河合隼雄その多様な世界: 講演とシンポジウム

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000028042

作品紹介・あらすじ

心理療法から昔話やファンタジーの分析、ひいては日本人論に至るまで、多面的な活躍で知られる河合隼雄氏。本書は氏の多様な世界を解明すべく企てられた講演と熱気あふれる長時間シンポジウムの記録である。

感想・レビュー・書評

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  • 1992年にして、すでに河合さんは著名人から天才と言われていたのが、すごい。
    河合さんは心理学でなくても、どんな仕事に就いても成功していた人物だと思う。
    進行係は岩波書店の社長の大塚信一さん、柳田邦夫さんの話が難しいというか、柳田さん自身の話が多かった。
    河合さんの悪いことは言えないし、本人を前にして本人を語るのは難しいと思う。
    河合さんの話は、他の本でも語っている話が多い。

  • ・コンステレーションというのは星座ができているのですね。べつに私が北斗七星を並べたわけではなくて、生まれてきたらもうできておったのです。だからなんかもうできていたという感じがあるのですが、それだったら、人生運命どおりで変わらないじゃないかというけど、変わるのです。どう変わるかというと、やはり見る方がそのなかに入っていく、つまり自分も星座の一員になるわけですから、引力関係がかわるのですね。
    そして私は思います。私のところへ会いにきて話をされる人というのは、お聞きしていて、まず救いようがない、まず変わりようがないだろうと思う場合がほとんどですね。ほんとうに不幸な状態で、もう変わりようがないだろうと思うけど、これだけ変わりようがない辛い状態をこの人がここまで話されるのだから変わるかもしれないと思います。つまりそこまで意識されて私もそのなかに入れてもらったのですから、私もそのなかに入れてもらってここまで意識してきたので変わるかもしれないという感じですね。
    だからぼくは人間が知るというか、意識するということはすごいことではないかと思います。さりとて、私が変えようとして変わるものではありません。忠告して人が変わるということはほとんど考えられない。
    ただし、星の並びといいますか、そういうところをつかまえて意識していると変わってくる。

  • 河合隼雄。
    すごく引き付けられる学者で、
    学生時代、ユング心理学の世界で知った人だ。
    それ以来、色々読ませてもらったが、
    残念ながら、今はこの地上にはいらっしゃらない。
    この本を読んでも、色々学ばされた、
    改めて、感謝の気持ちを抱いている。

    いつも思うこと。
    自分とは何か?
    そして、他者とは?
    そして、
    生きるとは?
    生きる目的とは?

    そして、
    命とはそもそもなんぞや?

    そういった諸々の自問の問いに、
    河合さんはじめ、
    パネリスト5人の方が、
    それぞれの「世界」で論じられていて、
    自分の問いが、
    プロフェショナルのレベルで
    納得出来るような、
    そんな楽しささえ覚えた。
    (私のレベルでは、もう何をかいわんや、だが(笑))。

    まだ大学生の息子にこの本を譲ろうと思う。
    奇しくも、その息子が今日、電話をしてきたので、
    その旨を伝えた。

  • ★p18
    昔、ふとしたことで侍に斬られて死んだ人もたしかにいるでしょう。ふとしたことで息子が侍に斬られて死んだ家は、すごく悲しかったと思います。しかし、侍に殺されて死んだ家の人たちとジャンボ機が落ちて死んだ家族とを比べますと、ジャンボ機が落ちたほうは、なんのいわれも考えられないでしょう、私がどんな悪いことをしたのか、私がどんな身分であったのか、私がどんな人生を生きたのかとまったく関係なく、その人がその飛行機に乗っていたというだけで死ぬのです。

    ★p22
    たとえば「ぼく高等学校いやになったからやめるわ」といいますね。そうすると私たちはなんとなく「いやいや、やめんと続けたほうがいいよ」というけれども、それは科学に正しいでしょうか。どう思われますか。高等学校へ行くのをしぶって詩人になった谷川俊太郎などという人もおられますから、ひょっとしたらこの人やめたら詩人になるのではないかと思うと(笑)、なかなかむつかしいです。

