Empire of Pain: The Secret History of the Sackler Dynasty

  • Picador (2021年5月13日発売)
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Amazon.co.jp ・洋書 (560ページ) / ISBN・EAN: 9781529062489

感想・レビュー・書評

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  • Audible。 ナレーターは著者自身。

    各所で取り上げられて、オバマ元大統領の2021年夏および2021年全体のブックリストにも入っていた本書、職業柄の興味もあって読みました。

    医療用の麻薬を発端とするオピオイド依存症が爆発的に増えてしまったことが米国を中心にかなり問題になっていることは報道等で知っていましたが、発端となった薬が処方で見慣れているオキシコンチンであること、その発売、販売促進に当たって製薬会社が根拠もなく「依存症になりにくい薬だ」という主張を繰り返し、コネや金をつかってFDAはじめ各部署を懐柔して無理やり多くの(しっかりエビデンスに基づいて医学的に考えればおそらく適応外の)人に処方されるように仕向けていたこと、その企業は一族経営で基本的に創業者家族が会社を牛耳り改革しようとする社員役員は排除して私腹を肥やしていたこと、に衝撃を受けました。

    患者をごまかして、そのために医師にも目くらましをして、製薬会社が製品を売ろうとするというのは、特に2000年代前半くらいまではよくあっただろう実感があるので、規模の大きさはすごいですが、ある意味がっかりだけどびっくりではありませんでした。衝撃だったのは、FDAはじめそういったたくらみを防ぐためのシステムが機能しておらず、結局いわゆる上1%に入るようなアメリカの大金持ちは公的機関も司法も丸め込んですり抜けられてしまうんだなということでした。一族の人たちはおそらく自分たちは悪くない、むしろ被害者だと半ば本気で信じていて、真の被害者への共感が全くなく、まるで共感能力のないサイコパスのようだということも印象的でした。アマゾンのレビューではそれを資産家のユダヤ人の特徴のように書いている方がいましたが、ユダヤの文化というよりも異常なほどのお金持ちになると人間おかしくなってしまうということかも、とも思いました。

    素人が聞いていても膨大な情報量で、大量の一次資料に当たっていることがうかがい知れ、著者がすぐれたジャーナリストであることが分かります。取材力があるだけでなく文章も非常にうまい(変にごまかすという意味ではなく)方で、ぐいぐいと読ませます。ナレーションも上手です。
    前半は創始者アーサーの善悪を超越した大人物ぶりが山崎豊子のドラマのようですし、後半は法廷物、クライムノベル、といった体です。創業者一族に立ち向かおうとするジャーナリストや司法関係者たちが、よい仕事をしながらもなかなか取り上げられなかったり政治的につぶされてしまったりする様子が歯がゆく、最終的にやっと会社が有罪になり創業者サックラー一家も名指しで非難されるところまでは行けるものの、一家がしゃあしゃあと資産を守って大金持ちで居続けているのが現状なので、あああ、何とかその一部だけでも依存者の治療とか救済とかに当てられないのか、と思いながら終わります。

    そんな中で写真家で活動家のNan Goldinの活動にはちょっと感動しました。彼女のバックグラウンドをきちんと、でも冗長にならずに書いてくれているので、彼女がこの活動を行う個人的な理由があることに共感できるので、決して目立ちたがりのアーティストが目についた悪役を責め立てている、といった底の浅い行動ではないことがよくわかるし、あくまでアーティストらしい、場所が美術館であれば美術館にふさわしいよく考えられた抗議の仕方がすがすがしく、それがまた創業者アーサー・サックラーが固執した「サックラーの名前を遺す、特に文化的施設などに名前を刻む」ことを覆して、美術館や大学からどんどんサックラー記念××の名前が消えることにつながるのが数少ない溜飲が下がる場面でもあり、かっこいいぞ、と思いました。

    日本も「偉い人」が悪いことをしてもさっぱり裁かれないのは同じなので、決して対岸の火事ではないのですが、オピオイドに対しては日本の薬全般に対する根強い不信感がいい方に働いているのかなと思います。
    医療用であっても麻薬や準麻薬の取り扱いは日本では北米よりかなり厳しく、制度だけの問題というより文化が違う(日本は患者さん自身も副作用を心配してお薬は必要最低限でとおっしゃる方も多い)と思っていましたが、じつはその北米の「痛みを我慢させるなんて残酷で、じゃんじゃん薬を出せばいい」文化自体がサックラーが意識的に醸成したものだったということを知って納得しました。正直オピオイドクライシスという言葉が出る前から、麻薬を骨折などの患者さんに処方してしまうなんてアメリカ正気か、大丈夫なのか、と思っていましたが、-大丈夫じゃなかった…。

    いやー、読みごたえがあるし、それを離れても面白いし、朗読時間18時間くらいあって最初ちょっと日和りましたが脱落の危険を全く感じず読了しました。ドキュメンタリーとして映像化されないかしら。

  • トム・ウェインライト『ハッパノミクス』、みすず書房、2017年は、麻薬カルテルの勢力を削ぐために、麻薬は合法化した方が良い、という主張だったが、パーデューがFDAと癒着し、合法的・大々的にオキシコンチン(オキシコドン)を販売した結果が、オピオイド危機の大惨事である。これによって亡くなった人は、50万人ともいわれる。それで、サックラー一族は未だ億万長者で、処罰もされていない。やはり、麻薬合法化など論外では。

  • いや、なっが。まあある意味(現状での)結末を知った上で読み始めるのにこの長さでも読み終われたのが中身の濃さの表れとは言え…。流石にちょっと長すぎないか?あと3部構成?に分けたから時系列が前後するようになって、自分のように名前覚えるの超苦手な物には「あれ?これ誰だっけ?」ってなっちゃう事が多々あった。

    でも内容自体は「どうやって金持ちが法律をすり抜けられるのか」が具体的にリアルに伝わってくるので、多分本気で責任感じていないであろう一族のリアクションも含めて怖さを実感した。”戦いはまだまだ続く”ていうメッセージも明確だから読後感は悪くない。

  • OxyContinで富を築いたSackler家についてのドキュメント。アメリカのジャーナリズムの健全さを示す真骨頂と言える作品で、本書を通してアメリカの司法制度、行政の闇が示されている。3世代にわたるストーリーになっていて、これはこれで示唆に富むが、著者自身もあとがきで触れている通り、裁判資料の開示などでより詳細な記録にあたれるようになることで、直近10-20年に絞ったドキュメントもいつか出てくるのではないか。一気に読ませる筆致も見事である。

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