ヒトと機械のあいだ―ヒト化する機械と機械化するヒト (シリーズ ヒトの科学 2)
- 岩波書店 (2007年4月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (171ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000069526
作品紹介・あらすじ
人間と機械がスムーズに「接合」し、あるいは「共感」し合う日は来るのだろうか。ヒトはどこから来てどこへ行くのか。
感想・レビュー・書評
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要約
1 ヒトと機械
1−1:人間要素の特色
一 ヒトには個人差がある
平均値が意味を持たない分布
二 ヒトは習熟する
量的:習熟曲線
質的:「状態」遷移の容易さ、
「文脈」 入力と出力が1対1ではない
三 ヒトは意味によって生きている
技術には「意味」を取り扱う方法論がない
一方、意味を除外することで科学技術は発展した
一旦方程式を立てれば、意味を改めて問うことはない
動機付け
意味のある文字列・意味なし文字列
未熟な子供ほど「意味論ない」の記憶が得意
1−2:ヒューマンI/F
1−3:拡張型の機械と代替型の機械
ヒューマノイド(ヒト型ロボット)
全ての道具・機械はヒトとのI/Fを前提として作られている
ヒト型ロボットは、その資産を有効活用できる
ヒューマノイド研究の本質は、ヒトの理解
対談:パラレル・リアリティの未来へー石井威望
人工臓器、DNA構造・人工脳・量子コンピュータ・量子宇宙観・未来心理
差異と反復・ライフログとミラーニューロン・交感するコンピュータ
2 ヒト化する機械
2−1:サイバネティックス:制御技術
不安定な方向への進化:四足歩行から二足歩行へ
自由度を与える・制御が前提
2−2:バイオミメティックス:生物に学ぶこと
植物の実→マジックテープ、鳥→航空機
アポトーシス(細胞死)
2−3:二足歩行とヒューマノイド
課題:地面の凹凸・段差・予期せぬ衝突・転倒
「認識」と「行動」は表裏一体である
2−4:認識するということ
見る:脳内の高次なプロセス
1.Appearance:現象:外界の物体
2.Sensation :感覚刺激:網膜像による視神経の刺激→光の配列
3.Perception:直感:能動的視覚→認識(三次元モデル)
4.Representation:観念:認知モデル→認知(意味づけ)
認知=思い込み・錯覚
矢印の錯覚・主観的輪郭・多義図形
2−5:コンピュータ・ビジョン
三次元描画:影線・凹稜線・凸稜線・境界線・クラックの区別
2−6:人工知能の限界
機械が得意:解けば解答が得られる問題・高次
機械が不得手:漠然とした常識・答えがない・仮定・柔軟性
フレーム問題:どこまでの副次的条件をチェックすべきか?無限ループ
コンピュータは情報を忘れることができない
厳密すぎるルールは役立たない
2−7:身体と知能
サブサンプション・アーキテクチャ
知覚入力→本能→アクチュエータ
本能とは:入力パターンに対して動的に出力パターンを生成する
小さなアルゴリズム
要所のコントロール=コツ
動作の自由度が得られる 例)体操の選手
アフォーダンス:知能の源泉を外界に求める
外部環境→感覚入力→知能→行動出力→外部環境
対談:ヒューマノイド研究の現在と未来 比留川博久
なぜヒューマノイドか?
運動能力はまだ90歳レベル
ヒューマノイドはまだ目が見えない
人間は、視覚をフィードバックし姿勢制御している
芝生・砂利・能舞台
転倒・受身・非常停止
人工皮膚と安全性
歩行制御理論の現在
ヒトらしい動きと安全性
低価格ロボットをどう実現するか
3 機械化するヒト
3−1:ヒトと機械との距離
アラン・ケイ:コンピュータは個人所有からInitimate(プライバシーの内側)へ
例)メガネ・歯ブラシ コンピュータと個人の一体化
ヘッドマウントディスプレイ、データグローブ
身体の境界:物理的→拡張
3−2:機械化するヒト
3−3:ウェアラブル・コンピュータ
MIT Media LabのSteve Mann
3−4:五感情報技術
触覚ディスプレイ・嗅覚ディスプレイ
3−5:BMI−Brain Machine Interface
ラットカー(東大満渕研究室)
対談:福祉工学とサイボーグ技術 伊福部達
人間の身体は状況に適応する
人体は変わるー福祉技術の難しさ
音声言語の獲得:二歳の壁・九歳の壁
個人差
福祉機器産業の課題ー小ロット問題
サイボーグ技術の現在と未来ー健常者化と超人化
パワーアシストと情報アシスト
人体になじむコンピュータは発明されるか
4 ヒトと機械の新しい関係
ヒトは機械によってどう変わるのか?
