学力を問い直す: 学びのカリキュラムへ (岩波ブックレット NO. 548)

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  • / ISBN・EAN: 9784000092487

感想・レビュー・書評

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  • 20130218

  • 学びにおいて必要なことは、わからない(できない)ときに階段を降りて下から昇りなおすのではなく、仲間や教師の援助によってわかる(できる)方法を模倣し、自分のものにすることが大事なのです。学びには〈背伸び〉と〈ジャンプ〉が必要なのです。
    45ページ

    〈学び〉に対する評価は、〈学び〉の経験それ自体の充実感と、〈学び〉の喜怒哀楽を共有する仲間と教師と親の承認と励ましでなければなりません。
    60ページ

    産業主義社会の学校の限界をいち早く論じ,学びのあり方を説いた著作。
    私たちは学力とは何かを論じずに学力論争を行なっている。
    〈学び〉のための社会に。〈学び〉のための学校に。
    教育関係者一人一人に問いたい一冊です。

  • <u><b>学力危機を問い直せ!</b></u>

    <span style="color:#cc9966;">大学生の学力低下の指摘に端を発した学力問題論議は,大学の受験科目のあり方から,大きくは子どもの教育目標を何におくかというものまで,さまざまなレベルで混乱を深めている.ゆとり教育の悪弊か,実際に学力は落ちているのか,そもそも何を指標に議論されているのか.学力論議のもつれを解く. </span>

    ちゃんと分析を加え、新しい視座を与える教育学の本は、なかなか少ない(ような気がする)。世間一般で言われているようなことを、まとめて書いてあるだけの本も多い。現場を見ずにただただ理論を並べたてる本も多い。ただし、この本は違う。現場から離れたところで冷静に“現場”が分析されている(まぁ、筆者は大学の教授ではあるけれども)。これこそ教育学だろう。それにしても、この本は2001年初版らしいが、実情は未だ変わらずと言うのが、なんともなぁ。
    大人の教養の衰退の方がはるかに深刻というのは、確かに耳は痛いが、事実でしょうね。子どもの「学力低下」心配している場合じゃないぞ、大人!というところだね。

    以下、内容メモ[more]

    <blockquote>
    <b>目次</b>
    一 混乱する学力問題
    二 学力の実態ー何が問題か
    三 危機の背景ー「学力神話」の崩壊
    四 「基礎学力」の復古主義をどう克服するか
    五 習熟度別指導、少人数指導は有効か
    六 子どもの「学び」を支えるために</blockquote>

    <b>●「学力低下」と言われているものは、むしろ「カリキュラムの低下」</b>


    <b>●学力の危機をめぐる様相</b>
     ?日本の小中学生の学力は、国際的な比較では、かつてより低下はしているが、今もトップレベルを維持
     ?<u>一般市民の「科学的教養」「科学に関する関心」は先進諸国の中で最下位</u>
     ?日本の小中学生は創造的思考が弱い
     ?<u>「学びからの逃走」(=勉強嫌い)の深刻化</u>
     ?「学びからの逃走」「学力低下」は社会的に低い階級と階層ほど激しく作用。男の子よりも女の子に強く作用。
     ?大学生の学力低下

    <b>●学びからの逃走は、東アジアの国々に特徴的な現象</b>
    しかも<u>学力成績において、一位から五位までを独占している国々</u>(シンガポール、韓国、香港、台湾、日本)。
    「圧縮された近代化」の途上においては、大多数の子どもが学力をつけ上級の学校に進学することで、親よりも高い教育と社会的地位を獲得(東アジア型の教育)していた。

    <b>●学力問題の核心は「東アジア型の教育」の枠を抜けだし、新しい社会に対応した学力の再定義、価値を取り戻すか</b>
    しかし、アジアのそれぞれの国では、日本と同じように教育内容の削減や総合学習の導入「知識・技能」から「関心・意欲・態度」を重視した学力観の創造…どの国も有効な活路を見いだせずにいる。
    →二項対立の概念構図から抜け出せ!
    「知識・技能」vs「関心・意欲・態度」、「教え」vs「学び」、「教師中心」vs「子供中心」など

    ●<b>アメリカの「back to basics(基礎に帰れ)」運動の失敗</b>
    教訓→「基礎的な知能や技能は、反復練習によって習得されるよりも、むしろ経験によって機能的に獲得される」
    ex:<u>漢字の嫌いな子に、漢字をノートに反復練習させるより、その子が気に入りそうな本を多く読ませ、漢字に触れ親しみ、使用する機会を増やす方が有効。</u>

