Never Let Me Go (Movie Tie-In Edition) (Vintage International)
- Vintage (2010年8月31日発売)
- Amazon.co.jp ・洋書 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9780307740991
感想・レビュー・書評
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この物語の凄さは一定の「不安定さ」を読んでいる間同じレベルで保ち続ける淡々とした語りです。真実を垣間見せながらもその不安定さを最後まで引っ張っていって真実が明らかになる。決して複雑な話ではなく、こうなんだろうなと思いながらも最後にその不安定さの出所を感じ取る。私が感じたひとつは深い倫理観。
物語の構成上詳しくは語れないのですが、本を通じてまたイギリスを旅した気分になりました。なだらかな丘が続き、木々の中にあるHailshamの石作りの寄宿学校。閉ざされた世界の中で子供達が作品を作ったり、ひそひそ話をしたり。いつか来るその日に向かって繰り広げられる彼らのファンタジー。淡いはかない思い。外の世界はその対比として、現実として語られます。イギリス海岸沿いのの曇った日の風景。降っては止む雨は心をうつしているよう。
そんな風景を思い浮かべながらこの本を閉じました。
心情や風景描写がとても細やかで、一つ一つ薄いベールをはがしていくようにして語られる物語。めくられた中にあるのは孤独ではりめぐらされた深い悲しみに満ちた空虚のような世界。私はそう感じました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
なにがなんだか、よくわからないままに始まり、いくつもの謎を残したまま進み、美しくも悲しいラストを迎えます。科学技術とは、医療とはそして人の尊厳とはどうあるべきなのか。あらかじめ定められた運命に、静かに、それでも力強く抗う姿が、哀しく切なく、ただただ涙を流しました。
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よかったです。
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自分の英語力ではよく分からなかったので、途中で映画の評判や書籍のレビューなどを見てある程度の基礎知識を付けて読んでしまった。
part1のhailshamはゆったり物語が進み、part2後半のnorfork trip以降は一気にストーリーが加速していく感じになる。英語なのになんとなく情景が浮かんでくる感じに描写されてて、雰囲気のある作品でした。
carerとか、donorとか、guardianとかその辺りの頻出単語が分からなかったのですが、ある程度分からない状態のまま読むのが良かった訳ですね。恐らく。 -
この前映画化された「私を離さないで」の原作。
映画は知らずに評判になっていたというくらいの感覚で読んだので、
最初はホラー系の本なのかと思った。
読み進めていくうちにだんだんと物語の構成も分かってきて、それほどホラー要素はないことがわかったんだけれど、それでもHailshamの生徒たちの何気ない生活、平穏な時間の流れと、いつか受けるdonationを当たり前のように、自分の人生の通過点のように捉える生徒のなんというか「何も起こらなさ」が少し不気味でもあった。
信じられない世界観で、でもそこにはまったく自分たちと同じ人間が暮らしている。同じようなことを考えるし同じようなことに幸せを感じて、悲しみを感じる事もある。
なんとも不思議な本でなかなか引き込まれる内容だった。 -
Kazuo Ishiguroの作品は、The Remains of the Dayもそうだったけれども、どうもほかの作家とは異なるモチベーションで本を書いているように感じる。それは文体に依るところが大きいのだと思う。
一人称の視点での言動の奥に内在するどうしようもない切迫した感覚や、他者の内奥に触れられないもどかしさ。KathyもStevensもメランコリックな気分に浸ろうとしているわけではない。innate flawsといった感覚。たいていの本では、そういった人物は体験を通じて自分自身や外界との距離を見出していくわけだけれど、Kazuo Ishiguroの登場人物たちはそういった葛藤はあまり明示的に表現しない。じゃあ何のために語っているのかというと、それはこの本の主題のひとつ。
Kazuo Ishiguroの場合、語り手の視点は聴き手を向いている感覚がある。感覚や思考過程が語られるかどうかは語り手に委ねられる。よく考えるとそれは自然なことで、物語としての必然性とは独立した語り手の体験を、追憶として聴くことで、その世界に生きる人々の生活を追体験するような感覚を受ける。それがほかの作家にはない不思議な経験を読者に感じさせるのだと思う。
(といった漠然とした感想はwikipediaにすっきりとまとめてあった。)
文学としてはThe Remains of the Dayの方がずっしりと重みがあったけれど、物語としてはNever Let Me Goのほうが面白かった。ちなみにAudiobookで聴き通したけれど、この抑制された小説をとても素晴らしく表現していた。
(以下wikipedia"Kazuo Ishiguro"の引用)
The novels are written in the first-person narrative style and the narrators often exhibit human failings. Ishiguro's technique is to allow these characters to reveal their flaws implicitly during the narrative. The author thus creates a sense of pathos by allowing the reader to see the narrator's flaws while being drawn to sympathize with the narrator as well. This pathos is often derived from the narrator's actions, or, more often, inaction. In The Remains of the Day, the butler Stevens fails to act on his romantic feelings toward housekeeper Miss Kenton because he cannot reconcile his sense of service with his personal life.
Ishiguro's novels often end without any sense of resolution. The issues his characters confront are buried in the past and remain unresolved. Thus Ishiguro ends many of his novels on a note of melancholic resignation. His characters accept their past and who they have become, typically discovering that this realization brings comfort and an ending to mental anguish. This can be seen as a literary reflection on the Japanese idea of mono no aware. -
クローンたちがなぜ己の運命に抗わずに、むしろそれを受け入れてしまうのか。「闘争する主体」はなぜ形成されないか、について考えさせられる本。
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読み終えた後の余韻。暗いけど、どっぷり浸れる・・・The Remainds of the Day も読んでみようかな。