遺伝子を利用しているのではなく、逆に遺伝子が自己を増やすため個体を利用しているというのだ。
     本書は、遺伝子淘汰論を世間に広めたという科学啓蒙上の意義だけではなく、純粋に読み物として読んでいて面白い。自然淘汰の理論だけではなく、自然界で観察される生物たちの具体例が多く紹介されているのは理解を助けてくれる。"oarsman"など印象的なたとえ話も良い効果を上げている。また、語り口にいかにもイギリス人らしい捻ったユーモアがあって、時折ニヤリとさせられる。
     一点疑問に思ったのは、遺伝子淘汰論は果たして実証できるのかということである。確かに遺伝子淘汰論は利他的行動を含め生物の進化をうまく説明しているように思われるが、他の理論でも説明できるかもしれない。結局、進化論というのは「解釈」の問題なのか?(僕が思いつくぐらいだから、生物学の中で何らかの説明はされているはずだが)

    以下、各章のまとめ。

    1 Why are people?
    "I shall argue that the fundamental unit of selection, and therefore of self-interest, is not the species, nor the group, nor even, strictly, the individual. It is the gene, the unit of heredity.(p.11)"
    筆者は、生物個体ではなく、遺伝子を自然淘汰の中心に置く立場に立つ。

    2 The replicators
    "They are in you and in me; they created us, body and mind; and their preservation is the ultimate rationale for our existence. They have come a long way, those replicators. Now they go by the name of genes, and we are their survival machine.(p.20)"

    3 Immortal coils
    "Each entity must exist in the form of lots of copies, and at least some of the entities must be potentially capable of surviving---in the form of copies---for a significant period of evolutionary time. Small genetic units have these properties: individuals, groups, and species do not.(p.33)"
    生殖と進化の仕組みについて。
    筆者は、自然選択の働く単位は、進化の時間スケールと同程度の寿命と、他の同様な単位からの独立性を有することが必要であると述べる。そして、この条件を満たしているのは「遺伝子」だけである。遺伝子は、自らのコピーを残し続けることで不滅になる。

    4 The gene machine
    "The genes are master programmers, and they are programming for their lives. They are judged according to the success of their programs in coping with all the hazards that life throws at their survival machines, and the judge is the ruthless judge of the court of survival.(p.62)"
    より優秀な個体をプログラムできた遺伝子は、その報酬として次の世代にコピーを残し、遺伝子プールの中で拡散する。注意しなければならないのは、筆者が本文中で再三にわたって強調しているように、遺伝子は意志を持って振る舞っているわけではないことだ。単に淘汰の結果として優れた(生存に適した生存機械を作り出す)遺伝子が残るというだけで、軽いものは水に浮き、重いものは沈むといったそういった類いのものである。それを結果として見ると遺伝子は「利己的な=自己の利益を最大化する」存在に見えるわけで、遺伝子に意志があろうがなかろうがまったく関係がない。

    5 Aggression: stability and the selfish machine
    では、遺伝子が「とるべき」最善の方策は何だろうか。それを説明するのが「進化的に安定な戦略」の理論である。そこでは、環境から与えられた報酬とコストの中で、自らの利益を最大化するような戦略をとる個体が生き残るとする。

    6 Genesmanship
    "But now we are emphasizing that 'it' is a distributed agency, existing in many different individuals at once. [...] a gene might be able to assist replicas of itself that are sitting in other bodies. If so, this would appear as individual altruism but it would be brought about by gene selfishness.(p.88)"
    個体レベルにおける利他的行為を説明するために、「血縁度」という概念を導入する。個体Aと個体Bの間の血縁度とは、全ゲノムのうちAとBが共有する遺伝子の割合の期待値である(例えば親と子では1/2)。

