いのちとは何か 幸福・ゲノム・病

  • 岩波書店 (2009年12月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (128ページ) / ISBN・EAN: 9784000050586

感想・レビュー・書評

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  • 私が本庶佑(ほんじょたすく)先生を強く意識したのは、『友情 平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」』を読んだとき。平尾さんが若くして癌にかかっていることを山中さんが知り、平尾さんに癌治療法として勧めたいと考えたのが、当時治験が広がり始め、有効な臨床結果も出始めてきた免疫療法だった。

    -「僕(=山中さん)が平尾さんの治療法として考えていたのは、癌細胞がかけたブレーキを解除する「免疫抑制阻害療法」というものでした。この治療に使われる薬は、「免疫チェックポイント阻害剤」と総称され、いくつかの薬が開発されています。僕の専門は癌ではありませんが、癌の専門家はたくさん知っているので、いろいろな方から意見を聞きました。」「ニボルマブという免疫チェックポイント阻害剤を開発された京都大学医学部の本庶佑先生にも、平尾誠二という名前はいっさい出さずに、話を伺いに行きました。」-

    本庶先生に関して私はそれ以外の知識がなかった。だがこの本を読んで改めて、優秀な科学者って、まるで優秀な指揮者のようだと思った。なぜかというと、本庶先生の指揮によって生命科学というオーケストラが冒頭に重厚な合奏を聞かせていたかと思うと、先生がぱっと免疫学のほうを向いてタクトを振れば、楽団員である免疫学がそれに応えて細かい音符のニュアンスを奏でているみたいだから。

    もちろん内容は難しい。高等学校の授業で生物を学んだ程度では太刀打ちできない。しかし全体を流れる本庶先生の“哲学”が感じられるだけでも私はいいと思っている。私がこの本でわかったことは、私たち人間を含めた生き物は畢竟、ゲノム(遺伝子)で太古からその生き方が語り伝えられて、今を生きているということ。そのゲノム情報の突然変異と、それを生体が取り込み柔軟に活用することで、生き物としての多様性が生み出されてきたこと。その多種多様な生き物に共通する法則を見出すというのが生命科学の根本だということ。なるほどこうやって書いていると、ますます哲学に近づいてくる。

    その本庶先生の生物学者としての“哲学”が顕著に見えるのが、後段に掲載された物理学者の米沢富美子先生との対談だ。本庶先生は「生命科学は物理学や化学の原理に反するものではないが、生命科学が用いる原理は、物理学や化学から演繹的に導かれるものではない」と書く。つまり生命体の仕組は進化過程の「偶然性」に依存しており、進化の方向性は予想ができない。必然では説明不能であり偶然と考えるほうが合理的なのだ。

    一方で物理学の世界では、すべての現象は法則にのっとって必然であり、偶然に見えるものは法則が未だ発見されていないものであり、その法則を探究する学問が物理学だと考えられている。偶然に見える現象は実は必然だと物理学者として主張する米沢先生に対して、本庶先生は「待ってました」と言わんばかりに食ってかかる(笑い)。もちろん本庶先生は本気で喧嘩するつもりはない。本庶先生は、物質が生命体になった途端に偶然に支配されるようになる不思議さと、物理学ですら手に負えない未解明の領域が生命科学には存在し、それゆえの生命科学研究の面白さを提起しているのだ。

    なお、この本の初版発行は2009年。本庶先生がノーベル賞(生理学・医学部門)を受賞したのは2018年だから、ノーベル賞受賞前の出版だ。この本でも先生の研究の中核となる「ゲノムに刻まれる免疫系の〈記憶〉」と題された、抗原を抗体分子上に記憶するしくみが第5章で解説されている。出版時以降の研究の進展は未記述なのだが、研究論文はもちろんWikipediaですら文章が長くて理解が難しいと思った人にとって、この本ではたった10ページで概要がまとめられていてありがたい。

  • 正直、生物学のことは私には難しい。でも、本庶先生の生命科学と命に対する思いに共感した。
    命とは幸せであること。幸せであるには、不安感を拭うのが大切。人間の好奇心が科学を発展させたが、人間の活動には限界がある事を知らねばならない。全てを解明することが必ずしも人間の幸せにつながらないかもしれない。
    最終章の言葉に、人間としての謙虚さを感じた。
    巻末の物理学の先生との対談も興味深い。

  • ノーベル生理学・医学賞受賞した分子生物学者による生命科学の今後の指標

    現代の生命科学がやや易しく解説されながら、
    未来の学問の在り方について書かれている

  •  ノーベル賞の受賞が決まった著者の本を、偶然見かけ、読了。生命科学の革命的進歩をもとに、”人間とは何か”という問いの答えに、我々を誘う。自身の研究の成果に関しての控えみな発表が微笑ましい。一般のタブーを打ち壊すためにも、著者のような”権威”を持った発言が望まれます。

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著者プロフィール

本庶佑(ほんじょ たすく)
1942年、京都市生まれの医師、医学者。専攻は分子免疫学で、日本を代表する分子生物学者。2018年、ノーベル医学生理学賞を「免疫制御の分子の発見とがん治療への応用」によってジェームズ・P・アリソンと連名で受賞。
京都大学名誉教授・高等研究院特別教授、公益財団法人先端医療振興財団理事長、ふじのくに地域医療支援センター理事長、静岡県公立大学法人顧問、日本学士院会員、文化功労者。
免疫細胞の働きを抑えるブレーキの役割をもつ分子、「PD-1」を発見しその仕組みを解明。PD-1にブレーキをきかせ、免疫細胞にがんを攻撃させる治療薬を共同研究で生む。ロベルト・コホ賞、日本学士院賞、恩賜賞など国内外で数多くの賞を受賞。2013年文化勲章を受章。

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