対談集 つなぐ建築

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000014069

作品紹介・あらすじ

市場化を推し進めたグローバル経済の挫折、そして東日本大震災という破局のあと、建築界の世界的フロント・ランナーは、なにを考え、建築をどのように変えようとするのか。失われた人と大地との結びつき、人と人とのかかわりを取り戻す建築とは-。伊東豊雄、岡田利規、佐々木正人、原武史、藤森照信、御厨貴、蓑原敬と語る。

感想・レビュー・書評

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  • まえがき
    建築とは、政治的にも経済的にもホットな場所に立つ。
    そういう中で、日本がホットな場所でなくなっている。
    日本は、後ろ向きで、縮み指向で、応急手当て的な、情けないものになっている。
    これは、逆向きのエッジではないか?
    成熟し、老いて行く流れの最先端。この逆のエッジを見極める。
    東日本大震災は、さらに、その逆エッジが研ぎ澄まされることになった。
    しかし、なぜ 隈研吾は 「つなぐ」という言葉を使ったのだろうか?
    つなぎたかったのは、隈研吾自身であり、
    つながれるものは、建築だった。
    建築を中心にして、新しく繋がるものはなんだろうか?

    決断不能社会の政治と建築 御厨貴
    吉田茂の大磯の家は、自宅からどこからでも、富士山が見えた。
    吉田五十八は、数寄屋建築の近代化を推し進めた。
    佐藤栄作は、鎌倉の別荘、中曽根は、日の出山荘。
    田中角栄は、庭は立派だが、家は大したことはない。
    政治家が、決定不能の状態に陥っている。
    それが、首相官邸にも表れている。

    歌舞伎座 新たな祝祭空間へ 藤森照信
    歌舞伎座 福地桜痴が1889年につくる。
    第3代は、岡田信一郎で、唐破風でつくる。オペラ座を参考にする。
    第4代が、戦災後 吉田五十八が改修。
    第5代が、隈研吾によってなされた。
    祝祭系建築。
    千利休による 茶室は、グローバリズムのうっちゃりだった。

    団地以降の集合住宅 原武史
    スターハウスの出会いと団地における新たな運動。
    コルビュジェは、建築か革命かといった。

    都市と建築をつなぐ肌理 佐々木正人
    壁や床、人の肌など、人間を取り巻く表面は粒子からなり、それに肌理を持つ。
    アフォーダンスは、行為の落とし所
    包囲光は情報であり、情報は光の中にある。
    光の肌理の流動に、環境と自己移動の両方を見る。
    アタッチドとディタッチド。
    この佐々木正人の研究の内容が面白そうだ。展開性がある。

    都市計画の勝負
    都市への責任・コミュニティが街を動かす 蓑原 敬
    目指すべき都市像とは、どうあるべきなのか?
    不合理なシステムに対して、ノーという。
    隈研吾のいう負ける建築とは、丹下健三、磯崎新、黒川紀章と一線を画す意味である。
    社会、政治、市民と建築家の対立が見えなくなってきている。
    都市計画から、まちづくりに。街並みと建築技術のバランスが重要。
    コミュニティをどう作りげていくのかが都市を作る上でのポイントになる。

    「みんなの家」から始まるもの 伊東豊雄
    3月11日 東日本大震災があったことで、建築家の無力を知った。
    建築家にとっては、批評性のある建築を作ることが重要。
    その批評意識がライフスタイルに浸透しきっている。
    お互いの建築を貶すことから、やめて、「なんとかしなくては」
    を実現していく中で、みんなの家ができた。
    せんだいメディアテークは、面白そうだ。

    震災を経て生まれるフィクション 岡田利規
    演劇の中で、日常を演じる。舞台の上で、日常を演じること自体、日常ではない。
    「いま私が何をしているのかというと」という説明から始まる。
    自然な日常とパフォーマティブな非日常とのさじ加減。
    日常といっても、そのままでも実は結構へんである。
    本当と嘘かという対立は、正直さという観点を持ち出すことで、以外とあっさりと乗り越えられる。
    上手に嘘をつこうとする役者には厳しい。
    日本の社会の空気を読まないほうがいい。

    ポスト工業化社会を走る鉄道のかたち 原 武史
    鉄道って、意外と重要な意味を持っている。
    バスでは、実現できない確かなもの。

    隈研吾が、混沌とした状況の中で建築の意味を問いかける。
    確かに、都市はいろんな人の思いで、組み立てられている。
    こうやって建築家が模索するのは大切なことかもしれない。
    建築言葉から誰でもわかる言葉に変わっていく作業に近い。

