岩波文庫的 月の満ち欠け

著者 :
  • 岩波書店
3.86
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本棚登録 : 471
レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000014113

作品紹介・あらすじ

直木賞受賞作待望の文庫化!

あたしは,月のように死んで,生まれ変わる――この七歳の娘が,いまは亡き我が子? いまは亡き妻? いまは亡き恋人? そうでないなら,はたしてこの子は何者なのか? 三人の男と一人の女の,三十余年におよぶ人生,その過ぎし日々が交錯し,幾重にも織り込まれてゆく,この数奇なる愛の軌跡.プロフェッショナルの仕事であると選考委員たちを唸らせた第一五七回直木賞受賞作,待望の文庫化.(特別寄稿:伊坂幸太郎)

感想・レビュー・書評

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  • これは読もうと決めていた。『図書10月号』の「こぼればなし」に、「岩波文庫的」という名称を使ったことの顛末を書いていたからである。初めての岩波書店の直木賞受賞作を、発行後2年半経っただけで「長い時間の評価に耐えた古典を収録する叢書に、みずみずしいこの作品を収録するのは尚早」ということで、「いたずら心で」で使ったらしい。(何故「的」の言葉を選んだのかというのはさて置き)そういう仕掛けは大好きなので、話のタネに読んで置こうと思っていた。ところが、予想以上に岩波書店はこの文庫本の発刊に力を入れていた。本屋で手に取ると、帯に『選考委員を唸らせた熟練の業が、「岩波文庫的」に颯爽と登場。』と岩波文庫的に難しい漢字を多用して煽っていたのだ。だけでなく、中に作者ミニインタビューの特別チラシまで入れているし、普段解説を書かないのに例外的に伊坂幸太郎が解説を書いていると思ったら、なんと『解説はお断りします』という編集者宛メール文をそのまま載せて解説の替わりにするというアクロバット式の解説を書いていた。

    読んだ。とーっても面白かった。アクロバット式の小説「的」な仕掛けが随所にある。

    メインの話は、小山内さんという還暦過ぎの男が、青森から東京駅に出向いて、ある人に会ってまた帰っていく間の2時間と少しのお話である。その間に登場人物たちの過去が次第に明らかになってくゆく。倒叙方式のサスペンスにもなるし、SFファンタジーにもなるが、そういうわかりやすい結末は排除している。「熟練の業」で余韻残る「お話」を作っていたのだ。

  • 途中から紙とペンを持ってきて、家系図を書きながら、必死で物語を追った。というか、すぐにこの作品の世界に入り込んでしまったので、必死、というよりかは、一心不乱、だ。

    佐藤正午さんを知ったのは、おそらく10年以上前、六本木にある青山ブックセンターで、「伊坂幸太郎の本棚」という、伊坂先生が好きだったり、影響を受けた作家さんや作品を集めたフェアが開催されていて、その棚を見た時だ。
    確か、そこで紹介されていたのは「ファイブ」という作品だった気がする。ずっと読みたい読みたいと思っていて、なかなか手に取ることもなく、結局、本作品が、初の佐藤正午さんの作品となりました。この作品も、伊坂先生が解説を書いていらっしゃらなかったら、手に取るのはいつのことになっていただろう。

    意外だったのは、最後の伊坂先生の解説で伊坂先生も書いていらっしゃる通り、小説以外の文章はそんなに得意ではないんだな、ということ。
    不器用ながらもそれを見せずに器用にこなす印象のある伊坂先生ですが、解説を読んで、どこか人間らしいその様子に、少し安心した自分がいました。

    作品について。
    さすが直木賞作品、というべきか。物語の構成は飽きさせないし、何より描写がとても美しく、繊細だった。特に、この作品のタイトル「月の満ち欠け」、その意味がわかったときは、ほくほくと、何かがやわらかく、わたしの中に降ってきたような、そんな感じがした。
    まるで夏目漱石が、ILoveYouを「月が綺麗ですね」と訳したような、そんな美しさと儚さ。それが詰まった作品でした。

