満月の夜の伝説

  • 岩波書店 (1994年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (64ページ) / ISBN・EAN: 9784000021487

みんなの感想まとめ

一見児童書の体裁を持ちながら、大人の心にも響く深いテーマを描いた作品です。隠者と盗賊の出会いを通じて、信仰や人間の本質についての考察が織り交ぜられ、思わぬ結末が待ち受けています。隠者は盗賊に悔い改めを...

感想・レビュー・書評

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  •  『はてしない物語』や『モモ』を読み終えた時は、ミヒャエル・エンデが神の使い、あるいは神そのものが彼に憑依していたのではないのかと思っていたけれども、本書を読んで、やはり人間だったのだと思えたことに加えて、それがどれだけ嬉しく誇らしいことなのかということも感じられたことで、改めて人間が生きることの深淵を垣間見た思いがした。

     エンデとビネッテ・シュレーダーのコンビによる作品は、『影の縫製機』以来だけれども、久々にこうしたシュレーダーの絵を見て、子どもの絵本で描いているそれとは全く異なる次元の違いをまざまざと思い知らされた、そんな戦慄の美しさは最初に目にする、嵐にあって沈んでしまった持ち船を為す術もなく見つめている隠者の両親の絵から既に感じられた上に、そこに漂わせていたのは悲しみや切なさ以上に、得体の知れない恐怖であったという、まるでこの世とあの世の狭間を描いたようなその独得な感覚は、間違いなくこれこそがシュレーダーなのだと思えた。

     シュレーダーの絵の世界の一つのイメージとしての『シュルレアリスム』という、その『超現実』の世界には、可笑しさも悲しさも怖さも不思議さも美しさも全てが渾然一体と化した中に於いて、こんな世界はあり得ないのではないかを、あり得るのかもしれないに変えてくれる、そんな夢を見せてくれると私が感じている中、そこで展開されるエンデの物語が大きな求心力となることによって、『現実を超えた先にある現実』こそが真実の世界と実感しうるのではないかということは、現実の世界で散々苦しみ、絶望を感じながら生きている人達にとって、大きな希望となるのではないかということになり、しかもその視点は宗教的なものを色濃く覗かせながら、至極現実的なのである。


     両親の境遇が一変したことによって、挙式の前日に聖なる契りを破られて駆け落ちされた孤独な男は、世を捨て聖なる書物の研究に専念するが、そこでかの聖者の最後の空虚な言葉を知ることで書物も捨て、二度と帰らぬ覚悟で立ち去り、やがて人里離れた谷の奥深くに見つけた岩穴で、ある約束の時を永遠に待ち続ける内に「隠者」となり、心の平安を得た、敬虔な世捨て人。

     その一方で、真っ当な人間の社会から締め出された、髪の赤い粗野な無頼漢は、自分の恋人を辱めた若者を怒りのあまり殴り殺してしまい、その死刑執行の前夜に脱走後、ある盗賊団に加わったが、そこでも問題を起こしてお尋ね者になったことで、またも逃げ続けることになり、文字通りどこにも居場所が無くなってしまった、孤独な「盗賊」。

     二人が運命的な出会いを果たした時、隠者は彼を弟子にし、永遠への事物への手ほどきをしようと心に決め、それは『これまでの罪深い行いを悔い、熱心に祈って神の恩寵を願うよう諭す』ことであり、それを盗賊はさっぱり理解することができなかったものの、それでも彼にとっては人生で初めて尊敬できる友を得たことで、隠者に対する印象は全く変わることが無かった。

     と同時に、隠者の願いを叶えることができないことに盗賊は心を痛め、どんなに頑張ってみても真の悔いの気持ちなど生じては来ず、かといって、嘘をついてごまかすこともしたくない、とにかく既にやってしまったことの為に神から罰せられるというのなら、それはそれで結構だという、ある種の開き直りを見せた。

     表紙の絵に関して、実は盗賊のある人間性が表れた、物語に於いても一つのターニングポイントとなる重要な場面であり、自らの腹を満たすため鹿を狩ろうとした盗賊であったが、その逃げていた鹿は何故か急に立ち止まっては振り向き、目を大きく見開いてずっと彼を見つめているだけで、しかもそこには殺されるかもしれないといった動揺や震えは微塵も見せずに、ただ整然としており、それを盗賊は理由も分からずにどうしても殺すことができなかった。

     それでも気を持ち直し、弓矢から小刀に切り替えて接近した盗賊に対しても全く動じない鹿は、ついにはそのまま盗賊が首を撫でるがままに任せている状況となり、それに最も驚いたのは、なんといっても盗賊自身であったが、少なくとも、この鹿にとって盗賊の過去や人の善悪たるものは判別できないかもしれないから、こうした行動を取ったのかもしれないが、それは『悔い改めよ』と誰かから言われなくとも、自ら悔い改める方法があるようにも思われた出来事なのかもしれないと感じた途端、何か不思議な気持ちにさせられるものがあった。

    『男はもう長いこと、人の首筋を、まして野獣の首筋を撫でさするようなことはなかったのだ』

     そして満月の夜、隠者にとって永遠とも思われた待望の約束の果たされる時が、ついに訪れるのであったが、それは全く予想だにすることのできない、思いも寄らない形であったことにエンデの意図するところが明白となり、それは神の教えだけが心の拠り所ではないことをはっきりと示しながらも、これまで抱いてきた倫理観や道徳観といった様々な価値観を変えさせるような思考の見直しを促してくれて、それは、人間はあくまでも人間によって変わるのだということと、人間には、たとえ目には見えなくとも善悪を超越した先にある気高さのようなものがあって、それこそが大切なのだということを、エンデから教わったような気がしてならない。

     あるいは、二人の出会いそのものが神による恩寵だったのであろうか?