    7 Family planning
    多くの遺伝子を次世代に残そうとすればたくさんの子どもを産めば良いわけだが、子どもの数が増えるに従って育児にかかるコストも増大する。この兼ね合いをどうするか。

    8 Battle of the generations
    親子間の対立。
    子どもは、親からより多くの投資を得るために彼らを「騙そう」とする。

    9 Battle of the sexes
    "One group of individuals has large sex cells, and it is convenient to use the word female for them. The other group, which it is convenient to call male, has small sex cells. [...] it is possible to interpret all the other differences between sexes as stemming from this one basic difference.(p.141)"
    雌雄間の対立。
    子ども1個体にかけるコストを減らすことができれば、その分多くの子どもを残すことができる。そこで、雄と雌はできるだけ多くの負担をお互いに押し付け合おうとすることになる。但し、雄と雌の間には非対称性がある。つまり、雄が1つの精子を作るのにかかるコストと雌が1つの卵子を作るのにかかるコストを比べると圧倒的に前者の方が低いという点である。このため、雄はパートナー(雌)と子どもを残して別のパートナーとの間に新たな子どもを作るという戦略を取れるが、雌はこの戦略を取ることができない(交尾の段階で既に雌は雄より多くの投資をしているから、残されたパートナーが子どもを放棄するという報復行為をとることによって失うものが大きい)。それでは雌は雄に搾取される一方かというと、そんなことはない。雌は、交尾を拒絶することができるという切り札がある。雄に長い求婚期間を強要することで、それを我慢できる誠実な雄だけをパートナーに選ぶのである。

    10 You scratch my back, I'll ride on yours
    社会的昆虫が見せる「利他的行動」を、利己的遺伝子論はどのように説明するのか。鍵となるのは、彼らの特異な性決定システムである。アリやハチなどハチ目に属する昆虫は女王が産む卵で増えるが、その際受精卵は雌に、未受精卵は雄になる(半倍数性性決定システム)。血縁度で考えると、働きバチは彼女ら自身の直系の子孫を残すより姉妹を残す方が、遺伝子の拡散に資するところが大きい。このようにして、ひたすら女王バチに献身している(ように見える)働きバチの利他的行動が、遺伝子レベルでの利己性によって説明できるのだ。

    11 Memes: the new replicators
    "I think that a new kind of replicator has recently emerged on this very planet. [...] The new soup is the soup of human culture. [...] Examples of memes are tunes, ideas, catch-phrases, clothes fashions, ways of making pots or of building arches. Just as genes propagate themselves in the gene pool by leaping from body to body via sperms or eggs, so memes propagate themselves in the meme pool by leaping from brain to brain via process which, in the broad sense, can be called imitation.(p.192)"
    ドーキンスは「自己複製子」の概念を拡張して、文化にも適用した(「ミーム」という言葉はもともとこの本で考案された言葉)。

    12 Nice guys finish first
    "They do not have to do down rivals in order to benefit themselves. Without departing from the fundamental laws of the selfish gene, we can see how cooperation and mutual assistance can flourish even in a basically selfish world. We can see how, in Axelrod’s meaning of the term, nice guys may finish first.(p.224)"
    利他的行動を、ゲーム理論を用いてより詳細に考察している。
    「囚人のジレンマ」という有名なゲームがあるが、そこでプレーヤーがとるべき最善手はともに「裏切り」である(ナッシュ均衡)。しかし、このゲームを繰り返すとどうなるか。それは、裏切り者に対して報復ができるということである。これによって「裏切り戦略」は駆逐され、互恵的な形で「協力戦略(より正確にはしっぺ返し戦略)」が集団内で優勢になり得る。

    13 The long reach of the gene
    遺伝子がとる戦略にはどのようなものがあるか。一つは、「緑の眼」や「長い首」、「硬い甲羅」など個体の身体に、生存に有利な影響を及ぼす戦略である。しかし、他にも「周りから拾ってきた材料で巣を作る」といった個体がとる行動に影響を及ぼす戦略や、「性細胞が作られる際、95%の割合で自身を割り込ませる」といった生殖システムに介入する戦略もある。筆者は、このような遺伝子が外界に及ぼす影響を広く捉え、"Extended phenotype"と名付ける。

  • The theme of this book is that we are all survival machines for genes, driven by the selfish nature of genes through the process of natural selection. This somewhat resembles “the view of human nature as fundamentally deprived” proposed by the ancient Chinese Confucian philosopher Xunzi. The point both this book and Xunzi insist on is that we are not bound to obey our true nature. Fortunately, the world is filled with examples proving that people can learn to be altruistic. However, in order to lead ourselves to act in a better way, we must start by accepting the facts presented in this book.

  • 2022.01.28 社内読書部で紹介を受ける。『利己的な遺伝子』の原著。蟻の動物行動学の研究から生まれたらしい。MEMEという概念も本書の中で述べられている。

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