    岩波文庫的、という岩波書店の遊びごころも相まって、とても素敵な作品となって、わたしの心に残りました。

    物語の中では、「それ」が起こるのはある年齢、という部分しか描かれていないけれど、今日、自宅出産した方の話を聞いて、お産のタイミングが月の満ち欠けや潮の満ち干きと大きく関係しているということを聞いて、もし、「それ」が起こったのが、満月や新月の日だったら、とてつもない奇跡で、決して人間が足を踏み入れてはいけないような、自然の聖域のようなものを感じて。

    わたしがもう一度、あの子に会いたいと強くのぞめば、誰かがあの子になって、わたしの前に現れるんだろうか。
    大人になったわたしを知らないわたしの父は、誰かの体を借りて、わたしの前に現れるんだろうか。
    もしくは、すでに誰かがあの子だったり、父だったり、するんだろうか。

  • ホラー感満載のラブロマンスだった。
    生まれ変わる度に親やまわりを巻き込んで、愛する男に必死に会いに行こうとする瑠璃さん、純愛なんだけどなかなか怖い。
    ランドセルしょった小学生が、現在中年になっている昔の不倫相手を追いかけて家出するって。。ひぇー。
    時間軸がいったりきたりするのと、まわりの人間関係が意外に絡み合ってて、ちびちび読むと混乱してきたので中盤からは一気読み。
    最後の最後にキュン、で締めれてほっとした。

  • 愛しい、怖い、切ない。読む人によって見え方が全く変わってしまうであろう不思議な作品。また一人、好きな作家さんが増えてうれしいです。

    2017年に直木賞を受賞したそうですが、私は全く前知識なく、本屋さんで山積みにされたこの本に出合って気まぐれに購入しました。冒頭のミステリーチックな雰囲気からその頭で読み進めていましたが、見る角度によっては恋愛小説になったり、ちょっとオカルトやホラー的な要素もあったり、きっと次に読むときには違った表情を見せてくれるのではないかなあと。

    東京のとあるホテルのラウンジで、初老の男と若い母娘が待ち合わせ。もう一人来るはずの男、三角(みすみ)はまだ来ていない。三人はぎこちなく話し始めるが、男と娘の会話はイマイチかみ合わない。三角を待つ間、三角と彼らをめぐる物語の過去を辿っていく…というお話。

    ストーリーが進む方向は途中からなんとなく見えてきますが、それでも小説としての面白さを最後まで保っていられるような、安心感のある一冊でした。複数の人物が時代をまたいで登場するので、全体を把握するのにちょっと頭を使います。そこもまたこの作品の良さなのでしょうが。

    2017年に単行本が出版され、今年10月に文庫化された本書は岩波出版から出ていますが、岩波文庫じゃないんです。「岩波文庫的」。なんじゃこりゃ?と思って調べてみると、装丁や細部を微妙に崩しながら岩波文庫「風」の文庫本に仕立てた自社パロディだそう。単行本が発行されてまだ二年半しか経たない本書を、佐藤正午さんご自身が岩波出版へ文庫化の打診をしましたが断られ、岩波文庫がダメならそれ風の…といったようなやりとりがあり、編集者さんの粋な計らい(おそらく)で実現したとのこと。岩波さん、素敵です。

    そして何より印象的なのは巻末に収録されている、伊坂幸太郎さんの特別寄稿「解説はお断りします」。解説ではありません。本書の解説の寄稿を辞退したという断りの文章です。読んでいただければわかりますが、伊坂さんの佐藤正午さんに対する愛情あふれる文章となっています。本書はこれも含めて素敵な作品です。

  • 佐藤正午の名前は知っていたけど、岩波文庫的という斬新な試みで、初めて手に取った。

    平たく言うと、生まれ変わりのお話。

    夫には、子供を作る機械のように扱われている瑠璃が、想いを懸けた相手を探して。
    何度も、名前も、死を重ねては、転生する。
    三角くんに会うために。

    けれど、三角くんが順調に人生を送れば送るほど、瑠璃の「失敗」は彼との距離を遠くする。
    それでも、それでもと追いかけることは、もはやロマンスではなくホラーだということを、誰もが見て見ぬ振りをする。

