- Amazon.co.jp ・洋書 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9780679406419
感想・レビュー・書評
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ユダヤ人のマンガ家である著者が、アウシュビッツを生き延びた父に話を聞きながら、書き起こしたマンガです。
人間は、ユダヤ人=ネズミ、ドイツ人=猫に変えられて描かれています。
とても切なく、人間臭い物語です。
戦中の話もすごいですが、生き延びることができた父と母のその後の生活も、なんともいえません。ああいう経験をしたら少しは偏った性格になってしまうのはしかたがないけど、それに付き合わされる息子=著者はたまったものではないと思う。そのへんの親子のすれ違い、葛藤がつらいです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ポーランドで暮らすユダヤ人の父と母を持ち、アメリカの国籍を持つ作者が、アウシュビッツを生き抜いた父親の体験記を英語で書いた漫画。
この作品の中では、ユダヤ人はすべてネズミの頭と人間の体を持った姿で描かれる。
夜行性で、暗く汚い場所を這い回るユダヤのネズミ達。
どんなに逃げ回っても、ナチスの月明かりで照らされて、ドイツ人のネコに捕らえられてしまう。
ヒトラーは、資本主義の象徴であるミッキーマウスを酷く嫌っていたという。
ネズミという忌み嫌われるべき存在から、「ネズミ性」を引き剥がして、キャラクターとして愛されるようになったミッキーマウス。それに対して、キャラクターから、暗い場所を這い回る「ネズミ性」を奪ってしまわず、あえて残して描かれているこの作品。
全体を通して、作者の痛烈な皮肉を感じる。
ネズミ達に必ず死をもたらす。それがアウシュビッツ。
アウシュビッツを生き抜いたという点で、生き残り達が語るアウシュビッツは、本当のアウシュビッツではないと言える。
父親が散らばったものを集めたり、何かを修理したりしながら、徐々に自分の体験を思い出しながら語るシーンが多く描かれている。
記憶を他人に伝える際には、個人の感情によって正しい記憶が捻じ曲がって作られることもありえるということを、示唆しているように思える。
漫画ながらに、ピューリツァー賞を獲得したこの作品。
新しいアウシュビッツが見えてくる。
一読の価値あり。