スペンサーシリーズ第35作目。邦題は「昔日」。
妻の浮気調査を依頼されたスペンサー。浮気相手は大学教授である妻の同僚だった。ホークの協力を得て盗聴装置をしかけ、二人の会話を録音することで、スペンサーは依頼人ドハーティがFBIの人間であること、浮気相手のアルダーソンは妻からドハーティの情報を得ようとしていたことがわかった。アルダーソンはどうやら何らかのテロ組織を運営しているらしい。
しかしスペンサーはその部分をカットし、浮気の証拠となる会話の録音だけをドハーティに渡す。ドハーティの妻は家を追い出され、盗聴テープを返して欲しい、とスペンサーに頼みに来た。まもなく、ドハーティも妻もほぼ同時に殺された。
スペンサーの中で、スーザンが昔彼を捨てて他の男と一緒にいた時期の記憶が甦った(第12作の「キャッツキルの鷹」)。その過去の傷とドハーティの事件が重なりあい、スペンサーはアルダーソンの秘密を暴き、何らかの形でドハーティの恨みを晴らそうと、依頼人がいなくなった後も捜査を続ける。その一環として、盗聴テープを餌にアルダーソンと接触し、恐喝するふりをした。そしてスーザンが狙われるようになることを予想し、西海岸からチョリョ、そしてボストンのヴィニーがホークとともにスーザンを守りながらスペンサーはアルダーソンの身辺を洗う。そしてアルダーソンもまた、スーザンを狙ってきた・・・。
アルダーソンの正体やその組織の謎も手に汗握る展開だが、何よりもこの本のテーマの一つはスペンサーがいまだに抱える心の傷である。スーザンが西海岸に行き、そこでトラブルに見舞われ、ホークとスペンサーが彼女を救って、そして二人のよりが戻ったのが12巻。もう何十年もたっているのに、それでもそのことはいまだに思い出すだけでスペンサーの心の傷がうずくようだ。だからこそ、同じような立場のドハーティのことを、スペンサーは他人事と思えなかった。
また、何をどうすれば、どこから手をつけていいかわからない状況でも、スペンサーはとにかく行動してみる。聞き込んでみる、身辺をかぎまわってみる、容疑者の身辺をあからさまにつついてみる。そして相手の反応を見る。
アメリカの「まず行動」という精神を如実に体現しているのがスペンサーとも言えるだろう。そんなスペンサーを理解しているのが恋人スーザンと、長年の相棒であるホークである。この二人は彼の性格も、行動パターンも知り尽くしている。二人がいつもスペンサーに賛成するわけではないが、彼らはスペンサーを受け入れ、無条件で支えているのである。
男の友情、男女間のゆるぎない信頼に満ちた愛。シリーズを通して根底にこれがあるから、どんな事件が起こっても安心して読めるシリーズなのだ。それが揺らいだ12巻の「キャッツキルの鷹」は、実は冒頭以外まだ読んでいない。順番に読んだときは、あまりにも苦しそうなスペンサーがつらくて、読めなかったのだ。一度シリーズ最後まで読んでからなら戻ってちゃんと読むことができそうだ。特にこの巻を読んだ今なら。
しかし、とりあえず今手持ちの38巻まで進む予定。その後たぶん12巻に戻って読む。39巻、40巻はマスマーケット版のペーパーバックが出るまで待つ予定である。その間、同じ作者による他のシリーズ(ジェシー・ストーン)でも読もうかと思っている。