スペンサーシリーズ第32作目。邦題は「冷たい銃声」。
ホークが仕事がらみで撃たれて重傷を負った。スペンサーは彼のリハビリを助ける。そして、回復したホークは、自分を撃ち、自分の仕事の依頼主とその家族を殺したウクライナ人ギャングへの報復を計画する。ホークの目的は、ウクライナ人ギャングを壊滅させ、唯一生き残った依頼主の息子のために彼らから金を取ることだった。スペンサーは無条件でその計画を手伝う。それが自分の主義に反することだ、とわかっていても。
第24作目のSmall Vices (悪党)に登場した殺し屋、Gray ManことRugarが登場する。前回はスペンサーの命を狙っていたが、今回はある人物の紹介でホークが雇い、スペンサーたちとチームを組むことになった。その他、ボストンの犯罪界の中で黒人たちのボスであるトニー・マーカスもからんでくる。トニーの右腕を勤めるレナード、そしてホークとスペンサーの古い知り合いであるヴィニー・モリス。最強の男たちが、ボストン犯罪史上最悪のウクライナギャングたちに立ち向かう。
スペンサーとホークの身を案じながらも、彼らをよく理解し、助言すらするスーザン。ホークを愛しているがその生き方についていけない恋人のセシル。二人の女性の葛藤も描かれている。
セシルは、シリーズのはじめの方のスーザンと似ている。彼女はこの巻の様子からすると、結局別れを選ぶのかもしれないが、戻ってきて欲しいなあ、と思う。ホークは妥協はしないけれど、彼女のことを間違いなく愛していた。スペンサーがスーザンを追いかけたようには、彼は彼女を追いかけはしないのだろうけれど。そこが切ない。
この巻はホークが主人公である。ホークのしたいことに葛藤を感じながらも、無条件にサポートをするスペンサーの心も描かれる。しかし、負けたことが無い、動揺したことがないホークが、スペンサーがSmall Vicesで経験したように生死の境をさまよい、そして長期にわたる過酷なリハビリをこなして復活していく。彼を突き動かしていたのは、
「自分が自分であるために何をするべきか」
ということだった。ホークが出した答えは、ウクライナ人ギャングの殲滅と依頼主の子供のための資金をウクライナ人ギャングから搾り取ること。
この巻を読んでいると、池波正太郎の名作、「仕掛人梅安」の主人公梅安と彦次郎の友情を思い出す。池波正太郎とパーカーはどことなく似ているのだ。そのことについてはまたどこか別の機会に論ずるとして・・・。
このシリーズを読み進んできたからこそ、この巻でのスペンサー、ホーク、そしてスーザンの気持ちがそれぞれよく理解できる。
読み応えがある巻だった。