破戒 (ワイド版岩波文庫 270)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000072700

作品紹介・あらすじ

新しい思想を持ち、人間主義の教育によって不合理な社会を変えて行こうとする被差別部落出身の小学校教師瀬川丑松は、ついに父の戒めを破って自らの出自を告白する。丑松の烈しい苦悩を通して、藤村は四民平等は名目だけの明治文明に鋭く迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 事前に父から「堅いけど、ラストが甘い」というコメントを聞いた上で読み始めた。堅いというから中島敦みたいな文体を想像していたけど文章自体は読みやすかった。堅いというよりは、主人公の境遇や心情、冬の信州の描写のため雰囲気が重く厳しい。長野県在住の身からすると自然の描写はかなりリアルで素晴らしいと感じた。また、たまたま主人公と齢が同じで、苦悩する彼には感情移入しやすかった。
    終わり方は確かに生ぬるいと感じた。あとがきに述べられているように、藤村は部落民の問題の解決に至ることはできなかった。実際、丑松がひざまずいて生徒に謝るシーンは歯がゆく思った。これを男らしい告白と言えるだろうかと批判したくなったし、丑松や蓮太郎自身が、部落民はあくまで卑しいのだという意識から逃れることができないことが悲しかった。そういう意味では決してハッピーエンドではないと思う。まあ、これが現実的な終わり方だったのかもしれないが、あと一歩進んだところで終わったなら読者ももう少し満足したのではないかと考える。

  • 2022年7月映画化
    摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB10058944

  • 部落問題もさることながら、「隠せ」という言葉が非常に重い。読んで良かった。

  • 「何故、自分は人らしいものに斯世の中へ生まれて来たのだらう。野山を駆け歩く獣の仲間ででもあつたなら、一生何の苦痛も知らずき過ごされたらうものを。」教員として生活する丑松の隠された出生と秘めた思い、葛藤が痛々しい。最後、生徒の前で出生を打ち明け、涙ながらに頭を床にこすりつける、その悔しさとも何とも言えない心情の描き方は、過去の大きな差別の深さを表している。差別は、口をつたって広まり、一瞬で人を変えてしまう。選べることのできない生まれをどう受け入れるか。そして、秘めないといけない社会がどれだけ歪んでいるか。声高には批判はしていない。社会の側面を描ききっている。

  • 9月20日読了。iPhoneアプリにて。「新平民」被差別部落出身の教員の青年が、「決して出身を他言するな」という父親の戒めと、出自が露見するのではないかという恐れと、正々堂々と己を主張したいという苦しみに煩悶する。新平民であることを隠さず、著書を世に出して活動する先輩に憧れ、打ち明けようと悩みながらも打ち上げられない・・・という悩みは種類は違えど自分にも覚えがあるもの。「私は人を出自で差別などしないが、でも世間には色々なことを言う人がいますからねえ」という、この校長のようなしゃらくさい意見を言う輩がいるから、今の世にも歪な形で差別が残ってしまうんだよなあと思う。タイトルとあらすじから、もっと破滅的な結末を想像していただけに、ハッピーエンド(なのか?)であったことに少々驚いた。

  • 十字架を背負って生きる。

    我慢、おびえ、苦痛が伝わり、
    これがいつまで続くのか?どのような展開になるのか?
    と悲しみをこらえられず残りのページの厚みを何度も確認してしまった。

    最終的には救われたが、
    ギリギリまで主人公の精神的疲弊に臨場感があった。

  • 解説にある通り問題について根本的に対峙しているか、という点はやはり難だが、一つの文学作品としては相当良い。
    詩人がこの文章を書くのはなんだか意外な感じがする。そういった面では中勘介とタイプが似ている感じがする。
    ほかの作品も読もうと思う

  • 改めて読み返すと、新たな発見があるかも。

  • 身分制度が廃止されても、やはり依然として人々には受け入れられない部落民。主人公が自分の身の上を必死で隠しうつむいていたが、一転「我は穢多なり」と自己を肯定し生きていこうとする様。平等ではない社会にやりきれなさに涙が出た。

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著者プロフィール

1872年3月25日、筑摩県馬籠村(現岐阜県中津川市馬籠)に生まれる。本名島崎春樹(しまざきはるき)。生家は江戸時代、本陣、庄屋、問屋をかねた旧家。明治学院普通科卒業。卒業後「女学雑誌」に翻訳・エッセイを寄稿しはじめ、明治25年、北村透谷の評論「厭世詩家と女性」に感動し、翌年1月、雑誌「文学界」の創刊に参加。明治女学校、東北学院で教鞭をとるかたわら「文学界」で北村透谷らとともに浪漫派詩人として活躍。明治30年には第一詩集『若菜集』を刊行し、近代日本浪漫主義の代表詩人としてその文学的第一歩を踏み出した。『一葉舟』『夏草』と続刊。第四詩集『落梅集』を刊行。『千曲川旅情のうた』『椰子の実』『惜別のうた』などは一世紀を越えた今も歌い継がれている。詩人として出発した藤村は、徐々に散文に移行。明治38年に上京、翌年『破戒』を自費出版、筆一本の小説家に転身した。日本の自然主義文学を代表する作家となる。

「2023年 『女声合唱とピアノのための 銀の笛 みどりの月影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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