死のクレバス アンデス氷壁の遭難

  • 岩波書店 (1991年5月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784000026840

感想・レビュー・書評

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  • 「本の雑誌」山の特集から。いやまあこれは、「壮絶」という以外に言いようがない。アンデス氷壁をアタック中、滑落後宙づりになってザイルを切断された筆者が、超人的な苦闘の末生還するまでの、肉体的精神的な格闘を、息詰まる筆致で描いている。

    とにかく肉体的苦痛のすさまじいこと。片膝の骨折(足があらぬ方向に曲がってしまうほどの)、手指の凍傷、脱水症状、雪盲などなど、著者が悲鳴を上げるたびにこちらも身がすくむ。加えて、意識の混乱、絶望、孤独といった内心の動きが、克明に詳細に描かれていて、ここが本書の大きな特徴だろう。

    著者は英文学と哲学の修士だそうで、これにはなるほどと納得した。この苦しみからもう解放されたい、進もうとするのをやめて、このまま死という休息に身をゆだねたいという誘惑にしばしば駆られながら、それでも体を前に運ぼうとする、その力はどこから来るのか。わかりやすい答えが示されていないことで、かえって考えさせられる。

    すごい本だと思うのだが、あと一歩没入を妨げるのが、山岳用語の説明があまりないので、今著者とパートナーがどういう所にいて何をしているのか、ややわかりにくく、隔靴掻痒感があることだ。山に詳しければもっとリアルに感じられただろうと思う。

  • 3、4周目

  • 舞台「Touching the Void」を先日鑑賞し、原作が俄然気になってきたので図書館でお借りして読みました。
    前半は登頂から事故までを、後半はザイルを切断されたジョーの死闘がそれぞれ描かれています。
    300pとは思えないほど内容はボリューミーで過酷でした。実話に基づいて進むので、どうしても登頂の様子とそれに伴う心情がメインになります。
    頻出する登山用語と、寒さ、痛み、苦しみの連続…。いっときは本当にこればかりの繰り返しなので、読みながら疲弊しました(褒め言葉)(読書体験の素晴らしい点です)。
    それにしてもジョーはただものじゃない。足が折れてしまった状態で、しかも姿が見えないからとザイルを切断されてしまったら普通、生きては帰れないですよね。いや普通ってなんだよって、私はクレバスに落ちるどころか登山経験すらない人間ですが、普遍的なイメージでは"死"を思い描きます。
    それをジョーは自力で何日も何時間もかけて、想像を絶する痛みと戦いながら下山を成し遂げた精神力。これがノンフィクションというから恐ろしい。
    ザイルを切断し、彼の抜け殻をその目で見てもなお、ベースキャンプに留まり続けたサイモンのことを思うと涙が出ます。虫の知らせなのだろうか。



    以下、好きなフレーズを抜粋(p190より)

    「その時、右手にザイルが下がっているのを見つけ、突然、サイモンもそれを見たのだという痛みに襲われた。氷から垂れている鮮やかな色のザイルは、私がまだそこにつながっているかも知れないという疑念を追い払う。彼は生き残り、クレバスを見たのだ。彼は救助を求めて去ったのではない。私は死んだ、とたしかに思って行ってしまったのだ。私は足元に目を落とし、跳ぶことに神経を集中させた。」

  • 足を骨折した状況で「クレバスで宙づりになり、ザイルを切断された作者が、底知れない極限状態の中での自身の精神との葛藤、傷ついた肉体を抱えて生還した状況を克明に描いている。紛れも無いフィクション。ぎりぎりの生死の境の中での自己の葛藤はかなり読み応えがある名著。
    そして作者は生還後、山へと向かっている。

  • 足を骨折し、クレバスに落ちながらも生還した登山家の手記。
    登山用語などわからないことが多く、少し読みづらいところもあるが、後半、ザイルを切断した親友の心の葛藤と、それによってクレバスに落ちた著者の半ば神がかりのような行動が交互に描かれているシーンは読みごたえがある。

  • 『凍』沢木耕太郎著、の中に出てきた本です。気になって、さっそく読みました。壮絶な生還が書かれてます。「NCR賞」「ボードマン・タスカー賞」を受賞。
     

     

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