境界の時間: 日常性をこえるもの

  • 岩波書店
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  • 本 ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000004022

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  • タイで上座部仏教の僧侶の修行経験を持つ文化人類学者の青木保がアジアにおける時間の質と量の関係について考察した書物。人間の時間に関する大まかな観念として≪直線的=前進的≫時間観と≪円環的=循環的≫時間観の二つをあげ、両者が入り混じりながら認識を適合していくという前提から、アジアの各所における時間観を分析していく。それは必ずしも「文明」と「未開」の二項対立に収斂するのではなくて、文明社会においても年中行事や祭祀の習慣があり、未開社会においても生物的時間は流れ去るということでもあり複雑に絡み合っている。時間体験の実際としてアジアを実際に旅行したら、という例が具体的でわかりやすい。量として時間が極限まで商品化された東京から始まり、次に飲茶の習慣をもち時間の商品化がストップする香港、質と量が半々の割合のバンコク、そして時間が非商品化されたコロンボまで舞台はスライド移動する。コロンボでは昼間のオフィスアワーがあり、夕方のギランパサ、夜のピリットという、全く異質の仏陀の時間が存在する。そこには境界の時間が顕在化しているというのだ。
    最後にバリ島の人々の時間認識の紹介がされていてこれが興味深かった。バリでは陰陽暦と順列的な休祭日暦を併用するが、後者が圧倒的に重要である、と。儀礼を行う日を「時」「時期」と呼び、それ以外を「穴」と呼ぶ。時間は持続して蓄積されるわけでもなく、消費されるものでもない。質的な流れの中での認識はなく、質的な時間をただ尊ぶだけである。東京にいる時間となんと違うことだろう!

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著者プロフィール

1938年東京都生まれ。文化人類学者。東京大学大学院修了、大阪大学で博士号取得。東南アジアをはじめ各地でフィールドワークに従事。元文化庁長官、大阪大学名誉教授、前国立新美術館館長。主な著書に、『儀礼の象徴性』(1985年、岩波書店、サントリー学芸賞)、『「日本文化論」の変容』((1999年、中央公論新社、吉野作造賞)などがある。

「2023年 『佐藤太清 水の心象』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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