アウト・オブ・コントロール: ネットにおける情報共有・セキュリティ・匿名性
- 岩波書店 (2008年4月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000220392
感想・レビュー・書評
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winnyや匿名性に関する議論がまとまっている
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人助けインターネットのネットがいつのまにかマイナスな方向に使われている。この世界にもコントロールは必要なのだろう。
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「はじめに」の冒頭、こう書き出している。「21世紀に入って、ちあきなおみがちょっとしたブームを迎えている」。1992年に夫が亡くなってからはプッツリと、舞台からは消えてしまっている彼女だから、その現役での姿、歌声を知らない若者の方が多いのだろうが、そんな状況の中で、このようなブームが生まれてくる背景への導入部だ。CDボックスだとか、BSの特集などというものも勿論あるのだが、動画投稿サイト、YouTubeにアップロードされた彼女に接することで、彼女を初めて体験する人たちも増えているという。ちあきなおみに限らないのだろう。いま、そういう多メディアの時代にいる、その万華鏡の1片のようなものだ。
主題は、ファイル共有ソフトである「ウイニー」を巡って、そのソフト開発者が逮捕される、ということについての疑問、広がる「統制不可能なネット」というものについて、である。
そもそも、「ウイニー」の開発は、02年4月1日、「2ちゃんねる」の掲示板に現れた匿名の書き込みから始まる。スレッドの名は「MXの次はなんなのだ?」。そこに匿名氏は「暇なんで freenet みたいだけど2chネラー向きのファイル共有ソフトつーのを作ってみるわ。もちろんWindows ネイティブな、少しまちなー。」 これが後に、世間を騒がせることになるウイニーの開発宣言。因みに、スレッドの47番目の書き込みだったことから、「47氏」と呼ばれることになる。
「著作権」という権利が持つ意味、さらに情報流通さえをも妨げることになりかねぬ「著作権」という制度。技術と情報量の増大、コントロールがきかぬことへの不安……。多くの論点の中で、筆者が言いたいのは、以下のようなことであろう――。
ユーチューブやウイニーのもつ重要な特質は、中央集権的なやり方では制御不可能だということだ。度重なる情報流出や著作権侵害の取締りが現状ではきわめて不十分に見える現実が、この制御不可能性を示している。その半面で、誰かがコントロールしなくても、ユーチューブやウイニーには違法・合法を問わず様々なコンテンツが提供されており、ユーザー間の情報共有自体はそこそこうまくいっている。制御が不可能であると共に、誰かのコントロールがいらないという意味で、ユーチューブやウイニーは「アウト・オブ・コントロール」な存在だといえるだろう。