4−1:ライフログとバーチャルタイムマシン
4−2:パラレル・リアリティの世界
4−3:バリアフリーの新しい展開
4−4:少子高齢化とロボット詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「認知=脳」という考え方を超えた、身体そのものの特性(環境との接続)を活かす研究が紹介されている2007年の著作。
機械は、単独で存在する冷徹なイメージから、ヒトと共に進化を歩む道に徐々に近づいてきている。
一方で、急速な情報インフラの整備によって、身体の消滅(実際に行って、見聞きしていないような情報でも信じることがあたりまえとなるように)であったり、巨大なデータを解析できるようになって、身体に関わる全ての行為が、(生身の身体さえも)データとして扱われてしまうようになった。
その中で、システマティックな方法とは異なる、身体に根ざしたラディカルな方法論で情報社会を捉える研究が盛んになってきている。 -
3
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◆めざましい技術発達によって、ヒトと機械の関係が問われる時代になってきました。現在の機械は、大きく二つに分けて語ることができそうです。一つは、二足歩行や立体物の認識といった、(生物としての)ヒトが何気なく行っていることを再現する機械。もう一つは、ヒトに困難なことを代替したり(クレーンなど)、五感を拡張する機械(スマートフォンなど)。つまり、ロボットとそれ以外。
◆そのなかでも、最近になって登場した五感を拡張する機械(技術)には、現代社会の在り方を大きく変える力があります。スマートフォンや、これから現われるであろうウェアラブル・コンピュータ(洋服のように、ほとんどそれを意識せずに着用できるコンピュータ)は、現実と仮想世界をいっそう近づけるかもしれません。◆技術と社会という問題は、福祉工学ともかかわります。補聴器なども五感の補完、拡張をおこなう機械ではありますが、補完、拡張によって「常人以上の能力」を手にすることが可能になるからです。
◆ヒトと機械のあいだでは、機械のヒト化によって「人間とはなにか」という問いが生まれ、ヒトの機械化によって、ヒトからなる「社会の在り方」と機械を結びつけて考えなくてはならない時代になりました。この本を読んで、あらためてそのことを感じることができました(ただ、それをどう考えるかという点については、ヒントがちらほら見られるという程度)。 -
現代におけるヒトと機械の距離を観察することによって、ヒトの本質を探る科学書籍。良書。
本書は、まずヒトと機械との現在の立ち位置を整理した上で、ヒトの能力を代替する機械をテーマにした「ヒト化する機械」と、ヒトの能力を拡張する機械をテーマにした「機械化するヒト」を紹介している。内容は工学よりなのだけれど、トピックを分かりやすく説明してくれるので生物屋の自分でもついていきやすかった。「ヒト化する機械」では主にヒューマノイドや人工知能に焦点を当てており、「機械化するヒト」ではウェアラブル・コンピュータやBMIを扱っている。
ありきたりな感想だけれど、この本を読んで改めて「ヒトの機械化」を感じるようになった。街中を歩いていても、バス停で待っている人はケータイやスマホをいじっているし、歩きながら通話している人も多い(自転車に乗りながら、なんて人もいるし)。そうでなくとも、大抵の人はメールをしょっちゅう読むし、ネットでニュースを読んだり、動画を観たりする。もう精神的には機械とほぼ同化していると言っていいかもしれない。でも”今はまだ”意識的に電源を切ったりすれば、機械との遮断が可能ではある。
それがあと十年もすれば変わるかもしれない。メガネ型コンピュータの登場によって。自分にもまだ実感は無いが、多分そうなるという確信がある。それは機械が身体的に同化するから。メガネをかけている人が普段メガネを気にしないのと同じ。常に目の前でコンピュータが起動しているのが普通の時代になる、かもしれない。
これはミトコンドリアに似ているように思う。ヒトの中に機械が共生していく過程を、今自分たちは目の当たりにしているのだろう。こうなってくると人間性までも機械に託してしまうのではないかとさえ思ってしまうのだけど、そんなことは自分には分からない。ただ、遠い未来に第二の人類が自分たちを発掘した時に、ヒトというのがどういう生態をしていたのかを知ることが、より難しくなってきているのは確かである。 -