    ★p24
    アメリカ人をみていると、ちょっと学生相談などに行ったら、ぼくは
    この大学やめてナントカ大学のどこかにかわるとかいうのです。きみ、どうしてかわるのかといったら、このあいだ学生相談に行っていろいろテストしてもらった、専門家の人がおまえはこういう学科のほうに向いているといった、それにはこういう大学がいいといったから、そこへ行くというのです、それでわたしはびっくりしました。彼は専門家のいうことをそのまま信じている。それはなぜかというと科学手だからというのです。
    私はそのときに、ああ、この国は科学信仰で生きている国だとほんとうに思いました。つまり科学を信頼しているのではなくて、信仰しているのです。

    p26
    中村裕次郎さんの本にずいぶん私は助けられました。そのなかで、科学の知、科学による知識ということと神話による知識とはどうちがうのか、どういういみがあるのかということが明確にかかれています。

    p29
    恐ろしいことは、人間の心を扱うときに、だれがどんんあ態度で扱ったかということが決定的な意味をもっている。それが私にとっては非常に大きいことでした。

    ★p30:母親と子供の関係について
    自動車でもなんでも、いわれているようにやったらちゃんとできるということをあまりわれわれは学習しすぎて、自分の子供をそういうふうにしようと思いすぎたのではないかと思います。私が自動車の運転が上手になるように、子育てを上手にやったらうちの子もスーッとよくなるのではないか。ここにものすごい大きい落とし穴があったように思います。
    そんなことはないのです。子どもは機会ではないのですから。そう考えると、それは子どもだけの問題ではないのではないでしょうか。

    p32/1
    p32.5

    p34.5
    p37/2
    p37/3
    p40/1
    p48/3
    p49/1
    p55/1
    p55/3
    これは寺田寅彦の随筆にあったと思います。寺田寅彦というのは大好きな人ですが、物理学をやりたいものはまずギリシャ神話を読めというのがどこかにあったと思います。それはどういうことかというた、物理学の根本のイメージは全部ギリシャ神話にある、寺田寅彦はそういいたいのだと思います。
    p67/3
    p70.3
    p70/3
    p78.2
    p81.1-3
    p87/1
    p90
    日本の学会のそれぞれの領域があまり沈滞していておもしろくないので、少しちがった領域のもの同士が刺激し合えるような話をしたらどうかという想いがおのずと固まってできた自由な会なのです。
    p91/2
    p95/ラス3
    p107.1
    イデオロギーや自然科学などの体系が、何かを切り離し、排除することによって、その整合性や正当性を守ろうとしたのに対して、コスモロジーは、すべてを入れ込むことによって、すべてをかかわり合わすことによって、ひとつの全体性を形づくろうとする。
    p107/3
    p108.5

    p132
    大江さんのお書きになった『小説の方法』という本がありますが、あれにはすごく教えられました。ふつうの日常的な言語と詩的言語とはちがいうという考え方ですね。

    p135
    正宗白鳥はみなさんよくご存知の、日露戦争当時もうすでに文学者だった、かつては読売新聞の記者でした。

    p136
    正宗白鳥には若い時に魂の師、精神の先生がありました。内村鑑三という人です。

    ★p142
    中村:言語というのは、それと距離のとり方をあやまると、たいへんに精神衛生に悪いところがある。
    その点で、なるほどと思ったものに、イヨネスコという劇作家の『授業』という劇があります。

    この劇が身につまされたのは、言語というものは眺めていくと、なにかほんとうに深い淵に飲み込まれそうになるからなんです。じつは、私も言語論に深入りしていたとkきに、ちょっとじぶんはおかしいのじゃないかと感じたのです。そのころ、ちょうどある精神科の先生となにかの雑誌のために対談をする機会があったので、対談のあとで、「ちょっと自分は変なのじゃないかと思う」といって判断を仰いだのです。そうしたらその先生から「そんなことをおっっしゃっているようならまだ大丈夫です」といわれて、「そうかな」と思ったことがあるのです。ここで付け加えておけば、私にとって「共通感覚」の再発見は、そのときのクライシスの所産なのです。

    p145
    私はノンフィクションのドキュメンタリーな作品を書く仕事をしております。ノンフィクションとはなにかという概念は非常にあいまいです。作家によってそれぞれに考えていることは違います。ただ、漠然というなら「事実をして語らせる」ということですが、そこで問題になるのは事実はなにかということになります。

    p147
    社会精神病理学を研究している野田正彰さんが最近岩波書店から出された『喪の途上にて』という本をお読みになれば、残された人々の内面になにが起こったか、そのもっとも肝心なところについては、ほとんど報道されていなかったにひとしいということにお気づきになるにちがいありません。

