The Vegetarian: A Novel

  • Random House Publishing Group (2016年8月23日発売)
4.25
  • (1)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 20
感想 : 1
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Amazon.co.jp ・洋書 (208ページ) / ISBN・EAN: 9781101906118

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 2024年のノーベル文学賞が贈られた韓国人作家 Han Kang 作品の一つで、2016年にマン・ブッカー国際賞を受賞した今作。私はマン島に住んでいることもあり、UKの大手書店チェーンである Waterstones を利用することが多く、そこからニュースレターのメールが頻繁過ぎるくらいに届くんだけれど、そこに載っている情報から気になる本や新作情報を発見することも多い。私の旦那さんはベジタリアン歴7年ほど(厳密にはたまに魚も食べるのでペスカタリアン)で、私と出会ってからお肉を食べている姿を見たことがなかったのに、先月の12月頭に体調を崩したことをきっかけに「肉を食べたほうが心身共に健康になるかもしれない」と言い始め、今までの数年はなんだったのかと思うほど普通にお肉を食べ出したのには、私や家族を始め、周りの皆がビックリ。外食時にベジタリアンオプションが必ずあるお店を探さないといけないなんて心配はしなくていいし、家でごはんを作る際にplant-basedのお肉を調理する必要もなくなったし、なにせ一緒にお肉を楽しめるようになったという棚ぼた的変化は、お肉が大好きすぎる私にはとっても嬉しいサプライズなのでした。と、そんなことがあった直後に、Waterstones のニュースレターに "The Vegetarian" なんてタイトルの本が取り上げられていて、しかもノーベル文学賞受賞作家の作品なんて…ということで興味を引かれ、とても読んでみたくなった。

    ストーリーとしては、夫と2人暮らしをしている専業主婦Yeong-hyeが、ある日見た夢をきっかけに突然ベジタリアンになると言い出し、冷蔵庫や冷凍庫に大量に保存していた肉類はもちろん、乳製品までも処分し、家では野菜しか調理しないようになったことで、彼女の夫を始めとする家族メンバーや社会そのものからも剥離していき、その結果、精神まで崩壊していく…というもの。作品は3部構成となっており、始めはYeong-hyeの視点で、彼女をベジタリアンとして目覚めさせた夢の内容や、彼女がブラジャーを付けることに対して嫌悪感を抱く理由、そして昔気質な父親を筆頭に肉をこよなく愛する家族メンバーに力づくで改心させられそうになることで肉体的・精神的にますます追い詰められていく彼女の姿が描かれる。2部目はYeong-hyeの姉の夫、つまり彼女の義理の兄の視点から考察され、映像アーティストである彼がどんどんとやせ細っていくYeong-hyeにアート的・性的に惹かれていく様子が綴られる。3部目は、妹がベジタリアンになってから今までに起こったことを回想し、自分の中にも存在するドロドロとした黒いものと静かな葛藤を続けるYeong-hyeの姉の視点から。ストーリー終盤では、精神病棟で入院生活を送りつつも食べ物自体も拒否するようになり、まるで木になることを望んでいるような妹の姿を見て、生きにくい世界にすっぱりと別れを告げた彼女を心のどこかで羨ましいと思っているように描かれる姉が印象的。きっとYeong-hyeがベジタリアンにならなくても、いつか時が来たら何かが心の中でプツンと切れていたんじゃなかろうか…と想像してしまうほど、3人共心の中に抱えているものがあって、たまたまYeong-hyeがベジタリアンになったというきっかけを皮切りに、芋蔓式にずるずると外に出てきただけなんではないかと思ってしまうが、それがしっとりと、でも確実に読者に伝わってくる。そしてそれは、育った家庭環境だったり、昔から今まで自分が無意識に感じていたはずの感情だったり、自分が今現在置かれている状況だったり、そんなものが本当に全て積み重なって今の自分という存在を作り上げているんだよなぁと、そんな当たり前のことに改めて気づかされた気がする。

    作中でYeong-hyeがベジタリアンになってからどんどんと体重が落ちていき、胸もどんどん痩せて丸みが無くなっていく様子を『手や足、舌や眼差しは全て誰かを傷つける武器になるけれど、私の胸では何も殺せない。なのに、どうしてその胸が縮んでいくのだろう。なぜ丸さを失い、尖っていくのだろう』と彼女独特の思考で語るシーンが印象的だった。この本が出版されたのは2007年だそうで、それから20年何近く経つ現在では韓国でもベジタリアン人口は格段に増えているだろうけれど、お肉大国である韓国では、当時はベジタリアンになるというのはそれほど珍しくて理解され難い行為だったのだろう。乳製品も摂取しないとなるとビーガンということになるので、そのアイデアに縁がない人には余計に異常に見えるんだろうな。この作品は、ただ単にベジタリアン・ビーガンになった人を描いているのではなく、韓国という肉を愛する国と本が書かれた当時の時代背景が後押しして、菜食主義者になるという出来事をきっかけにムクムクと外に顔を出してくる人間の複雑で繊細な内面を人間臭く描いていて、とても文学的だと思った。この作者が書く作品全てがこのようなスタイルなのだとしたら、深い読書になると心して次の作品を読み始めないといけないかも、と感じる。

全1件中 1 - 1件を表示

HanKangの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×