西アジアとヨーロッパの形成 8~10世紀 (岩波講座 世界歴史 第8巻)

  • 岩波書店 (2022年6月30日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (314ページ) / ISBN・EAN: 9784000114189

作品紹介・あらすじ

地中海から中央アジアに及ぶ一帯では、古代の遺産を引き継ぎながら、一神教による共通の枠組みのもと相互に連動する世界が立ち現れた。今日の諸社会の原風景となるこの世界は、ヨーロッパ・ビザンツ帝国・イスラーム帝国という政治体制下で、いかに形作られたのか。ユーラシア大陸西部の転換期における政治・社会・文化の諸相を活写する。

感想・レビュー・書評

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  • (1)亀谷学「初期イスラーム時代の史料論と西アジア社会」は、初期イスラーム共同体の歴史についての豊富な史料が、ほとんど採用する楽観派から、ほとんど信用ならないとする懐疑派までがいて、その中間のものがどの時代のどの史料を信じるかは研究者間で一致を見るのは稀な状況を活写。ムスリム史料を一端脇に置き、非ムスリム史料や碑文、貨幣、パピルス文書などにあたることも重要。カリフの称号とその性質に関わる問題に新たな展望が開けたケースも。ただお互いに否定しあうものではなく、相互に参照すべき、と。(2)三佐川亮弘「ヨーロッパにおける帝国概念と民族意識-中世ドイツ人のアイデンティティ問題」は、以前読んだ石井宏「反音楽史」があまりに自明なものと描いてきた17・18世紀「ドイツ人」「イタリア人」に引っかかりをおぼえて、手に取った一編。史料上、「ドイツ人」「ドイツ」という民族的、地理的名称が初めて自称として使用されたのは1000年ごろ、「ドイツ王国・国王」は1070年代以降。オットー一世から三世(921-1002年)の集中的なイタリア政策が「ドイツ人」という超民族的、近代ネーションに先行する「原基的ネーション」形成の起爆剤に。それに対応したイタリア側諸民族も「ローマ人のローマ帝国」ではなく「ドイツ人のローマ帝国」という政治的現実に直面する中で「イタリア人」としての共通の民族感情を育み出した。
    「ローマ帝国」を志向する皇帝権、それを「ドイツ王国」に限定しようとする「教皇権」。両者の狭間で揺れ動く「ドイツ人」の複雑に捻れたアイデンティティ。「宗教」「政治」の領域でそれはまた幾重にも引き裂かれていく。残されたほとんと唯一の絆は共通の「言語」によって結ばれた「民族」なるフィクションであった、ということのよう。それが新たな段階を迎えるのは19世紀だった、と。(3)佐藤健太郎「アンダルスの形成」で興味深かったのは、イベリア半島の在来社会がすべて断絶したわけではない、「アンダルス」がイベリア半島のすべてを覆っていたわけではない、同じイベリア半島内に異なる特徴持った社会が隣接して形成されたことが西アジアや北アフリカのイスラーム社会と比べ異色、といったところ。(4)高野太輔「初期イスラーム時代のカリフをめぐる女性たち」は、なぜイスラーム世界に女性カリフはいなかったのか?(スルタンはいたのに)、ウマイヤ朝アッバース朝のカリフには母系の血筋で即位した者が一人もいなかったのか?といった疑問から、当時のアラブ社会の慣習、考え方が語られる。当時のアラビア半島、個人と個人の社会的距離をはかる基準は第一に父系の血縁であったこと。ただ、カリフの母の出自はウマイヤ朝末期に大きく変化(アラブの名族から奴隷出身者へと)。彼らの社会の常識、つまり異民族の母から生まれたものは社会的地位が低いという考えの消失がうかがえる、と。

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著者プロフィール

豊橋創造大学教授

「2018年 『社会的パートナーシップ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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