    女は、娘の恋をどこかで女として共感し。
    男は、生まれ変わってでも一緒に在ろうとする想いに、嫉妬し、打ち勝とうとする。

    人が常であろうとすることは、結局のところ、醜いのかもしれない。

  • 久しぶりに現代の作家の小説を読んだ。めくって、あっという間に引き込まれた。どの登場人物にもさほど共感はできないのに、なぜこんなに惹きつけられるのか、結局最後まで分からなかった。それこそが小説の力なのかもしれない。この手の小説は読んでも教訓が得られるわけではないし、ハウツーが学べるわけでもなし、しかも今回は共感できなかったので経験の追体験ができたわけでもないけれど、小説を読まずにはいられない気持ちを久しぶりに思い出せた気がする。

  • トリッキーな装丁デザインのサンプルぐらいのつもりで購入したが、よみだしたら止まらず一気に読んだ。

    瑠璃たちが時間を超えて、月のように死に、生きるのに対し、男たちは樹のように生きる。男たちが建設業者なのは、それが空間に根差す仕事だからだろう。

  • 直木賞の帯と岩波文庫的装丁に惹かれて手に取った。
    佐藤正午さんの作品は読んだことがなかった。

    内容を3行で伝えるとすると、目新しさがないものだが、立ち読みで初めの数ページを読んだら買わずにはいられなかった。途中でやめられなくて、歩きながら読んだ。

    どんなお話ですか?と人に聞かれても説明するのが難しい。伊坂幸太郎さんの解説がとても的を得ていると感じた。説明しづらいが、「読んで良かった」「とても好きな小説だ」「また読み返したい」と思った。

    読み終えてから間に挟まっていた、刊行直前筆者インタビュー「なんだこれはバカにしてるのか!」を読んだ。筆者は64歳になられるのか、、、もっと若い方が書いたように思っていました。

    読み終えたその足でジュンク堂へ、佐藤正午さんの他の本を2冊買って帰りました。

  • 小山内堅(つよし)は、ごく普通のサラリーマン、青森県八戸で生まれ育ち東京の大学で同じ高校出身の後輩である梢と恋に落ち、やがて結婚、娘の瑠璃が生まれる。しかし瑠璃が7歳のときに高熱を発し、その後奇妙な言動をするようになる。古い歌謡曲を口ずさみ、テディベアにアキラくんと名付け、一人で高田馬場のレンタルビデオ屋へ家出しようとしたりする。妻が思い悩むのを小山内は軽く流そうとしていたが・・・。

    それなりの年だし標準よりは多い量の小説を読んできたつもりだけれど、いまだに「なぜか1冊も読まずにきた有名作家」が結構いたりする。佐藤正午も実はその一人。『永遠の1/2』映画化されたことがうっすら記憶にある程度。今回も、直木賞受賞云々はあまり自分の興味対象ではなかったのだけれど、輪廻転生ものだということを知って急に興味が沸き、ようやく手に取りました。最近ツイッターでたまたま「うちの子が前世の記憶を語り出して~」という話を目にして(実はうちも、というコメントが沢山)やっぱそういうのあるんだなと思っていたところで。

    とりあえず面白くてぐいぐい一気読みしてしまった。時系列をちょっといじるだけで、ラストがいい感じに終わる当たり、すごく上手いなと感心。あと生まれ変わっても恋に落ちたい二人にとって重要な場所になるのが高田馬場で、ふたりのデートの場所が今も現存の名画座・早稲田松竹(私も何年もしょっちゅう行っている)だったので、個人的にイメージ喚起しやすく、リアリティが増しました。

    何度も転生するヒロイン「瑠璃」を主軸に、物語の枠組みとしては、まずいちばん外側に四回目の転生である緑坂るりという少女がいて、その内側に大きく分けて3つのパート=転生前の3人の瑠璃に関わる3人の男(小山内、三角哲彦、正木竜之介)と、彼らがそれぞれ知っている「瑠璃」との物語が挿入されている形。