    <b>●「基礎学力」に関する誤謬</b>
    基礎から順番に積み上げていくイメージ。
    学力は基礎から上に積み上げて形成されるのではなく、逆に上から引き上げられて形成されていく。
    ex:ヴィゴツキー「発達の最近接領域」と「内化」の理論
    <u>「学力」を形成するためには、自分のわかる(できる)レベルにもどって積み上げてゆくのではなく、自分のわからない(できない)レベルの事柄を教師や仲間とのコミュニケーションをとおして模倣し、それを自分の中に「内化」することが必要</u>

    <b>●効果の疑わしい「習熟度別授業」</b>
    ?公立学校は教科を学ぶところであるだけでなく、多様な考え方や個性を学ぶところであり、多様な能力や個性をもった人と共に生きる<u>民主主義を学ぶ場所</u>
    ?<u>教師が増えなければ、組織が煩雑になるだけでかえって指導に困難が生じる</u>
    ?実際問題として、学校は塾や予備校のように、個々人の「到達目標」ではなく、教育内容の「主題」を中心に組織されており、多様な能力や個性の子どもが共に参加して学び合うように授業が進められている

    <b>●「少人数教育」はどう導入されているか?</b>
    四〇人学級よりも、少人数教育の方が効果あるに決まっている
    ただし、文科省が推進しているのは、<u>それに見合った教師の数を増やして実現しようとしているのではない。</u>
    非常勤講師を増やして実現させようとしているのみ。

    <b>●「勉強」の世界から離別し、「学び」の世界へ</b>
    四〇人学級の改善、教科書の改善(欧米のように学校の備品にして、現在の予算枠で一冊あたり四倍の予算を充てる)、子どもに対する評価の廃止、教室の子供相互の学び合う関わりを豊かにする、高校入試の廃止、大学の教育教養の充実、学校の教師が大学院で学ぶ機会を増やす、生涯学習の保障

  •  p.45 学びには<背伸び>と<ジャンプ>が必要なのです。

     この理論がなかなか興味深いです。学習内容が分からない子どもがいると、つい簡単な内容に戻って教えようとしますが、そうではないと言います。

     p.46 学力は下から積みあがるのではなく、上から引き上げられるのです。

     問題は、分からない子をどうやって引き上げるかですね。これは簡単ではありません。「仲間や教師の援助によってわかる(できる)方法を模倣」することが大事だと言います。

     p.29 学力は一種の貨幣である。等々、なかなか目から鱗の内容が目白押しです。

  • 学校の授業で習ったことがまとめてある、といったような本でした。
    子どもだけでなく大人も学び、学び続けていくことが大事。

  • ・『分数のできない大学生』から。確かに教育制度に非難の矛先を向けずに、慶應大学が入試科目に数学を加えれば良い話。現実的だし実現可能だ。

    ・「学力」の定義。「力」と名の付くものは、流動的な概念だ。『○○力』と名付けられたビジネス書は無数にある。マジックワードと化していないか?

  • 2001年発行。もう10年前か。このころは教育学系のものに全く興味はなかった。

    子どもが学力をつけても意味がない(学力という資産を持ってもその資産が実社会では有効でない)ことを悟り,学ぶことを避け始めたと著者は認識する。:佐藤学『「学び」から闘争する子どもたち』岩波ブックレットN0.524,2000年。

    グローバル市場経済では同じ能力ならより安価な労働力を求める。日本の子ども達は競争にさらされる(日本の大人が日本の子どもを見捨てている?)。

    大人社会は学力をつけることを求める。学力は階層的であるという思い込み。基礎学力を身に付けさせようと躍起になる。→身に付けさせようとする基礎学力のレベルが低すぎ。子どもは最近接発達領域での学びを求めている。

    これからの社会に対応する教育は自ら学べる適応的な学習者を育むことが重要→教育を受ける側の資質を変える(向上させる)取り組みをすることによって,制度や様式の問題や障壁を乗り越えさせられるのでは。
    →受け身の授業様式ではなく,協同的な学びの様式に変化する可能性

    習熟度別指導 ×
    少人数指導 ○:但し,非常勤講師でまかなっているようではダメだ。

    大人の学力や教養が低い。子どもの学力や教養はいわずもがな。

    ※制度的問題も孕むが,教師の意識次第で取り組みは変わるし,変わっていけると思えた。教師が教えることのプロであることを自ら担保する必要があるのだな。

  • 学力の問題がイデオロギー的なものも含めて分かりやすく書かれています。うなずける箇所も多く、これからの教育がどうあるべきなのかを考えるときに、とても参考になります。
    ただ、佐藤学の本や論文は、20そこそこの小娘からすると、どことなく学生運動の香りがするのも事実です。あの時代を超えて、どれだけ新しいコンセプトを出せるのかが、私たちの役割だと思います。

  • 面白かったです。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授,北京師範大学客員教授

「2024年 『新しい時代の教職入門〔第3版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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