文学部唯野教授

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000020152

作品紹介・あらすじ

我らが若き主人公・唯野仁。彼は早治大学英米文学科の名物教授にして、実は隠れて小説を発表している新進作家、何やら不穏な幕開きである。「大学」と「文学」という二つの制度=権力に挑んだ衝撃の長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  •  ベストセラーなのでいまさら何をか云わんなのですが一応粗筋を書くてぇと、とある大学の唯野教授周辺の大学内政治のありさまをコミカルに書く一方で、印象批評からポスト構造主義までの文芸批評論を網羅できるという学術小説です。学内政治パートと唯野教授の講義で二度楽しめるといった具合に考えるといいのではないかと思います。

     文芸批評のさしあたったアウトラインを押さえられるので、ここから各方面、興味の向きに合わせて深化していけばいい。

     文藝評論、えー学術。志す人にはふたつの方向性があって、最先端を切り開く人と、逆にどんどんどんどんとふもとの方に向かって、切り開いたものを分解していく人って、あると思うんです。これは「評論」というジャンルに携わる人間における「適正」と「興味」の問題でして、このふたつの極に同時に存在すると云うことは原則的にありえません。先駆者は切り開くことで精一杯だし、分解者は要素を把握して分解するので手一杯になるであろうからです。

     本文にもあるんだけど、評論家の云っていることに反論できない作家が対抗策に一杯勉強して反論したので評論化がさらに難しいことを云うようになった、というあたりは、この『文学部唯野教授』を取り巻く感想とか批評の本質をつかんでいるなぁと思ったのです。あたらしい、革新的な理論を求める人にとって「分解」の作業というのは、そんなものわかりきっているから「本に中身がない」という批判が生じてくる。「衒学的だ」という批判も出てくる。

     んだけれどもね、まったくの素人がだんだんとその道に入っていく状況において、しったかぶりでも「衒学おじさん」だの「面白おかしい学術小説」がどれだけありがたいか、という話なんだよねぇ。

     記号論からはじめる構造主義入門の書として、いいんじゃないかと思います。
     これだけ読んで満足しちゃうと心もとない気はしますけど。

  • サブストーリーは余技。あくまで講義がメイン。

  • 仮にも文学部生なのに、作中の唯野教授の講義内容が、ぜんぜん、わからない やばい 勉強しよ

  • 唯野教授のコミカルで少し下品なお話と“教授”らしい大学での真面目な講義の2つのストーリーが展開される作品。目次を見る限りは講義がメインのように思えるが、どちらかというと講義の間にドタバタ喜劇がある感じだ。あっ、逆かも。ドタバタ喜劇の合間に講義があるのかも。

    私は理系なので文系の講義は体験したことがない。でも、こんな劇のように面白おかしく話をしてもらえるのなら受講していて飽きないだろうなと思う。本格的に文学や批評をしている人には物足りないのかもしれないが、素人の私にとっては何かを分かって気にさせてくれた講義だった。これからの読書をさらに良いものにできそうだ。

    あっ、あくまでもこれは感想だからね。批評じゃないよ。そんな畏れ多いことできないし。

  • 2014/11/22 読了

  • 私はこういうノリが大好きなんだよ~

  • 2012 6/26読了。筑波大学図書館情報学図書館で借りた。
    多くの方から、この業界で生きていくなら一読しておくと良いよ、とおすすめいただいた本。
    文学部の昇任したての教授・兼・覆面小説家、唯野仁の日々を描く。
    常識に欠ける奇人・迷惑な人物のあふれる大学の中で、友人の就職工作や人付き合いに奔走しつつ毎週の講義もこなす・・・。

    さすがに戯画化されているのでここまであれな大学というのはないだろうし、最近は業績についてもえらい厳しい世界になっているとか思いつつ、楽しんでいいんだか暗澹としていればいいんだか、とか考えながら読んだ。
    それにしても、主人公の唯野先生が、某知人の大学教員に雰囲気似ている・・・彼の台詞もその声で再生されてしまった。

  • 『工学部ヒラノ教授 / 今野浩著』で、紹介されていたので、読んでみました。

    文学論の部分は、よくわかりませんでした…。

  • 【推薦文】
    文学批評とエンターテイメントを同時に味わえる稀有な小説です。
    (推薦者:電気電子工学科 B3)


