- Amazon.co.jp ・洋書 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9780385609517
感想・レビュー・書評
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久しぶりにジョアン・ハリスの小説を読む。5作品目かな?この本は古本屋で3ドルで買ったのだけど、開いてみたら筆者のサイン入りでびっくりした。好きな小説家なので、得した気分♪
作品自体は、とても実験的。インターネット上のジャーナルを載せるサイト(言ってみればブログだけど、フィクションを書いていくサイト)にネットネーム"blueeyedboy"が殺人犯の視点からミステリーを書いていく。その内容に読者から様々コメントが寄せられる。ネット上のフィクションであるのだけど、コメントを残す人とblueeyedboyは現実世界でも接点がある場合があり、その中でもblueeyedboyと秘密を共有するAlbertineとのやり取りがストーリーのエンジンになる。
blueeyedboyは屈折した性格を持ち、彼のフィクションの最終目的は「母親殺し」。共感覚(synesthesia)を持つblueyedboyはそれが特別な力だと、母親に大きな期待を寄せられ、そのプレッシャーの中育つ。近所に住むsynesthesia研究者、ピーコックの庇護を受け、エリート校に進学させられたり、厳しい体罰、いじめなどを経て年齢を重ねる。周囲からも特別視されていた彼の生活は、盲目の少女エミリーの登場で一変。彼女は盲目でありながら、「色が聞こえる」という特殊能力を持ち(これも母親の期待に応える為の狂言なのだが)、そのため周囲のblueeyedboyに向けていた興味は彼女に移る。
この大きな筋に絡む、兄弟たちの確執、エミリーとAlbertineの関係、母親たちの執拗なまでの「成功」に対する執着などが描かれ、最終的に、誰が誰をターゲットとして傷つけようとしているのか、守ろうとしているのか、イタチゴッコのサスペンスになる。
ストーリー自体がインターネットに投稿されるフィクションとしてblueeyedboyによって書かれる部分と、albertineによってかかれる部分、そしてウェブ投稿ではなく本当の世界であった話としてかかれる部分と分かれ、かなり複雑な構造をとっている。注意して読んでいても、プロットに引き込まれるうちに、どこからフィクションで、どこがフィクションの中のフィクションなのか分からなくなっていく。
ジョアン・ハリスの作品の中ではおそらく最もダークじゃないかな・・。いつも子どもたちの残酷で純粋な心情、また、母親の執着、愛情を描く。今回はその影の部分を色濃く表現した作品だった。synesthesiaと盲目の少女を軸に置いたことから、「色」が主なテーマになっていて、その考察も興味深かった。
最後は怖すぎて、ドキドキして、かなり早く読んでしまった。
*synesthesia:ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる一部の人にみられる特殊な知覚現象をいう。 例えば、共感覚を持つ人には文字に色を感じたり、音に色を感じたり、形に味を感じたりする(ウィキピディアより)詳細をみるコメント0件をすべて表示