確率論と私

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000052085

作品紹介・あらすじ

日本の確率論研究の基礎を築き、かつ多くの俊秀を育てた伊藤清。また数学界最高の栄誉の一つであるガウス賞の第一回受賞のほか、京都賞、ウルフ賞、藤原賞などを受賞した。本書は、氏の初のエッセイ集である。数学者になった経緯や伊藤の公式で名高い『確率解析』誕生の秘話、数学教育への提言、さらには『忘れられない言葉』『思い出』など、数学に携わる人々への深い共感を綴った。

感想・レビュー・書評

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  • 200円購入2020-03-08

  • 140201 中央図書館
    科学と数学の関係について、シンプルではあるがとても明確な考えが述べられている。
    <span style='color:#ff0000;'>科学者が発見した近似法則を数学者が磨きをかけて、矛盾のない論理体系としてまとめあげてから、科学者が頭の中でこのルールでゲームをして、自然現象を近似的に再現することができる。この方法で自然現象の予報が可能になるのである。</span>

  • 理論と直感、数学と科学について経験論を交えつつ俯瞰している。数学の捉え方や考え方の大事な事部分に触れる事ができたと思う。何度も再読したいと思う。人によっては、興味が持てない内容だと思うが個人的には大変有意義な本だった。

  • 確率微分方程式を作った伊藤先生のエッセイ集.数学者として,純粋数学・応用数学・物理学などの他分野へ機智に富んだ見地は,少しでも数学に関わる人全員に何かしら響くものがあると思う.芸術としての数学と,実用としての数学どちらも重要視しており,その両者への言及も興味深かった.
    伊藤先生の式は今では金融工学へ当たり前の方に使われているが,それに対する不安を論じているのも面白い.クオンツによる栄枯盛衰が謳われるよりずっと前に警鐘していたのかもしれない.
    おまけで,確率微分方程式を出来上がる過程を数式中心で紹介されている.こちらは本編と違って確率理論を学んでいること前提.

  • きんゆうこうがくで確率過程はいちおう勉強してて、たまたま本屋で見かけたので読んでみた。基礎つくった人の思想は気になるし。

    純粋数学っぽい人だと思ってたけど、実用重視というか応用からのフィードバックを重視してるのは意外と言えば意外。
    数学的な知見の成立過程についての考察は文化について考えさせられるところもあるけど、一部の天才がつくった学問であるとも言えるし、なんとも。
    きんゆうこうがくのくだりは結構微妙感あふれる書き味で、経済戦争の具に過ぎないのらそれはそれでそれまでだけど、無裁定を仮定した世界での保険理論であるととらえると捨てたもんでもない。でもきんゆうは実態があれなので、もう捨てたもんかも。このあたりの議論に数学はコミットしてくれないし、それはそれで別途考えるかなあと。
    あと、おまけで、確率過程とか思いついちゃった理由もついてる。

  •  本書は、確率微分方程式を開発した伊藤清理学博士によるエッセイ集である。収録されているエッセイが記述された時期は1978年~2006年にわたる28年間に及びます。

     エッセイで取上げられている話題は数学だけに留まらず科学全般に渡り、さらには著者の教育論や哲学・思想的なものにまで及びます。数学・科学の高等教育(高校~大学院)に携わる方々が読めば参考になる記述も散見されると思います。

     博士の数学観をウンチクするのは恐縮ですが、個人的に感じた著者の数学観の一旦を紹介しますと、数学には「科学的側面」と「芸術的側面」があり、両者は互いに必要で不可分、片方だけの視点に拘泥すると数学の学問的発展は滞るということになると思います。
     
     ここでいう「科学的側面」とは、いわゆる工学的に利用される側面としての数学、すなわち実学からの側面になります。一方、「芸術的側面」とは、例え理論構築する切っ掛けが実学だったとしてもひとたび理論体系が完成すると、現実から遊離して脳内でのみ存在する仮想空間で理論を展開する側面が数学にはあります。この現実から遊離した世界での抽象論、形式論等が「芸術的側面」となります。そして両者が相互必要かつ不可分というのは、実学から新理論となりうる数学の素材を求める視点・抽象論形式論の発展から実学への還元が起こりうるからです。

     代表的な実例を引用すれば、物理学は「科学的側面」としての数学を代表するものでありうるし、2000年来の歴史をもつ幾何学の「無限に広がる平面」などという概念は現実を遊離して脳内で設定しうる概念の代表例ではないでしょうか。尚、個人的な想像ですが、「芸術的」と表現されるのはその仮想空間でスッキリとした理論体系の完成度に芸術性を見出すからに他ならないからだと考えます。

     最後に、ネット等で著者の事を検索すると、しばしば「金融工学」の父 等と紹介される文面に出くわしますが、本書で著者が「金融工学」に伊藤理論(確率微分方程式)が利用されている事実を知った時の感想が述べられています。

     「私が想像もしなかった「金融の世界」において「伊藤理論が使われることが常識化した」という報せをうけたときには、喜びより。むしろ大きな不安に捉えられました。」(本書p135より)

     この不安はどうやら、「経済」の中の「金融」という局所で”経済戦争”を戦うために利用されている(特に若手数学者が、数学界から離れ経済方面で活躍する事実)事実を鑑み、もっと大所高所からの数学を思惟する著者の立場からの懸念であるように感じます。

     本書巻末には確率微分方程式の誕生に関する経緯を数学的に記述した部分も納められています。

     確率微分方程式を本格的に学びたい、入門の手がかりとしたい方には方向違いの内容ではありますが、生みの親である著者自身のエッセイ集であり、著者の数学観や教育・哲学・思想的なものに触れてみたい方にはお勧めできる一冊です。
     

  •  私は数学など、さっぱりわからない。なんといっても高校時代期末テストで4点を取ったほどだ(確か微積だったと思う)。クラスでも調子の良い奴が「やべぇ俺8点だぜww」とおちゃらけ、教師の失笑と皆の大爆笑を誘っている横で、それ以下な俺はもう笑いにすらならねぇ。いったいどうするべきかしらんなどと己のできの悪さにほとほと呆れ、その日の昼休み数学教師に頭を下げにいったのは今でも随分な思い出である。

     だから、この本に出てくる数式の類は私にとって挿絵くらいの意味しか持たない。あー、なんかよくわからないけど凄いこと言ってるんだろうなぁ、なんか凄い発見なのかもしれないなぁ、とひょいっと眺めてそのまま目を横に滑らせる。その意味で、この本の面白さの1割も私は味わえていないに違いない。

     それでも、多大な業績をあげた学者である伊藤氏の数学への熱意、真理を探求する姿勢は読むものの心を鋭く捉える。経済学を筆頭に現代の研究は実用性を重視する趣が強いが、氏が生涯を捧げた数学をはじめ「世界のなんたるかを追求する」道にこそ、学問の愉しみが生まれるはずである。このような素晴らしい学問の僕がいたことは、必ず記憶されねばならないと感じた。願わくば、次世代の日本から一握りの、真理の探究者が現れんことを。

  • 数学、物理学、自然科学を超えて芸術的側面までに及ぶ筆者の思考と見識に感慨著しいものを感じる。ブラックとショールズがノーベル経済学賞を受賞したが、伊藤氏からみたら確率微分方程式の純粋数学性こそがその追求点であり、実際の経済面への応用はまったく関心がなかったのだと思われる。この点に着目して授与されたノーベル賞のほうが私には、”純粋性”に欠くもののように思えてならなかった。純粋数学のスピリットそのものを精神に持ったすばらしい人である。

  • もっと分かることができればなぁと思う。

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