アイデンティティ\差異―他者性の政治

制作 : 杉田 敦  齋藤 純一  権左 武志 
  • 岩波書店 (1998年10月23日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (421ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000024785

アイデンティティ\差異―他者性の政治の感想・レビュー・書評

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  • 【倫理のパラドクス】p15
    差異の構成によるアイデンティティの確立。他者性の構築によるアイデンティティの自己確証。

    本書が吟味するのは、深いアイデンティティ、単一の責任、克服の機会としての偶然性、政治的な領域の外部の様相としての個人性、そして存在に内在する調和との宥和などに関する様々な理論が皆、倫理性のパラドクスを抑圧する誘惑をいかに含んでいるかである。p23

    【自由と可死性、アイデンティティ、ネーション】p34
    個別的な日々の行いを通じて、自らが属する秩序の運命にかかわりを持つこと。われわれの現在の貢献は、自らを越えて広がる将来にわれわれを結びつける。もしかしたら、われわれが育てた者たちはわれわれを誇りとして思い出すかもしれない。もしかしたら、将来の世代は現世代の努力と犠牲を思い出し尊敬するかもしれない。私の人生とわれわれの人生を越えて広がる未来に結びついていることで、現在の私は誇りを持つことができるし、私を待っている最期についても何となく慰められる。われわれはこうした慰めを求めるし、そうした慰めを追求することで、われわれが参加して準備しつつある将来を解釈することができる。

    【没我的自我】p45
    1968年以後のチェコスロバキア、そこでは集合的な記憶が公的記録やメディアから抹殺され、愛国的な反逆者の名声が徹底的に滅ぼされ、伝統的なルールや倫理的な指標が新たな環境に適合しなくなり、国家装置が日常的な風聞を警察監視システムの中に吸い上げていった。

    「人生は一度きりであり、われわれの決定のどれがよくどれが悪いかを決められない理由は、ある状況でわれわれがたった一度の決定しかできない点にある。われわれは個人的決定について比較するための第二、第三、あるいは第四の人生を与えられていない。この点において歴史は個人の人生に似通っている」p46

    今や必然性はもっと個別化され、偶然性は普遍化される。あらゆる個別性が偶然性をつくり出し、それに直面しなければならない以上、偶然性は必然性を帯びることになる。p56

    他者性の発見→1492年コロンブスのアメリカの発見。
    「発見」という言葉は、冒険、新しさ、奇妙さとの遭遇、未開発の豊かさ、所有権と権利の開始、前進と進歩などの意味を固定的なものとして保持しているため、ことによると、そこにアイロニーの観念を注入すべきかもしれない。発見者と彼が発見したものとの間の関係に、忘却・拒否・自己欺瞞・抹消がいかに入り込むかについての洞察によってもたらされるアイロニーを。p69

    トドロフ「われわれが求めるのは、アイデンティティの受け入れ強制を伴わない平等であり、そしてまた優越性/ 劣等生へと退行することのない差異である」p82

    私のアイデンティティは、私が承認し、欲し、同意するものというよりもむしろ、私が何物であるか、そして私がどのように承認されているかを意味する。p119

    ★あるアイデンティティを維持するためには、何らかの差異を他者性に転換すること、それを悪ないし数限りない悪の代理像の一つに転換することが避けられなくなる。アイデンティティは、自らが存在するために差異を要請しながらも、それ自身の自己確証を保全すべく、そうした差異を他者性へと転換するのである。p120

    【西欧における責任の慣行】p211
    西欧における責任の慣行は、互いに交差する二つの極として描き出すことができるだろう。
    水平軸の一方の極は発見されるべき深いアイデンティティ、他方の極は根本的な選択を通じ形成される自己から成っている。垂直軸の一方の極は原罪、他方の極は精神的な病から成っている。
    悪の問題が耐えられないほど強烈になったときには、この交差する十字架にこれまで様々な個人や集団が打ちつけられてきた。

    責任とは必要不可欠な両義性であり、現実的な制作物であり、構成された現実である。p215

    差異の脱政治化 p280 / アイデンティティのドグマ化 p287

    ☆われわれを形成するアイデンティティが汲み尽くしえない生の豊饒さを肯定し、しかも同時にアイデンティティを絆とする他者との結びつきを肯定しながら、差異をーわれわれが生き、是認するアイデンティティになじまないという理由だけでー制圧するような純粋でむらのないスタンスを退けるとすれば、われわれはどのように対応すればよいのか。p296