    瑠璃は好きな男と結ばれたくて自分の意思で何度も転生を繰り返すのだけど、転生するのは瑠璃ばかりで男のほうはそのまま生きながらえ年齢を重ねている。それでも恋人と再会したい瑠璃の執念は、もはやロマンチックを通り越してちょっと怖いとおばちゃんは思ってしまうのだけど、お相手の男性が優しいのでラストは救われた。

    ただ個人的には、瑠璃をあまり好きにはなれなくて、ちょっとしんどいなと思うときもあり。特に気の毒なのは小山内。彼は「2番目の瑠璃」の「父親」であり、初代の瑠璃に恋愛感情を持つ三角や正木とは事情が違う。ある日突然可愛い7歳の娘が、前世の記憶と取り戻して別人になって、好きな男に会うため親を捨てて家出を繰り返すとか、自分が親だったら悲しすぎる。これは小山内に限らず、歴代の転生瑠璃の両親みな気の毒すぎると思う。

    前世の瑠璃ではない、生まれ変わったあとのちゃんと両親が愛して育てた7歳の女の子はどこにいってしまうのだろう? 二重人格的な感じなのか、それとも完全にすり替わって、最初の瑠璃の記憶と精神が7歳の肉体に宿っているだけになってしまうのか。どちらにしても4回目の瑠璃が2回目の父だった小山内と再会してからの生意気な口の利きようが、あまりにも酷くて、いくら中身は元27歳だとしても、だからこそもっと礼儀正しい口はきけないものかと憤りすら感じた。年齢以前に言動が場末の水商売の女性みたいだ。

    そういうところも含めて、瑠璃があまり頭が良くなさそうなことに地味にイラっとしてしまうのが残念だった。見た目年齢小学校低学年の女の子が一人で行動すればどういう結果になるかは中身大人ならわかるはず。相手の男性はロリコンの汚名を着せられ誘拐犯にされてしまう。正木竜之介は最低な男で大嫌いだったけど、私が瑠璃の立場ならこの男には絶対近づかない。でも瑠璃は安易に利用しようとする(結果悲惨)そして何度転生しても、また同じ失敗を繰り返す。結果、会いたい相手との年齢差はどんどん開いていく。

    唯一、小山内に対して瑠璃の言った(した)ことで良かったのは、映画『四月物語』のエピソード。これはぐっときた。少しネタバレだけれど、瑠璃以外にもう一人、自分の意思で転生している人間の存在を瑠璃はほのめかすわけだけど、このもう一人のほうは、瑠璃と違ってとても頭が良く、瑠璃もこういうふうに立ち回れば良いのにと思った。

    あと、ひとつホラーな余韻が残ったのは、ある人物がすでに死去したことを強調されていたけれど、もしこいつも転生してたらほんと最悪だなという点でしょうか。強い恋愛感情を持つものが自分の意思で転生することが可能なら、それが両想いの場合は良いけど、片思い、一方的な執着でそれをされたほうはたまったもんじゃないだろうなあ。

  • まず岩波文庫的。これにはすっかり騙されました。ブックカバーをかけて読んでいたので尚更です。装丁をよく見ればすぐ分かるんですけどね。
    遊び心も楽しいです。

    容れ物話は置いといて、小説の中身ですが、これはもう面白くて一気読み。どう展開するんだろうかと。用意周到な作者の手練れに見事にからめ取られました。

    良質な大人のファンタジーです。
    話の筋の中で、荒谷母子がどう絡んでくるのかが読めず、落とし前の付け方がサプライズだったのと、エンディングが素敵で読後感を一気に爽やかにしているので救われました。

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著者プロフィール

1955年長崎県佐世保市生まれ。『永遠の1/2』ですばる文学賞、『鳩の撃退法』で山田風太郎賞受賞。おもな著作に『リボルバー』『Y』『ジャンプ』など。

「2016年 『まるまる、フルーツ おいしい文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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