チェルノブイリの祈り―未来の物語

  • 岩波書店
4.19
  • (12)
  • (19)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 95
感想 : 20
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000013888

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • チェルノブイリを体験した、それでも考えることをやめていない人たちにしたインタビュー。
    心に爪あとを残す言葉ばかりです。
    特にリュミドーラの話。「彼がどんな目に遭っていったかではなく、私が彼をどれだけ愛していたかをお話したかったんです」新婚の、手をつながないと眠れないくらいラブラブなふたりがたった14日間でどんな残酷なお別れをしなければいけなかったのか。
    涙が止まらなかったです。

  • 実生活の中で恐ろしいことは静かにさり気なく起こる
    本書の中で印象的な一文
    きっと今までの歴史も終わってはじめてあの場面はそういうことだったのか、とわかるけど、
    渦中の人間には何が起こってるのか、
    何が起こるのかわからないんだと感じた
    目に見えない災厄から自分たちを防御するには知識を得るしかない

  • 1986年にそれは発生した。世界最悪と言われ、世界中が震撼した
    チェルノブイリの原発事故。

    本書は巨大事故に遭遇し、被災した人々へのインタビュー集である。

    冒頭に登場する初期消火に当たった消防士の妻のインタビューだけ
    でも、その内容は壮絶である。

    自らも被曝の危険に晒されながらも、消防士ととしていち早く現場に
    駆け付けた夫の看病に当たる妻。

    彼女は何度も繰り返す。「幸せだったんです」と。そう、あの事故が
    起きるまではささやかだけど幸せな生活を送っていた人たちなのだ。

    それが原発事故で一変した。原子力発電所で何が起きているのか、
    放射能はどういうものなのか。何も教えられず、危険性も告げ
    られず、普段と同じ軽装のまま彼らはそこにいたのだ。

    そして、突然の退去命令。

    「一生働きづめで、さんざんつらい思いをしてきた。もう十分だよ。
    なんにもいりません。死んだら楽になるだろうね。魂はともかく体は
    休めるだろうから。娘や息子はみんな町におります。でも私はここを
    離れませんよ。神さまは長生きさせてくださったが、幸せはくださらん
    かった。」

    汚染地帯の自分の家に戻った老婆の言葉が胸に刺さる。ニュースだけは
    知ることの出来ない、人々の声だ。痛いじゃねぇか。

    石棺に覆われたチェルノブイリ原子力発電所。その中には収容出来な
    かった遺体が、未だに放置されている。

  • 本書はチェルノブイリの事故から10年を経て発刊された被災者たちの証言集である。あの時チェルノブイリにいた人たちのを感情を集めた本であると私は思う。もっとも驚いたのは住民にすぐ避難指示が出されず、男たちは防護服もなく普段の作業着で、危ない状況を十分に説明もされず消火活動、除染活動にあたっていたことだ。人命軽視にもほどがある。
     事故処理作業のため被曝した夫への妻の愛情。放射能の影響と思われる障害を持った子供への深い思いや心配に心を打たれた。反面、避難先で親戚であっても嫌がられたという悲しさ怖さ。社会主義体制下での都合のいい解釈、保身で事実が隠蔽される。ウォッカを浴びるように飲んで放射能に効いている信じる除染作業の男たち。汚染地帯に残された猫や犬たちを殺さなければならなかった作業員たち。 すべての生き物、自然への人間の横暴が生々しく迫ってきた。

     チェルノブイリで何が起こったのか。科学的に検証がされている本ではないのでこれがすべてではない。
      著者は「この本はチェルノブイリについての本じゃありません」と述べる。「チェルノブイリを取りまく世界のことについて」を読者は知る。インタビューを受けた人々は感情の語り、人間の内と外の世界で何が起きたのかと考えている。私は涙も出せないほど重く受け止めた。この時代を生きる大人として責任がまったくないとは言えないと感じたからである。
     
