- Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000017350
感想・レビュー・書評
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著者の論文6編を収録しています。
「日本思想という問題」「西洋への回帰/東洋への回帰―和辻哲郎の人間学と天皇制」「文化的差異の分析論と日本という内部性―主体そして/あるいはシュタイと国民文化の刻印」の三論文は、いずれも「日本思想」という制度的枠組みを駆動させている「主体」についての批判的考察がなされています。「「日本の思想とは何か」という問いを設定することによって、その問いに対する答えを知りたいという欲望が生じるとき、言説の領域としての日本思想史は始まる」と著者は述べます。この欲望が、「日本思想」の領域をつくり出しているのであり、それによってなにが排除されているのかということに著者は目を向けており、とりわけ和辻哲郎の日本文化論に対する批判がおこなわれます。
「文化的差異の分析論と日本という内部性」において、著者は文化的差異はけっして知覚されることがないと主張しています。それはあたかもラカンの「現実的なるもの」のように、われわれにとって出会うことのできないものの位置を占めることになります。こうした著者の発想は、「翻訳」というテーマについて論じた「序論 翻訳と主体」および「「文学」の区別、そして翻訳という仕事―テレサ・ハッ・キュン・チャの『ディクテ』と回帰なき反復」の二論文にもうかがうことができるように思います。翻訳とは、一つの言語がその外部の言語と出会う場所であり、翻訳はみずからの言語とは異なる言語を語る他者へと向かう欲望を喚起します。それにもかかわらず、われわれのこの欲望は「象徴的なるもの」としてのみずからの言語に絡めとられてしまい、それによってわれわれの「主体」が成立していると考えることができるでしょう。
また「戦後日本における死と詩的言語」では、田村隆一や鮎川信夫といった戦後の詩人たちの仕事に、表象不可能な「死」というテーマが発見されています。詳細をみるコメント0件をすべて表示