シリーズ「ヒトの科学」の第2巻『ヒトと機械のあいだ ヒト化する機械と機械化するヒト』
著者は、情報工学、ヒューマンインターフェイス、バーチャル・リアリティが専門の廣瀬通孝教授(東京大学大学院情報理工学系研究科)。
ヒトの能力を補完・拡張する機械、ヒトに似せた機械・・・
この本が書かれた2007年以降にも、去らなく革新を続けている技術だが、もともとは40年、50年以上も前から、いやもっとその前から機械と付き合いを続けているヒト。
あらためて、機械の存在について説明を受けると、様々な社会的な問題が浮上しているのが分かる。
ヒトに合わせる機械と、機械に合わせるヒト、その相互関係を、特にインターフェイスという点で学ぶことができた。
本書は、著者による機械に関する解説とともに、3人の専門家との対談が組み込まれていて、機械の現状や歴史や哲学などさまざまな説明を加えてくれる。
対談者は以下の通り。
石井威望(システム工学):「パラレルリアリティの未来へ」
比留川博久(ロボット工学):「ヒューマノイド研究の現在と未来」
伊福部達(福祉工学):「福祉工学とサイボーグ技術」
機械の利用が、空間や時間を超越した世界を生み出すこと、そしてそれが実生活で利用されること(利用されていること)など、あらめて気付かされることが多かった。
機械や工学というとドライなイメージがあったのだけども、かなり人間的な内容が吟味されていて面白かった。
このシリーズ「ヒトの科学」は、第4巻『包まれるヒト <環境>の存在論』に続き2冊目だが、本当に面白い。
全部読もうかな・・・
値段が高いのが、チョット・・・(図書館でかりるか)
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【目次】
はじめに
まえがき
1 ヒトと機械ーヒトにとって機械とはなにか
・人間要素の特色
・ヒューマン・インタフェース
・拡張型の機械と代替型の機械
対談 パラレル・リアリティの未来へ
2 ヒト化する機械
・サイバネティクス
・バイオミメティクス
・二足歩行とヒューマノイド
・認識するということ
・コンピュータ・ビジョン
・人工知能の限界
・身体と知能
対談 ヒューマノイド研究の現在と未来
3 機械化するヒト
・ヒトと機械との距離
・機械化するヒト
・ウェアラブル・コンピュータ
・五感情報技術
・BMI(Brain Machine Interface)
対談 福祉工学とサイボーグ技術
4 ヒトと機械の新しい関係ーヒトは機械によってどう変わるのか
・ライフログとバーチャル・タイムマシン
・パラレル・リアリティの世界
・バリアフリーの新しい展開
・少子高齢化とロボット
おわりに
あとがき
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・パラレルリアリティ:バーチャル,リアルの2項対立ではなくいくつもある世界のうちの可能性としてのリアル.
・拡張型の機械と代替型の機械.
・コンピュータビジョンの限界:フレーム問題.前提条件をどのように置くか.
→アフォーダンス(環境に埋め込まれた法則)が重要?
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ヒトは様々な機械を作り出し、もはや機械無しでは生活できなくなっている。ヒト化する機械と言えばロボット、機械化するヒトと言えばサイボーグが典型的な例だが、それらを作る技術はすでにSFの世界だけのものではなくなりつつある。また、そういう技術や製品が進化しヒトの生活に深く入り込んできた中で、ヒトと機械の関係がどう変化しつつあるかを考察する。
この本は「シリーズ ヒトの科学」という全6巻の連作の第2巻に当たる。著者による文章と専門家を招いた対談が交互に掲載されて、平易な文章なので一気に読める。技術の紹介が多く読み物としては面白かったが、個々の内容の掘り下げはやや浅い印象がある。
私は以前から、「パラリンピックはサイボーグのオリンピックだ」と言っているが、この本の中でも福祉機器が進化して健常者の能力を超える可能性について指摘されている。そうなれば次に来るのは健常者の能力拡張だと思われるが、いかに。
攻殻機動隊のファンとして見逃せない「脳に直接アクセス」についても触れられているが、現実的なインターフェースはウェアラブルコンピュータの延長にあるのだろう。
などなど、興味深いテーマが繰り広げられているが、ちょっと物足りなかった。