アメリカ 暴力の世紀――第二次大戦以降の戦争とテロ

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000220996

作品紹介・あらすじ

第二次大戦および冷戦の覇者、アメリカ。そのアメリカは、どのような経緯で現在の世界の、そして自国の混沌を生み出してしまったのか。大ベストセラー『敗北を抱きしめて』の著者があらたに取り組む、アメリカの暴力の歴史。軍事をめぐる歴史と、テロなどの不安定の連鎖拡大の現状について、簡潔に、かつ深く洞察した。特別の書下ろしとして、トランプ時代を危惧する日本語版オリジナルの序文を付す。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    アメリカは扇情的になりやすい国家なのかもしれない。
    2003年当時、アメリカ国民の70%が、ブッシュ大統領のイラク戦争を支持していた。共和党支持者では93%が、民主党支持者では50%が大統領の戦争を支持していた。
    国内で起こった人権運動や反戦運動が急速に全土へと広がるように、火の手が上がってからは挙国一致で行動するのがアメリカ社会だと言えるだろう。

    しかし、そうした「アメリカイズム」の根底には正義が存在しなければならない。一過性の全体主義に国民が扇動され、そこに正義がなければ、最悪のシナリオを辿ることになる。

    では、戦後から今までアメリカが行ってきた「平和のための戦争」は、はたして聡明で公正なイデオロギーによるものだったのだろうか?

    その問いに答えたのが本書である。

    本書は、第二次世界大戦後の日本社会を克明に描いた快作、「敗北を抱きしめて」の作者であるジョン・ダワーが、アメリカの戦後体制を批判的に述べた書だ。

    ジョン・ダワーは、一部の統計学者に対してかなり挑戦的だ。
    「世界は平和になっていない」と彼は言っている。

    これは、データ中心主義の人々からすれば看過できない問題提起だろう。
    ハンス・ロスリングの「ファクトフルネス」、スティーブン・ピンカーの「暴力の人類史」などが代表するように、「世界は昔よりもずっと平和になっている」のが主流の考えだ。戦争の数、貧困者数、平均年収、平均寿命、平均教育年数などのデータを取った結果、過去数百年に比べてどの数値にも(正確には環境汚染以外の数値)改善が見られ、「もっとも素晴らしい時代」になっている、と統計学者は結論づけている。

    しかし、統計はあくまでも「有意なデータ」の平均値にすぎない。紛争地での難民の増加、戦争によるPTSDなど、データ上には現れない数値によって、「世界は大戦時よりも暴力的になっている」と筆者は述べる。
    (もちろん、「大戦争のときでも数字に表れない犠牲者はたくさんいた」という事実を忘れてはならない)

    この本の面白いところは、そうした「統計に表れない指標」をナナメに見るところだ。
    アメリカが「世界平和」への貢献のために築き上げてきた軍事帝国は、各地に紛争の火種を広げることになった。イデオロギーによる統治は、死者は生まずとも国民の精神を抑圧し禍根を残す。その禍根が膨れ上がり状況が複雑化し、対立の火種が徐々に生まれていく。


    しかし、世界で繰り返される災禍の原因をアメリカだけに求めてはいけないのも事実だ。
    冷戦時に資本主義諸国の大黒柱を担っていたのはアメリカに違いないが、そもそも、戦後に勃発した資本主義vs共産主義の後始末は、戦勝国全体で担うべき問題であった。 アメリカとしては、「平和のために」味方を増やそうとしていたにすぎない。その結果として、各地で(主に中東で)紛争が発生したが、中東諸国がどちらに与するかは、資本主義か社会主義かの違いではなく、国益をどちらに預けるかというシンプルな要因であった。

    戦争の構図は第二次世界大戦から複雑化していない。複雑化したのは人々の感情だ。
    この複雑さにより世界がいびつになっていった過程を、筆者の見事な語り口でぜひ味わってみてほしい。


    【本書の詳細】 
    0 邦訳版に寄せられた前文
    アメリカは9.11事件でのトラウマのために、テロリズムを、かつて地球そのものに対する脅威と見なしていた「共産主義」に変わるものとして見なすようになった。
    ドナルド・トランプが賛美する「全面領域支配」は、彼よりもずっと以前から、アメリカの政治文化の遺伝子に深く組み込まれている。
    そして、日本に対するアメリカからの「積極的な平和貢献」の圧力がやむことはない。例え平和憲法が改正されようとも。