     しかし、その物語を書いたのは紛れもない人間なのである。


     あなたは、神を信じますか?

     それとも

     ミヒャエル・エンデを信じますか?

  • 児童書の体を成した大人向けの本。文字数といい文章表現といい、テーマといい。
    「はてしない物語」や「モモ」の方が有名かもしれないが、こちらもおすすめ。
    エンデの、最後の児童文学。こののち病に伏し世を去ることになったことを思うと、このお話の意味も単なる寓話以上のものを感じる。
    シュレーダーの絵が非常に美しく神秘的でシュール。少し怖くもある。
    テキスト部分を読まずに、絵だけずうっと眺めていても飽きない。

    世を捨てて山奥で暮らす隠者と、悪事に身を染めてこの地に逃れてきた悪党が出会う。
    隠者はこの盗賊を弟子のように大切に思い「悔い改めよ」と説くが、頑迷な盗賊にはとんと通じない。そして満月の夜、「約束の時」が来て隠者は奇跡をみるが・・

    冗漫な印象の前半部分から読んでくると、後半部分はやや衝撃的。まさかそんなラストが待っているとは、予想だにしない人がほとんどだろう。

    信仰を積んだ心の清い隠者だからと言って、物事が正しく見えるわけではない。
    世の悪にまみれた人間だからと言って、判断を誤るわけではない。
    この悪党の存在が「きっかけを与えるひと」となっていく意外さ。
    微かな皮肉も効いて、読んだ後しばらくは考え込んでしまう。
    そして、敬虔な思いに打たれて言葉を失う。

    発売当時この本は、私にはかなり高額なものだった。
    それでも手に入れたのは、映画「フィッシャー・キング」を観た後だから。
    ロビン・ウィリアムズの名演に泣けて泣けて、「聖杯」の出てくる話を書店で探した時に巡り合ったものだ。もっともこちらの「聖杯」は、盗賊が盗み出す時だけしか登場しない。
    そんな縁で入手したせいか、本棚にあるこの本を読むと今でも涙が浮かぶ。
    もちろん泣くような話ではない。

    テキストだけのページでも、可愛い悪魔のような存在が隅に描かれている。
    訳者の佐藤真理子さんはエンデの奥さん。
    「宇治拾遺物語」に似ていると批判されたこともあったらしいが、私には今も大切な本だ。

  • 洞窟で瞑想修行する隠者は盗賊を悔い改めさせようとするが,絶体絶命のピンチを盗賊に救われる。隠者(聖人)の見落としを盗賊(俗人)が見破るのが皮肉で面白い。怪鳥グリプス

  • 人びとがまだ「天使」や「デーモン」がいると信じていた、何百年も昔のこと。 ひとりの若者が死ぬほど恋焦がれ、永遠の愛を誓い合った女性がいた。彼女は、こともあろうに挙式前日、他の男と駆け落ちてしまった・・・若者はあてもなく流離い、森の奥深くの岩穴で深い瞑想に耽る<隠者>となった。やがて、どういう巡り合わせでか、人間社会から締め出された無頼漢<盗賊>との邂逅の日が訪れる・・・。 神の言葉を伝える「大天使ガブリエル」の降臨をめぐる<隠者>と<盗賊>の交流を描いたミヒャエル・エンデ(1929-1995)の幻想訓話。

  • 隠者と盗賊

    「聖なる事は、聖人にしか見えない。」
    「思い上がり」

    お前の魂を救ってやろうなどと思い上がり、ふたりの関係と大天使、満月の夜という設定に、どんどん引き込まれていく。生きること、人と接すること、そんなことを考える大切な一冊だ。

  • 孤独と孤独。
    幻想的な絵と大人向けの文章、エンデだなぁという完全に善い悪いではない哲学。

  • 辛い思いをして隠者になった者。
    辛い思いをして悪者になった者。
    必ずしも清くいることで必ずや物事の正しさにたどり着けるわけでもなく、悪の限りを尽くしてきても本質を見誤らないこともある、なんとアイロニック!
    意外や意外な結末だった。

  • エンデの作品であることと
    なんとも蠱惑的なタイトルと
    静ひつな、満月の白い月明かりに照らされた森の表紙に魅せられて。
    隠者(聖人)と盗賊の物語。
    宗教的な要素を盛り込んだ寓話にスパイスのように皮肉が効いている。
    読んだ後もじっくり反芻したくなる。
    光と影、聖と魔、独特の色彩とタッチが印象的な挿絵も良い。

  • 賢い隠者と罪を重ねてきた逃亡者。
    読了に25分はかかりました。

  • 神秘的なお話に、絵がぴったり。何年も探してやっと出会えた絵本。

  • 精神科の病院の待合室にあったことがとても意味深い。
    ある意味精神科の患者って隠者だしなぁ…ヒキコモリとも高潔とも思考が宗教的だとも言える。
    そこで最後の、修行と瞑想の果てに見えた神々しい大天使が悪いイタチの化けた姿だったというのは、とても笑えた。
    愚かで即物的な盗人が愚かなりに考えて大天使に弓を射掛け、結果正解だったというのは、世の中の真理は単純だということか。
    そして、絶対的に正しいことなんてないんだなぁ、と思う。

  • 日本の昔話に似たようなのがある。

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