顔学への招待 (岩波科学ライブラリー 62)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (112ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000065627

感想・レビュー・書評

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  •  顔って、重要だなと思う。コロナ禍に入って、Zoom会議をするようになって、自分の顔を見ながら話をするというのは、どうも苦手だ。こんな顔しながら話しているのだと思うと残念だ。いつの間にか、卑しい顔になり、顔の面積が増えている。ある人は髪が後退しているのではなく、顔が前進しているのだという。また、iPhoneも顔認識するようになり、マスクをしていても認識する。すごい時代が来たものだ。ところで、顔ってどう考えていいのかと思ったら、本書『顔学への招待』があった。
     人には、なぜ顔があるのか?
     生きるために顔ができた。まずは、口ができて、鼻、目、耳ができた。
     生き物が生きていくためには栄養をとらなければならない。そのために口ができた。その口は体の一番前にできた。前とは動物の体の動く方向。動く方向の一番前に口があれば、すぐに食べ物が口にすることができる。そうか。ミミズのイメージなのか。動かない生物、例えばイソギンチャクには顔らしきものがない。顔は一方向に移動するものだけについている。次に、食べ物があることを匂いで知るために、嗅覚器官である鼻が口のそばにできた。それから、外界から身を守るために、あるいは獲物があることを識別するために目ができた。耳は、外界の様子を知るために音の感覚器官としてできた。音を広くとらえるために動物では耳は頭の上についていた。ところが、脳がどんどんと発達して頭が大きくなると、上にあったものがだんだん横に押しやられた。ふーむ。おもしろい。食べる。匂いを嗅ぐ、見る、そして聞くと感覚が発展していった。そして顔ができた。
     頭と顔の区別は、解剖学者は、眉毛のところに骨の出っぱりの下からが顔としている。この顔の定義からは、額は頭の一部だそうだ。なるほど。全部ハゲちゃうと顔だらけになり頭がなくなるもんね。
     人間の顔は、脳の発達に伴い大きくなっている。
     顔の特徴は、毛がない。そして非常に柔らかい。時に口が柔らかいのが特徴。口の役割は食べることだった。そして、口のもう一つの役割は、相手を攻撃する道具としての口である。相手に噛みついて攻撃する。普通の動物は、前に飛び出ていて硬いのが特徴。ニンゲンは直立歩行するようになって口の役割が変わった。食べ物をつかむ手ができた。そのため、口は一番前に飛び出なくても良くなった。進化の過程で口は段々と引っ込んでいった。また攻撃も手を使えるので硬い口が必要なくなり、柔らかい口となった。口の周りが柔らかくなり表情が生まれてコミュニケーションができるようになった。そして口の形を自由に変えることができるようになり、喉から出す声を変化させることができた。言葉を得ることで、コミュニケーションができるようになり、そして言葉で考えることができた。ふーむ。おもしろい。
     衣服が発明されて、顔が露出した。つまり裸の部分が顔となり、裸の部分がコミュニケーションの重要な役割を果たした。顔を見ることで、識別できるようになり、顔が証明書になった。大宅壮一は「男の顔は履歴書だ」。リンカーンは「40歳になったら自分の顔に責任もて」といった。人相術なるものも生まれた。心理学者は、顔は「心の窓」という。コミュニケーションメディアとしての顔。道具としての顔。他人を惹きつける顔として、ニンゲンは化粧を使うようになった。色気を感じるのは、顔が裸だからだ。笑顔が相手の好意のサインであったり、相手を欺く、騙すための道具となって使える。哲学者は「存在としての顔」そして人類学者は「文化としての顔」を追い求める。
     美人の基準は、時代によって変わる。平安時代はふくよかな顔。それが江戸時代の瓜実顔と富士額になっていく。欧米では横顔が重視される。顔が立体的だから。エジプトの絵画も、ヨーロッパのコインも横顔が多い。日本では正面が重視される。そして、顔がアートの分野でも活躍し、能面、歌舞伎の隈取りなどが取り入れられ、アフリカでは顔に刺青をしたり、仮面を被り、仮面文化も生まれる。そして、顔の美醜によっての差別という差別意識さえ生まれるようになった。
     メディアが発達することで、「顔が氾濫」している時代。「顔が悪くなりつつある」時代にもなっていると著者はいう。
     日本人は二つの顔がある。ホリが深く、ヒゲも濃く、角ばっている縄文人顔と寒冷地にいたので凸凹のないのっぺりした顔で一重瞼の弥生人顔。縄文人は濃厚顔でソース顔であり、弥生人は淡白な顔でしょうゆ顔になっている。技術を持って大量にやってきた弥生人は支配者層となり、貴族顔になった。源氏物語絵巻、能面は弥生人顔である。そして、縄文人顔と弥生人顔が組み合わせたのが日本人顔で、堀の深いぱっちりした眼で小顔が良いとされるようになった。長谷川一夫、歌右衛門、原節子など顔が大きな俳優が好まれた時代があった。小顔は、顔の下半分が小さくなった。それは食生活の変化により、柔らかいものしか食べなくなった。噛む回数が減ったことによる。結局、小顔は幼児顔につながる。ニンゲンの幼児化を意味しているのかもしれない。
     当初、電話の発達、インターネットの発達でSNSやメールが旺盛になった時期は、顔が見えなくなった。顔なしコミュニケーションができることで、違う自分を発見し、演ずることができた。さらにフェイクニュースなどが生まれた。コロナ禍になって、顔を見せて会議するツールが発達して、コミュニケーションの多様性が生まれた。さらに、顔認証システムが発達した。
     こうやって、顔のことを考えていると、さまざまな顔の分野が広がりそうだ。顔学入門書として優れている。

著者プロフィール

ルーテル学院大学総合人間学部教授

「2022年 『世界の社会福祉年鑑2022(第22集)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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