忘れてしまいたい記憶を、雪降る橋の上からひゅーっと落として。許し難いと思っていた人を、否、実はその分身であった自分自身を許す話。
アトウッドの半自伝的小説と言われているだけあって、情景とトロントへの思いのようなものがとても鮮明に伝わってくる。9歳から大人へのイレインの人生に時に感情移入し時に心揺さぶられているうちに、思い出さないようにしていたあれこれが私の中でも去来して、あれ、こういうことを忘れたくて読んでたんじゃなかったっけか、私。
人はみんな弱いね。けれどちょっと愛おしかったりもするよね。いじめる側にある悲しみや、イレインとコーデリアの立場の変遷や攻防にぞくぞく。
それにしてもeye、見ること、絵、twins等といった全体に貫かれているテーマは分析のしがいがありそう。作り込まれ方も重厚。のちのAlias Grace、The Blind Assasinの創作の原形・重なる断片があるなとも感じました。アトウッドらしい。