- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000062275
感想・レビュー・書評
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第1章はChomsky (2013) "Problems of Projection"の前半部分と同じような内容。生成文法理論がこれまで明らかにしてきたことと今後の研究の方向性を述べる。
生成文法以前の言語研究においては、「言語とは何か」という問題がきちんと定義されないまま、さまざまなベクトルで恣意的な事柄が述べられてきた。一方、生成文法理論は「階層構造をもつ表現の無限の配列(=syntax)」と2つのインターフェイス、すなわち「感覚運動インターフェイス(≒音声)」と「概念インターフェイス(≒意味)」との連携を言語の基本原理と捉え、それを説明すべき事柄としてきた。言語学はこの定式化を経て初めて、深いレベルでの探求が行われるようになった。
生成文法が明らかにした言語の特性として、「構造依存性」「最小計算」のほか、外在化(≒言語の音声的側面)が言語の本質ではなく副次的なプロセスであることなどが示され、こうした言語の諸特性を生み出す基本的な演算として併合(Merge)が説明される。
生成文法の最新の知見が平易かつ簡潔に述べられているが、例文もほぼなし、訳注も皆無なので、全くの初学者にとってはなかなか骨が折れるテキストだと思う。
第2章は政治運動や社会制度に対する、チョムスキーの鋭く強力なメッセージ。こちらは比較的読みやすい。質疑応答もおもしろい。
チョムスキーのメッセージは端的に言えば、「自由を勝ち取るためには、自分で調べ、自分で考え、自分で行動せよ」ということ。我々の社会は、全体主義国家とは違って、それが許された社会だ。過去200~300年の社会変革は、すべてそのような動きの中で起こったのであり、国家というものは国民が恐れるほどの力をもっていない、というのがチョムスキーの考え。大変勇気づけられる。
第3章は福井・辻子両氏によるチョムスキーへのインタービュー。前半は相当に専門的な内容。最新の生成文法理論の動向(Phase理論、Agree理論、第3要因、投射=ラベル付けの問題等)を押さえていないと細部まで理解するのは難しいだろう。後半はチョムスキーの政治思想のルーツが語られており興味深い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
チョムスキーの言語学と政治社会思想について一冊の本で扱われています。途中まで、読んでいてその内容の価値のみを見出していましたが、最後の編訳者による解説を読むことで、このような本が刊行されて良かったな、と思いました。その内容の意義が見出されました。本の主部分は講義録であり、既に公にされたものですが、こうして本になって、私のようにその場にいなかった人にも時と場所を越えて届けられた、その届けるだけの意義がこの本にはあります。
私は学問的な立場としてはチョムスキーに糾弾される方でしたし、その理論も理解できなかったり首肯しかねる部分もあります。以下はそれを踏まえた上で書きます。
チョムスキーが研究対象とする「言語」は、呼吸器官の振動や身振りといった外在化を本質の外に置き、言語や普遍文法はそうした外在化とは独立して存在する(すなわち外在化の特性によって影響されない、少なくとも依存しない)ものであることがその基礎に置かれます。その上で、言語は人間が種として備えている能力であると捉えています。
一方で、「自由」まるでそうした「言語」と対象として対置されるような外在化とは独立した人間の持つ特徴と捉えています。アダム・スミスは今日のネオリベラリストを含む経済学の基礎を築きましたが、その一方で分業について批判しています。これはリカードの比較優位というこれも今日では当たり前に理解されている理論に照らし合わせると意外ですが、啓蒙思想家としてのアダム・スミスにとっては、封建社会から逃れて自分が志向したところに行動できる自由の重要さを唱えることとは矛盾しません。ネオリベラリストにより外在化される現象を越えて、自由を唱えられることにこそチョムスキーにおける人間の尊厳があります。
そして、この言語と自由は人間を規定するに欠くべからざる特徴であり、言語は人間の自由を支える一要素であるでしょう。このようなチョムスキーの思想が結実し、そう重くない1冊の本にまとまっています。結局は自由及び人間が自由であることの理由と意義について書かれた本です。読むことで、チョムスキーの思索に触れると同時に自分の新たなる思索が開かれることでしょう。 -
言語学における革命家は、なぜ人間の自由のために闘い続けるのか−。2014年3月に行われたノーム・チョムスキーの2つの講演とディスカッションを収録。チョムスキーの思想を全体的な視野から捉えた論考も掲載。【「TRC MARC」の商品解説】
関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40233854 -
専門的な内容については理解しがたいが、言語に関する知見は楽しい。また、質問への向き合い方、誠実で信頼できる態度、確固たる回答などから、学者としての大きさが感じられた。また、学問とはこのようなものだということもよくわかる。
言語は完璧なシステムであり、ある時突然に獲得されたもの。それは生物や物理のシステムのようにわからないけど、そこにあり、生物として内在させているのが人間だ、という話。
もう一つは思想家としての話。社会正義の話。今でも悲惨なことは多いが、それでも人類の歴史から見たら格段によくなっている、だからこれからも良くなる、という考えが根底にある。だからこその活動なのだ、と思うと好感が持てる。 -
岩波書店ウェブサイトでは第2講演「資本主義的民主制の下で人類は生き残れるか」の冒頭が立ち読みできます:
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/1/0062270.html
岡ノ谷一夫さんによる書評(2015.11.15読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/life/book/review/20151116-OYT8T50053.html