即興詩人 (下巻) (ワイド版岩波文庫 (19))

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レビュー : 4
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000070195

作品紹介・あらすじ

原作が童話集ほどの名声を得なかったにもかかわらず、日本において今なお多くの読者をかちえ続けているのは、いつに鴎外の名訳にあることはいうまでもない。自由自在の語法と華麗でリズミカルな文章によって醸し出されるロマン的雰囲気は遙かに原作を凌ぎ、その後の日本文学に多大の影響を与えた。

感想・レビュー・書評

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  • 「名訳は読ませる」の見本のような、訳者としての森鴎外によるリズミカルかつ典雅な日本語がたまらなく美しい、アンデルセン作の長編小説。

    あらすじとしては、19世紀前半のイタリアを舞台に、アントニオという男性の幼少期から青年期までの数奇な半生を描いた作品です。

    童話作家となる前のアンデルセンが、イタリア旅行中の体験をもとにまとめ上げた自伝的小説とのことで、ローマのコロッセオやサン・ピエトロ大聖堂、ヴェネツィアのサン・マルコ広場、カプリ島の青の洞窟といった、イタリア全土に散らばる美しい遺跡や風景、年中行事、文学や芸術などが、幾つも幾つも登場し、丁寧に描写されており、まるで細密なイタリア旅行記のように楽しめます。

    また、富める者と貧しい者の一見親しいようで距離のある微妙な関係性や、臆病なアントニオが内に秘める自尊心や孤独など、人間の本質を巧みについた点もあり、後年開花するアンデルセンの才能の鱗片も見られます。

    しかし、小説のストーリー展開としては、正直、ご都合主義で荒唐無稽な部分が多かったりと、粗が目立つ点は否めません(現在でも古典オペラとかはそんな感じなので、どうしても許せないほどひどいわけではないのですが)。
    そのためか、本国のデンマークやヨーロッパ諸国では、1835年の出版当初頃を除いて、ほとんど読まれていないそうです。

    しかし、日本でだけは明治35年の刊行以来現在まで、異常に多く読まれて愛されてるそうです。
    それが何故かといえば、「原作以上の翻訳」と言われた鴎外による名訳によるところが大きい…との話を聞いて以来、いつかは読みたいと思っていましたが、実際に読み終わってみて、本当に読んでよかったと思いました。

    鴎外の文語体の代表作である「舞姫」をはるかに凌駕する複雑な雅俗折衷の擬古文は、意味を取れない部分が正直たくさんありました。けれど、それすらも、まるで音楽の旋律のようにリズミカルで流麗な文体の美しさや、まぶたの裏にその鮮やかな色彩や風景が浮かぶような言い得て妙の数々の表現を楽しむことを中断する理由にはなりませんでした。

    特に、その音律の良さは説明できないほど見事で、途中から、より一層楽しむため、黙読ではなく、声に出して、音読しながら読んでしまいました。そのせいで、読み終わるまでにかなりの日数がかかりましたが、これは実行して本当によかったと思います。
    繰り返しですが、本当に、上質な音楽みたいな文章です。

    また、文体の美しさだけでなく、川口朗氏による巻末解説を読むと、鴎外は翻訳するにあたって、西洋に関する知識をほとんど持たない当時の日本の人々を意識し、ただ訳すだけでなく、1.加筆、2.省略・圧縮、3.書き換え、を駆使しながら訳したそうです。例えば、西洋の故事を類似の中国の故事に変更するなどの工夫がなされており、内容を比較すると、これにより、確かにその時々の情景把握が日本人にはわかりやすくなっています。

    鴎外は、ドイツ時代に出会って以来、「わが座右を離れざる書」というぐらい、この作品が大好きだったそうです。訳し始めてからは、先に述べたようなこだわりと創意工夫に加え、軍医としての従軍などの諸事情もあって、完成までに約10年の歳月をかけました。

    鴎外訳の「即興詩人」の魅力に取り憑かれ、その口語訳を出版するまでに至った画家の安野光雅さんによると、鴎外は訳し終えた後の日記に「微雨。夜即興詩人を訳し畢る。」と記したとのこと。
    短い言葉の中に万感がこもってるなあ、と感じました。(鴎外訳の意味が取れない箇所は、安野さんによる「口語訳 即興詩人」を参考にさせてもらいました。現代の言葉に置き換えながらも、鴎外が苦労して作り上げた美しい風情を残した素晴らしい訳です。)

    久々に、言葉に酔いしれる経験をさせてもらったなあ、としみじみ思った作品でした。

    「薔薇(そうび)はすでに凋(か)れ、白鵠(くぐい)は復(ま)た歌はずなりぬ」
    …なんて、日常ではもうお目にかかれないですよね。

  • 資料番号:010275881
    請求記号:949.7ア

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    原作が童話集ほどの名声を得なかったにもかかわらず、日本において今なお多くの読者をかちえ続けているのは、いつに鴎外の名訳にあることはいうまでもない。
    自由自在の語法と華麗でリズミカルな文章によって醸し出されるロマン的雰囲気は遙かに原作を凌ぎ、その後の日本文学に多大の影響を与えた作品。

  • イタリア、ローマなどを舞台とした作品です。

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著者プロフィール

アンデルセン(1805年~1875年)●
デンマークの童話作家。貧しい家に生まれたが、本人の努力と周囲の助けで大学に入学した。オペラ歌手を目指したが挫折、1835年に小説『即興詩人』を出版し、一躍有名に。その後、童話作家として多くの作品を残した。お話は民話をもとにしたものではなく、自分自身の創作であった。代表作に『マッチ売りの少女』『みにくいアヒルの子』『はだかの王様』など。首都コペンハーゲンに、人魚姫の像がある。

「2017年 『美女と野獣 七つの美しいお姫さま物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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