    【配架場所】
    大岡山:本館1F 一般和図書 913.6/Tu

  • 11月15日読了。早治大、なる大学の教授である唯野仁が下劣・低能なる大学教授たちの中、学内での出世と人気作家の両立を目指し奮闘する・・・という話ではあるが実際は主人公唯野が講義形式で語る文学批評の歴史、解説が最大の見もの。私にとっては2回目の読了だがこれは再読の価値あり。登場人物はいずれも幼稚で奇っ怪な人物ばかりだが、妙なリアリティがあり実際の大学内の政治とはこんなものかも・・・とも思わされる。文学であれ何事であれ、物事に絶対性やら「アウラ」やらを求めて神格化するのは正しい批評の態度とはいえないが、とは言え近代の批評は正しいものさし・権威ある価値基準を求めて随分迷走したものなのだな~事象は「差異の体系」によってのみ成り立つと言う構造主義と、事象自身には何もなく事象の周囲のことがらのみが事象を定義付けるとするポスト構造主義、についてちょっと理解がすすむ。

  • 難しかったけど、楽しかったです。さすがは、筒井康隆!!

  • 文句なしに面白かった。
    今を遡ることかれこれ30年ほど前(こう書くと大昔みたい)、文学部文学科日本文学専攻、いわゆる国文科の学生であった。
    そんなことすらも記憶の化石となりつつあったときに、読み始めたこの作品で、一挙に当時がよみがえってきた。
    思い出すこともなかった教授の顔や名前、そして受講した科目名までが思い出させるではないか。
    昨日ランチに何を食べたかは思い出せなくても、「青春」と呼べる時代のことは、何らかの誘い水があれば湯水のように次から次へとさまざまな光景や出来事が思い浮かんでくる。
    それも極めて立体的に、時には匂いや音までも伴ってよみがえってくるのである。
    で、この作品。
    初版は1990年1月26日。
    購入したのは1990年3月26日の第四刷。
    1980年頃からどんどん書籍が売れなくなってきたといわれている中で、わずか2ヶ月ばかりの間に第4刷までいっていることからも、この作品がベストセラーになったことがよくわかる。
    購入当時、なぜ読まなかったのか。
    きっとこの本以上に興味を惹かれることと、熱中していることがあったのだろう。
    それこそもう青春時代ではなかったので、からっきし思い出すことができないが…
    その四半世紀前の国文科の学生だったころに、この唯野教授のような講義を受けていたら、きっと私の学生生活も大いに変わっていただろうと思う。
    本当に興味を持って講義を聞いた科目ってあっただろうか。
    己の学習意欲のなさを棚に上げて、教授のレクチャーを云々する資格はないが、単位を落とすと困るので、とりあえずは授業に出ていたというところだろうか…
    それでも学内にはH教授というマスコミ界にもたびたび登場する非常に話のうまい教授がいて、その教授のクラスはいつも廊下にまで学生があふれていた。
    時には他の大学からも学生が聴講に訪れていた。
    この作品にも登場する「文学概論」だの「比較文学論」だのという科目も受講していたが、教授の話を聞くよりは、テキストを読んだ方がよほどわかりやすかった。
    唯野教授の「文学批評論」なんていう科目があれば、間違いなく受講していただろうに…と思うのは、今だからそう思うのであって、当時は諸先輩から得た情報に基づき、単位の取りやすい教授、出席を取らない教授、なんてのがクラス選択の基準だった。
    こういう態度の学生には、必ずそれに見合ったつけが回ってくると知ったのは、卒業を控えた3月。
    「源氏物語」が見事に「不可」。
    たった1科目のために大学5年生をやるはめになった。
    その後は学長になったその教授、厳しいことで有名だったが、必須科目で選択の余地なし。
    ちっともこの作品のレビューにはなってないけど、面白い本ってこんなところにあるような気がする。

  • 中学の時一回読んで、なんだかわかんなくて、大学1年の時にもっかい読んで、あー文学批評か、ほー、と思って、さっきまた読んで、すげーおもしろくなった。
    昔読むのつらかったけど、今は全然楽しめます。
    やっぱポスト構造主義のとこ好きだな、良く悪くも。

  • 一見、なんじゃこりゃ?と首をかしげたくなるような一風変わった作品を書く、筒井康隆。 その風変わりな作風はそのままに、文学部唯野教授が繰り広げる文学論と、その裏で泥沼にはまっていく教授やらマスコミやらの確執。 文学の専門用語がどんどん出てくるので、文体の軽さの割にはとっつきにくいかもしれない。

  • 筒井康隆版「なんとなくクリスタル」。ストーリーは別にどうでもいいが、唯野教授の講義は面白い

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著者プロフィール

小説家

「2017年 『現代作家アーカイヴ2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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