    福島の事故後でさえすんなりと原発をやめられない。戦争、環境問題、民族問題、貧困、経済など複雑に絡み合い、この危ないエネルギーを人間は手放せないでいる。本書を多くの人に読んでもらいたい。放射能が及ぼす影響を知った人は世界観が変わるだろう。その力が集まり、未来へ新しい形を指し示す力になったらと願わずにいられない。

     最後に私へのインタビューとして。
     ヒロシマがチェルノブイリが違うように、チェルノブイリも福島とは違っていてほしい。本書に登場するチェルノブイリの子供たちは「死」を常に身近に感じ暗い目をしている。福島の子供たちがどの程度被曝をしたのかわからないが、私の母は2歳のとき、ヒロシマで被曝した。福島の子どもたちに「私は子供が産めるの」と言わせたくない。私が生まれてこれたのだから。これが私の感情である。未来に希望を持ちたい。

  • 近い将来、地球は原発汚染で覆われる!それでも人間の欲の深さは際限が無い!一度手にした金蔓は容易には手放さない。
    人間みんなが放射能汚染して、人間の変形した姿が普通になり、札束を食べて生きるんだろうなぁ。
    なんか熊人間がいたり、三つ目小僧がいたり、顔無しがいたり!そして平均寿命は十数年ぐらいかな?
    処でこの本は福島近辺や原発のある都市の学校や街などの図書館に置いてあるのかな?
    原発再稼働の調印前にぜひ読んでもらいたい。

  • 賞って業界へメタ的に影響した人に贈る物なのか

  • 2016_011【読了メモ】(160128 12:25) 著 スベトラーナ・アレクシエービッチ、訳 松本妙子『チェルノブイリの祈り 未来の物語』/岩波書店/1998 Dec/今まで起きたことのないことが起きたのです。/CHERNOBYL'S PRAYER by Svetlana Alexievitch

  • チェルノブイリ原発事故を経験した人たちへのインタビュー集。
    ドキュメンタリーの手法らしく、本当にその人たちの語りだけが集められている。
    ナラティブってこういうのか。

    でてくる人たちはそこに住んだ人だったり、まだ住んでいる人だったり、兵士だったり。
    「正しい」「美しい」被害者じゃない。
    とにかくその人たちの声を書く。

    目を逸らしている人もいるし、受け止めきれない人もいるし、壊れちゃってる人もいる。
    間違ってる、そんなことしちゃダメだって言いたくなる人もいる。
    でも、そんな「正しくない」反応も、ひどい目にあった人の当たり前の反応。

    登場人物の何人かが「ヒロシマ」を口にする。
    今私が「チェルノブイリ」を読むように、チェルノブイリの人たちは「ヒロシマ」を参照しようとする。
    「チェルノブイリ人」に向けられる視線や彼らが抱える不安に福島を思う。
    福島の人たちもこんな気持ちなんだろうか。

  • 「ベラルーシにはチェルノブイリによる汚染はない」とする独裁者ルカシェンコによって発禁処分となったこの本。チェルノブイリ原発事故を経験した人々の生々しい証言が綴られている。この本を読むまで、チェルノブイリの被害があれほどまで拡大した大きな要因として、社会主義という特異な国家体制が影響していると思っていたが、この本の中で起こる出来事は今この国で起こっていることと極めて類似するものである。事故の多くを隠蔽しようとする国。汚染された食品を安全だといい流通させる国。汚染地帯から住民を避難させない国。何に関しても大丈夫という国。
    それがとてつもない危機的状況であればあるほど、国とはそれを隠すことに躍起になり、国民の生命に対して無責任かつ残酷になれるものなのである。
    人々は圧政や戦争よりも原発事故は酷い出来事だと言う。
    この本は預言書である。ここに描かれた真実は、この国がたどるであろう未来の姿を表している。
    まだ決して遅くはない。多くの手立てが残っているはずである。国を動かす立場にある人々は自分に問うてほしい。多くの命を、子どもたちの未来を、この国をどうしたら救えるのか。本当に大切なものは何なのか。そして、くだらないものを守るための愚かな行いがどんな結果を招くのか。
    ただただ、祈るしかありません。

スベトラーナ・アレクシエービッチの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×