    ★p158
    よく考えたら、ぼくらみんな事故で生まれてきているともいえるのですね。さっき事故でたくさんの人がパッと死ぬといいましたが、事故でみんなボッと生まれてきているんですよ、ほんとうに生まれるはずだったかどうかわからんですがね、なんか知らんけど、生まれてきたのです。これは考えたら事故だと思えばいいので、その意味をどう考えるのか、事故の結末をどう生かすかが人生だともいえます。

    p163
    寺田寅彦が「物理学をやる人はギリシア神話を読みなさい」といったとおっしゃいました。それから雄二郎先生は「ユングをやる人はデカルトを読んでほしい」とおっしゃった。このなかには、「科学の知」のあり方を考えるヒントが含まれているように思います。

    ★p181
    物語をどういうふううに物語るかとうことは、相対的な関係で、相手と自分と似水平関係、語るものと語られるものの水平関係があって、お互いに影響しながら物語を進行させていく。そこに両社の支持しうるリアリティーを成立させながら展開していくものが、小説家の物語だと思います。

    p193
    医学は一九寝息以来、近代科学の様相を非常に濃くしてきました。西洋の近代科学はデカルトの二元論的な発想をベースに、森羅万象を基本的な要素に還元し、因果律を明らかにするという形で発展してきたわけです。しかし、そういう要素還元主義を基本軸とした科学の一翼としての医学は、人間の曖昧模糊とした部分を切り捨てて、ひたすら因果律をリニアに解明していくことを目ざす学問として発展してきました。

    p196
    人間対人間でつきあう介護職員は二十四時間観察することによって、そのなかから問題解決を引き出してくる。これは非常に重要な意味をもっている、と発言されたのです。

    p206
    成果をまとめて出す論文のなかで使う言葉はもちろん厳密・正確を要求されますが、現場の科学はなにかといったら、問いを出すことなのです。なにもわからない、いちばんあいまいなことをやっているのです。

    ★p218
    大学時代には一応悩んで、将来なにになろうかと考えこみました。そのために、大学を一年休学して帰ってブラブラしていましたが、いまから思うと、いまはやりの無気力学生のパイオニアだったのかもしれません。そのとき、兄の雅雄がよい相談役になってくれました。二人で長時間しゃべって、とうとう結論として、「なんのかのとよりは、ともかく勉強をまずすることだ」とわかるのですが、結論がでるのが二児、三時になりますので、「しかし、きょうはおそいから寝ることにしよう」ということになる。(笑)

    ★p222
    これはさきほどからよく話に出てきている井筒先生の表現を使いますと、「存在が花をしている」とか、「存在が河合やっている」ことになるので、みんなずっとつながっているのです。そして、井筒さんの書いておられた華厳経の話がぼくは好きで、華厳経を読んでいて「なるほどなあ」と思ったのですが、華厳的に考えると、結局、私の固有の性質なんてものはなんにもないんです。ただ、私と今江さんの関係があるのです。

    ★p226
    きょうはむずかしい話がたくさん出てきまして、むずかしい話もけっこうおつきあいをさせていただいていますが、非常に素朴なところでは、まあまあ、みんな幸福になったらええのになあという感じがあるのです。そして、そういう幸福になってもらうために役に立ちたいなという気持ちがある。

  • 良書!!
    河合隼雄氏の講演とシンポジウム録です。
    “人は物語る存在である。”
    また、カウンセリングとは、(悩みを解決していくのではなく)語り手の物語が、語り手のお腹に収まる場所を一緒に探していくことである。というような内容に目からうろこの一冊でした。
    隼雄氏の講演の中の、河合隼雄論の中の一節が好きです。(氏の隼雄論は面白いです。)
    最近の心のバイブル&良書◎

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