Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment, Volume 1181 (Annals of the New York Academy of Sciences)

制作 : Alexey V. Yablokov  Vassily B. Nesterenko  Alexey V. Nesterenko  Janette D. Sherman-Nevinger 
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  • Amazon.co.jp ・洋書 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9781573317573

感想・レビュー・書評

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  • ツイッターで紹介されていたのでダウンロードして読んでみた。New York Academy of Sciencesから2009年にでていたのだが、これを2010年にリプリントしたもの。チェルノブイリの健康や環境に対するダメージを広範に文献レビューしている。

    その特徴は英語以外の文献も引用していることで、とくにロシア語の論文の引用が多い。ローカルランゲッジが世界に向けて声を上げない問題は日本固有のものだと思っていたが、そういうわけではないようだ。

    僕もシベレスタットのメタ分析をしたとき、日本の文献がとても多かったのであえて医中誌を使用した(Medlineとembase、Cochraneプラス)。母国語を用いると世界の人に読んでもらえない。しかし、母国語でないと論文が量産しづらいという現実的な制約はある。文系の論文などは微妙な表現など英語にしてしまうと伝わらなくなってしまう問題もある。例えば、文化人類学の論文などは漢字仮名交じりであることそのものが資料の意味になっているであろうから、英語論文にしてしまうと全く別物になってしまうだろう。医学の世界ではあまりそういう問題はないけれども、改めて「どの言語で論文は書かれるべきか」という命題を思い出させてくれた。

    本書は、IAEAやWHOが低く見積もっているチェルノブイリ以降の死者数が100万人近くであることを看破した本として紹介されやすい。その根拠が先に述べたように非英語を含めた5000以上の文献を引用していることで、350の文献しか引用していないIAEA(死者4000人と見積もり)よりも信憑性が高いとしている。

    http://tajimaiclc.at.webry.info/201105/article_1.html

    が、この発想は複数の理由で間違っている。

    1.引用文献が多い方が正しい、という前提は間違っている。あくまでも文献のクオリティーのほうが大事である。引用文献の数を基盤に言説の正当性を主張するのは科学的ではない(政治的である)。

    2.本書のmortalityに関する記載は本書のほんの一部分をなしているだけで、別に5000以上の文献全てがmortalityを検討しているわけではない。そういう意味で、上記ブログのコメントは非常にミスリーディングである。というか、この100万(98.5万)という数字は主にKhudoleyらの論文などから外挿したものである(もちろん、だからダメだと言いたいわけではない)。

    3.本書自身が述べているように、チェルノブイリによる死者の計算はものすごく難しい。したがって、この98.5万という数字も大ざっぱな見積もりに過ぎない。逆に、実はもっと被害が大きかった可能性も本書は示唆しているが。

    とにかく原子力の議論は政治性を帯びやすいので、どこまで誠実に議論できるかが鍵になる。上に紹介したブログは本書のデータの根拠を不誠実に(それが意図的か無意識なものかは知らないけど)扱っており、こういう恣意的なデータの扱いをしていると、議論は落ち着かなくなる。僕は、ある有名な政治的な医学関係の市民運動家(?)に昔、抗菌薬の皮内テストについて議論をふっかけられたことがあるが、とにかく自分の都合の良いデータを針小棒大に解釈し、都合の悪いデータは一切無視とという態度を徹底しているのに驚いたことがある。想像だけど、あれって本人はいたって真面目にやっていて邪心も悪意もないんだと思う。ああいうのって習慣化するともう直らないんだろうな。

    もちろん、だから本書が無意味と言いたいわけでもない。本書の特徴はmortalityの部分「のみ」ではなく、むしろ各臓器や環境に至るさまざまな影響を多角的に扱っていることそのことに意味があるのだと僕は感じた。特に、被曝した男女の子供に与える健康の影響や動物実験などの多彩な情報の多くはロシア語圏で研究されており、本書を読んで初めてその内容を知ったものも多かった。食物に残る放射線の量の見積もりもこんなに広範なデータを見たのは初めてだ。300年は影響が残るであろうセシウムがどのくらいの影響を福島周辺の食べ物に残すか、いろいろ想像されてくる。

    そして、これはデータをたくさん見るとたいてい感じるのだが、この問題に関する不確定な要素がとても大きいことが理解できた。本書を読んで感じたのは、原発や放射線が安全だ、とか危険だ、とか断言しづらいなあ、というわりと(科学を勉強している人には)当たり前の事実だった。

    本書のデータはこれから原発と放射線を考える上で、何度も見直す価値がある。貴重な資料である。それだけに、本書から都合の良いデータだけを抜き書きしたり大げさに拡大解釈するようなことはしない方がよいと思う。

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