    差異を他者性に転換することによって自らを保全しようとする既成のアイデンティティの戦略を問題化すること。p297
    (for the sake of that)→私やわれわれが抱くようになったアイデンティティに内在する両義性を特定すること、私自身のアイデンティティのいくつかの次元をアイロニカルにとらえること、これまで自然なものとされてきたアイデンティティを政治化すること。
    アイデンティティのドグマ化に闘いを挑むながらも、アイデンティティが人間の生にとって不可欠であることを肯定すること。

    【アイデンティティの両義性】p298
    ①アイデンティティの不可欠性とアイデンティティのドグマ化への衝動との間の空間。
    ②一つの調和ある全体のうちに、その全体と相容れないところのあるアイデンティティをことごとく収容することは、秩序あるどのような生の様式にとってもおそらく不可能だということ。
    ⇒肝要なのは、この両義性を否定するのではなく、それが惹き起こしがちな否認や単純化に挑むことである。

    アイデンティティは、生を可能にする統一の場であるとともに、政治化されることを必要とする多種多様なズレの場でもある。p305

    【倫理を介した他者との結びつき】p309
    ①特定の他者との間でアイデンティティを共有すること。
    ②自らのアイデンティティを超え出るまだ追求されていない自己の可能性が他者によって呼び覚まされること。
    ③人間の条件の抜きがたい特徴に対して抱かれるルサンチマンの圧力に対処すること。
    ⇒倫理性を受容する力は、ひとたび倫理的な絆が差異のアゴニズム(agonism)を内包するものと見なされるようになれば、アイデンティティの境界を越えていく。

    【解決策】p321
    アイデンティティをめぐる優勢な基準を、アイデンティティのうちにある差異、不完全性、偶然性とった抜きがたい要素にもっと敏感なものにすることである。
    生に敬意を表し、人間の生のリソースとしての地球の脆さに注意を向け、アイデンティティの多義性を強調し、政治的な含意を現代の環境にふさわしいこうした複合性から引き出そうとする政治的な態度をもって、既成の現実主義と観念論=理想主義をたゆみなく問題化することが必要である。

    差異との共鳴、そしてそれが自己に呼び覚ます可能性から生命を引き出しつつ、他なるものとの出会いによって自己を超えて伸びること。自由という闊達な観念を単一のアイデンティティのモデルに留め金ではりつけ、最終的に固定するのを拒むこと。p365

    【デモクラシーとアイデンティティ】p358
    他のいかなる社会形態にもまして、デモクラシーは、人々が偶然性に曝されていることを強調し、アイデンティティに内在する差異を肯定することが公的生活に表現される見込みを増大させる。

    デモクラシーを、領土的な国家に閉じこめられた政治的なゲットーにしないためには、現代における資本や労働や偶然性のグローバル化に見合う形で、政治を同様にグローバル化する必要がある。p399

    【国家とアイデンティティ】p373
    国家を媒介として個人的なアイデンティティを集合的なアイデンティティにつなぐこうした大動脈は、社会的な共同性という骨肉に包まれている。ある文化や一連の制度化された役割、そしてある言語を共有することで、われわれは、可変的で不完全な形ではあれ、一連の予備的な理解や気質や反感などを共有しており、それが認知や判断や決定の構造に浸透しているとされるのである。

    国家こそが、自己意識のある集合的な行為についての公式の中心である。それは最終的に頼りとなる国家審級の制度であり、良かれ悪しかれわれわれが何者であるかを象徴し、その答責性(アカウンタビリティ)と実効性の制度を通じてわれわれが目指すものを実現するとされる。
    それは内部と外部、われわれと彼ら、国内と外国、市民的な諸権利の領域と戦略的な対応の領域、といった最も根本的な区分をする場である。

    おそらく今日では、国家とは、地球上における帰属性や忠誠や義務や政治的な動員の拠点の一つと考えられるべきであり、またそう生きられるべきであって、地球上では国境の内でも外でも他の同一化可能性が並立しているのである。p399

  • デリダ、ニーチェ、フーコーなどをふまえつつ極めてわかりやすく多元主義的な考えを説明してある。
    環境から生じるマイノリティについて、腑に落ちる説明がよかった。

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