  • ファン(?)である伊東豊雄氏との対談の部分目的で購入。話も一番分かりやすくて良かった。最後は鉄道の原武史との対談もあり。

  • 対談形式。
    震災時のインフラのあり方を後半のエピソードから読み取った感想より、インフラのありがたさ、また建築の日常感大事さがわかる。
    住む場所をおろそかにしてはならない。その空間も含めて。
    土とコンクリートじゃないが、基盤がいかに大事かを個人的に思う。

  • つなぐ建築というタイトルだが、建築自体が何かをつなぐ媒体となるための議論というより、建築が社会とつながっているためにはどのような視点が必要なのか、改めて考え直すための対談集という印象を受けた。

    建築や都市計画といった分野だけでなく、デザインや演劇などの世界においても、社会の様変わりに対してどのように関係性を再構築していけばよいのかということが問われている。

    演劇やデザインの領域は、クライアントや最終的にその成果物を消費する消費者(購入者や観客)との関係が建築と異なるため、変化への向き合い方も異なっているように感じた。そのようなことが新鮮な観点から物事を考えるきっかけになると思う。

  • 御厨貴:権力の館を歩く 吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、麻生太郎、小泉純一郎、田中角栄と館との関係 コルビュジエの建物を見てみたい 公共建物はますます無個性化しています 藤森照信:歌舞伎座の建替え 利休キリシタン説は想像力を刺激しますね 原武史:団地のスターハウス 団地の風景とソ連の労働者住宅は、世界中を眺めても突出して似ている 

  • 中央線界隈におけるサブカル要素の誕生、東北大震災復興にむけた建築家としてのあり方といった様々な題材をもとに隈と専門家が対談する様子を著した本。隈は今まで銀座歌舞伎座や太宰府の参道にあるスターバックスといったものを設計してきているが、多彩な建物をデザインする能力は建築家としての技量だけでなく、アーティストとして都市や建物などのデザインが移り変わる様子を長い目で俯瞰できる能力にも基づいていることを気づかされた。

  • ファサード、肌理(きめ)、光の粒子
    鉄道

  • 隈健吾さんが建築についての対談集。興味深かったのは、政治家の家にまつわるエピソード、歌舞伎座がオペラ座を模した混沌とした安土桃山に回帰した建築であること、空間と思想との関係、日本の公団住宅ちより生まれた思想、千利休がキリシタンであったのではとの仮説、東急と西武の違い。

    政治家は別荘を持つことで、政治の中心と距離を持つことで元老としての地位を維持した。呼ばれて行くまでの時間稼ぎが、要。一方自宅と別荘で会う人間を変え、一人になって考えることをした。

    歌舞伎座は、西洋に感化され、オペラ座の如く社交の場として、ヴァイタリティー溢れる安土桃山時代を彷彿とさせる目立つ建築物となった。
    祝祭性を重視した最後の建築家山田五十八とモダニズムとテクノロジーの美しさを追求した丹下健三以下現代の建築家。

    西洋の建築は個人の才能の上に作るのではなく、歴史のヘリテージの上に乗っかって作っている。山田五十八は世の中と幸福な関係の最後の建築家。その後の建築家はアイロニカル。

    日本の公団の団地のような建物は社会主義国にしか見当たらない。日本は団地に住むことで社会主義的な発想が生まれて行った。

    空間と思想とには密接な関係がある。

    東急沿線は、戸建開発が進むまでの時間を繋ぎ、顧客をストックするため公団や県に土地を売り、団地を駅前に作った。

    アフォーダンス

    都市には混沌とした空間が必要。
    幕張のように最初に志高く作った街は、住民が文化を維持する。
    古い建物をリノベーションするアジアの文化は、新しいハコモノで自滅する日本が見習うべき。

    中長期の計画だけでなくとりあえずの住宅や工場も必要。微妙さが大事。曖昧な境界で自然を取り込んで利用する。

    建築も自然さ、正直さが重要。

    沿線開発に一貫したビジョンを持つ東急と団地だけを建設した西武はブランド戦略で商売をした。プリンスホテルか壊されたのも納得。

  • 対談集だったけど、結構、この人、面白いなぁ、と思ったので、他の本も読んでみようかと思った。特に、御厨貴との対談は、面白かった。(13/7/19)

  • 負けるの方が面白い

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著者プロフィール

1954年、神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。コロンビア大学建築・都市計画学科客員研究員などを経て、1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。30を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。主な著書に『点・線・面』(岩波書店)、『ひとの住処』(新潮新書)、『負ける建築』(岩波書店)、『自然な建築』、『小さな建築』(岩波新書)、『反オブジェクト』(ちくま学芸文庫)、他多数。

「2022年 『新・建築入門 思想と歴史;ク-18-2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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