ドン・キホーテ 後篇(二) (ワイド版岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000073332

感想・レビュー・書評

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  • 三回目の冒険では、ドン・キホーテはそこいらじゅうできちんとお金でもって弁償をしている。辻褄をあわせるみたいに(ヒーロー映画でむかしあったクレーム対応みたいに?)。
    森のなかで出逢った公爵と公爵夫人による壮大なフラッシュモブみたいなドッキリ(「いったい、おいらの尻が魔法と何の関係があるんだね。」)がおもしろすぎる。自業自得? あるいは"苦行"への揶揄? けれどこの計らいによって、サンチョはけっきょくは救われたのでは??可哀想なサンチョ。あぁおもしろい(ごめんね)、最高。領主になった(?)サンチョがさっそくなんだかかっこいいし、ときたまとびだす真理の煌めく、そんなあんたがとてもすきだ。
    あと老女論争がおもしろかった。愛おしい偏屈たる真理。ぼやきなる叫び。こういう芸風(芸風?)がとても好みだし、信頼できる。そしてなるほど、自己啓発本(セルバンテス的"魂を飾るべき教訓")にもなっている本書は、信仰という敬虔で堅牢な土台があるがゆえの、とても頼もしいものになっているのかも。
    茶番のあとの、夜明け(をえがくさま)は美しく堅固で、とてもあんしんする。にんげんがどんなに阿呆でもちっぽけで心許なくとも、大地はゆるぎなく美しい。

    そしてなにかの伏線みたいな台詞。「彼はその日はじめて、自分が空想上の騎士ではなく、正真正銘の遍歴の騎士であることを認め、確信するにいたった。」
    完璧にしんじているのだとおもっていたから驚いてしまったのだけれど、特に関係ないのかもしれない。わたしたちの心に日々そよぐ風みたいに。



    「しかも、おそらくはどこぞやの神学校の窮屈な寄宿舎に育ち、ほとんど周囲二、三十レグアほどの小さな世界しか知らぬような者が、勝手気ままに割りこんできて、騎士道を裁き、遍歴の騎士を断罪するなど、許されることでござろうか?」

    「「奥方様、音楽のあるところにゃ、悪いこたあ起こらねえです。」
    「光と明かりのあるところにもね」」

    「サンチョよ、お前が天上で見たことを人に信じてもらいたければ、わしもわしがモンテノーシスの洞穴で見たことを、お前に信じてもらいたいものじゃ。わしはもうこれ以上なにも言うまいて。」

    「だってそうじゃありませんか、芥子の種ほどのところを支配するってのがそんなに偉いことでしょうかね?また、ハシバミの実くらいの人間を半ダースほど、おいらの見たところじゃ、世界中にこれくらいしかいなかったけど、それを治めるってのが、それほど威厳に満ちた、権勢を示すことなんでしょうかね?」

    「そして、侮辱されて打ちひしがれた老女族、つまり薬屋たちに憎まれ、従士たちに陰口をたたかれ、小姓たちに愚弄されている老女たちを護る盾とも防壁ととなるための気力と隆運が、あなた様の心に吹きこまれますように!」


  • 騎士ドン・キホーテと従士サンチョ・パンサの珍道中が続く。 印象に残ったのはふたつの出来事。

    ひとつは、川舟で水車を攻めるの巻。
    騎士は、川べりで漁師の小さな川舟を見つけるや妄想を逞しくし、これに乗って川の流れに船出(気分は大いなる航海への出帆)。ほどなく行く手に水車小屋が出現。騎士はこれを敵方の砦と思い込み(例によってそう見える)、流れのままにその「砦」に向かって攻め込まんとする。一方、小屋の中では粉ひき人夫たちが働いて居た。人夫たちは、近づく小舟がそのまま水車の車輪に激突して破砕する遭難を回避すべく、総出で長い棒竿を繰り出して、騎士と従士が乗って接近する川舟を遠ざけようとする。このときの絵面がなかなか気が利いている。粉ひき人夫らは、小麦粉やらの粉にまみれて顔から全身真っ白。その異形でもって(騎士らの衝突を防ぐため)揃って棒竿を手前に突き出したのだ。その様相、騎士ドン・キホーテには、まさに異形の怪物が自分らの戦舟に向かって武器を突き出して戦いを挑むの図。
    この絵面、コメディとしてよく出来た設定ではあるまいか。

    もう一つのエピソードは。公爵夫妻との出会い。夫妻は、騎士ドン・キホーテと従士サンチョ・パンサを歓待。騎士と従士は何日もの間その館で過ごす。
    これは第30章からこの巻終わりの49章まで続き、さらに次巻に続く。かなりたっぷりのエピソードである。

    そして、この館で騎士と従士は、またもや幾つかの「冒険」に出あう。だが実は、それらの「冒険」は、この夫妻が巧妙に仕組んだもの。ドン・キホーテの物語(前編)は既にスペイン中で広く読まれており、この公爵夫妻はとりわけ熱心な愛読者のひとりであった。つまり、騎士の狂気やら、従士の性格やらをすでに十分に予習したようになっている。そのうえで、騎士と従士をからかって楽しむべく、公爵の侍従や侍女を総動員して大仕掛けを仕込むのだ。つまり騎士と従士に「ドッキリ」を仕掛け、その様を眺めては笑いを噛み殺すのに必死、という展開が続くのだ。
    公爵夫妻のこの策謀のなんとも悪趣味であることよ。そして、そもそも、公爵夫妻が小説前編の読者だという倒錯の上に成り立つ、奇抜なメタフィクション。
    1615年の刊だというが、この点、つくづく卓抜だと思う。

    この公爵、従士サンチョ・パンサを念願の「島の領主」に任命する。これも、公爵夫妻のドッキリの仕掛けなのであった。この「領主の話」は、次巻に続く。
    ちなみに、領主赴任の前夜、騎士や従士に対して、領主の心得を切々と説く。その件は、ちょっとしんみりと胸を打つものがある。

  • 世界観がすごく明るくて、へこたれないドン・キホーテとサンチョ見てるとやっぱり元気出る!
    魔法使いだったり、空飛ぶ木馬とかの登場もウソなのに雰囲気出てて面白かった!

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著者プロフィール

Miguel de Cervantes Saavedra(1547 – 1616)

「2012年 『新訳 ドン・キホーテ【後編】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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