デカルト研究: 理性の境界と周縁

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000027083

作品紹介・あらすじ

博士論文;博士論文

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  • 近代的な合理主義を基礎づけたといわれるデカルトの哲学を検証し、「理性の限界と周縁」をなぞる試み。F・アルキエとM・ゲルーという両極の間で展開していった1970年代以降のフランスにおけるデカルト研究の成果を参照しながら論点を取り出していく仕方で、議論が進められている。デカルトの合理主義の輪郭をある程度たどることができるのだが、個人的にはもう少しテーマを明確にしてほしかった。

    第1部では、『思索私記』や『精神指導の規則』などに見られる若きデカルトの学問理念の特徴が、同時代の思潮と比較しながら論じられている。当時はルルス思想が流行しており、魔術や神秘学的気運と百科全書的な合理主義的傾向をもつ普遍学への関心が密接に絡みあっていた。デカルトはこれらの思想を参照しながらも、「原因」を理解することによって発見したものをすべて包括するルルスらの記憶術をしりぞけ、「真の記憶術」をめざした。それは、ルルスの外的な結びつきにすぎない秩序を、内的関係の秩序に置き換えようとする試みだった。

    他方、F・ベーコンにも普遍学の構想はあった。デカルトはベーコンの著作に親しんでいたが、ベーコンの普遍学が「事物」(res)のレヴェルの秩序に基づいていたのに対してデカルトは、人間の内に単純者を見いだし、それらの相互に存する必然的結合の秩序に基づいく「普遍数学」の構想を抱いていた。

    第2部・第3部では、デカルト哲学の体系と諸相が扱われている。デカルトの「理性」(raison)は、普遍性を否定されることこそないものの、マルブランシュの考えるような絶対者である神との関係で理解されるものではなく、「人間の」理性、「私たちの」理性を意味する用法で使われることが多い。著者はこうしたデカルトの立場を「存在の両義性」の立場と呼び、マルブランシュやライプニッツの「存在の一義性」の立場から区別している。デカルトでは、有限な人間理性は、全知の神の理性がもつ観念と思考を持つことができないのである。ここに、デカルトにおける人間理性の境界線を認めることができる。

    そのほか、デカルトにおける理性と非理性的なものとの関係が現われている『情念論』の叙述や、デカルトにおける想像力についても検討がなされ、「理性の限界と周縁」というテーマに沿った考察が展開されている。

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著者プロフィール

一九四八年、東京都生まれ。パリ第一大学博士課程修了(哲学博士)。専攻は近世哲学。筑波大学名誉教授。著書に『デカルト研究――理性の境界と周縁』(岩波書店)、『デカルト『方法序説』を読む』(岩波現代文庫)、『主体と空間の表象――砂漠・エクリチュール・魂』(法政大学出版局)、訳書にデカルト『方法序説』『情念論』(ともに岩波文庫)、ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『ヒステリーの発明――シャルコーとサルペトリエール写真図像集』(上下、共訳、みすず書房)、ライプニッツ『モナドロジー 他二篇』(共訳、岩波文庫)などがある。

「2022年 『メランコリーの文化史 古代ギリシアから現代精神医学へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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