My Name Is Red: A Novel (Vintage International)
- Vintage (2002年8月27日発売)


本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
本 ・洋書 (432ページ) / ISBN・EAN: 9780375706851
感想・レビュー・書評
-
世界の小説を読む第1冊目トルコ
「私の名前は紅」オルハン・パムク
16世紀イスタンブールで、細密画家の一人が何者かによって殺害される。「私は死体」という衝撃的な死体の一人称から物語は始まり、各キャラクター、終いには犬の絵や赤の顔彩までもが物語を紡ぎ始める。押し寄せる西欧の文化に対する羨望、嫉妬、侮蔑に恐怖。既存の宗教に対する畏敬と疑念。それぞれの人間が胸に抱く葛藤は誰しもが共感できる。絵を描くとはなんぞやーというある種永遠のテーマにも非常に考えさせられた。面白くはなかったが、一つの時代の一つの世界の人々が囚われた普遍的なテーマは、現代どこにいても通ずるものがある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
以前に「雪」を読んだトルコのノーベル賞作家、オルハン・パムクの「わたしの名は『紅』」です。
「雪」で訳文に疑問が残ったので、今回は最初から英訳で読みました。
16世紀末のトルコ、イスタンブールで、一人の細密画家が殺されます。実は彼を含む4人の細密画家は、ある政府高官の指導のもと、Sultanのために新しい本を製作中でした。殺人はその本が原因なのか?どうやら殺人犯は残りの3人の細密画家の一人らしい…。
この殺人事件と、高官の甥でペルシャから帰ってきたばかりのBlack、高官の娘で未亡人のShekureの恋がストーリーの軸をなしています。
各章色々な登場人物の一人称語りで、いきなり「わたしは死体だ」から始まり、Blackが、細密画家たちが、Shekureが、犬が、コインが、殺人者が、話を語りついで行き、飽きさせません。
ただ、ミステリー、ラブストーリーとしての筋を追ってしまうと物足りない感じが残るかも。
むしろ、背景にあるトルコの世情や、細密画をめぐるものの考え方、東洋と西洋の衝突と融合と、ということこそが楽しみどころだ、と気づいてからが俄然面白くなりました。
小説の舞台は1591年、隆盛を誇っていたトルコが、レパントの海戦でスペインやベネチアに敗れた数年後に設定されています。それまで、トルコ、ペルシャ、中国といった東洋こそが先進国で、中世ヨーロッパは野蛮な異教徒の住む辺境だったはず。その西洋に追いつき追い越され、彼らの技術や芸術にあこがれつつも、認められない気持ちがある。しかもイスラムの教えに反する西洋の考え方を、受け入れるわけにはいかない部分もある。
上り詰める所まで上り詰めたトルコが、まさに今坂道を転がり落ち始めようとしている、そのことに登場人物たちも気づいています。
16世紀のトルコは、酒やコーヒーを飲み、音楽を楽しみ、挿絵としてなら「偶像」であるはずの絵画も許されるなど、世俗的な部分を容認することで文明の発展を享受してきましたが、その反動として過激な宗教右派が台頭してきている様子も描かれます。
現代のトルコに生きる作者自身の葛藤が、絢爛たる細密画の世界と、(細密画のテーマとして好まれた)昔話のような恋・殺人を通して描かれていて、主筋よりむしろ寄り道・挿話が小説を豊かにしていると感じました。
16世紀のトルコと聞いて興味をそそられる人なら、ぜひ。
OrhanPamukの作品