    1 暴力の時代
    我々は今、混迷極まる暴力の時代に生きている。
    しかし、統計学者はそれとは異なった見解を、すなわち、紛争の数は急激に減少してきたと主張する。
    その理由は強大国にのみ焦点が当てられているからだ。

    統計学者は第二次世界大戦での死者数と、近年発生している紛争や局地戦での死者数を比較し、死亡者が急激に低下したことを指摘する。
    むろん、それは正しいが、戦争やそれに関連した死亡者を正確に測るのは難しいし、数のみに焦点を当てることは、もっとひどいこと――強制追放や迫害、人権侵害から目を逸らすことになる。 

    国連の報告書によると、強制追放者の数は6000万人を超えており、経済制裁は世界の数十万のこどもたちを死に追いやっている。PTSD、被災地でのレイプ事件など、統計に出て来ない「暴力」の件数はかなり多いのだ。


    2 第二次世界大戦がもたらした遺物
    ・アメリカ以外の国で見られた、死と破壊、苦悩、欠乏、社会的混乱
    ・暴力と流血事件によって、かつての戦勝国が植民地を失ったこと
    ・ブレトン・ウッズ体制や国際連合の設立など、国際協調的努力を生み出したこと
    ・国際法の(敗戦国の軍事裁判というなかば強引な過程を経ての)発展
    ・科学技術、軍事産業の発展

    どの国も、戦争のために資源を組織的に活用したが、アメリカほどそれを効率的に行った国はなかった。アメリカは武力紛争からも無傷でもあった。


    3 冷戦期における核の恐怖 
    アメリカ合衆国は、太平洋地域を含む海外の27か所に38種類の核兵器を配備したことが知られている。沖縄、台湾、韓国、フィリピンなどだ。1946年から62年まで、アメリカ合衆国は、太平洋核実験地域で105回にわたる核実験を行った。
    その後、いきすぎた過熱への不安から、1963年にLTBTが締結される。1970年からはNPTが効力を発揮、核の過熱を防ぐ抑止力となった。

    各国の協調と倫理的な訴えが、核開発のストップに寄与していたのは確かだ。しかし、核戦争を止められたのは全くの幸運と偶然だったことも確かである。
    アメリカでは1961年から2003年までの核政策の作戦計画が緻密に練られており、あたかも通常兵器の延長線上のように各都市を攻撃するプランが組まれていた。その中では「予防としての核使用」や「核での先制攻撃」も考慮されていた。端的に言えば、ボタン一つで殺せる人間の数は何万倍にも増えたのに、運用方法は異常なまでに「今までどおり」だったのだ。

    それにもかかわらず、米ソ両国政府は自分たちの核軍事力が不十分だと信じ、自国民に恐怖心を広げた。核兵器の力は世界のあり方を一変したのに、あたかも世界は何も変わっていないかのように、我々は行動してきたのだ。


    4 冷戦期の戦争
    朝鮮戦争、ベトナム戦争、ソ連・アフガニスタン戦争は、程度の差はあれ、冷戦期の「共産主義vs反共産主義」というイデオロギー上の衝突があからさまな形であらわれた「代理戦争」であった。同時に、外国からの侵入行為により、国民の間での武力衝突が増幅された戦争でもあった。
    冷戦期は第三世界で暴力が多発したが、統計にあらわれるものばかりではなかった。
    元CIA職員は、「第二次世界大戦以降、アメリカの秘密工作活動の結果死亡した人の数は、少なくとも600万人にのぼる」と結論づけている。中東や中南米に対しては公然と侵略していたが、アメリカ大統領は軍の姿勢を高く評価していた。


    5 代理戦争と代行テロ 
    「汚い戦争に味方する」――独裁政権や右翼組織の支援――というのが、米ソ両国が世界のいたるところで展開した代理戦争の典型的なやり方で、いわゆる「冷戦期の長期平和」が、実際にはズタズタになっていた理由である。
    アメリカ学校では、ゲリラや政治犯に対するあまりにも行き過ぎた拷問手引書が、堂々とテロ対応の指南書として使われていた。
    コウツワースは、「1960年から90年の間に、ラテンアメリカの政治犯、拷問の被害者、処刑された非暴力的反体制活動家の数は、ソ連並びに東欧の衛星諸国における被害者総数を超える。ソ連圏全体のほうが、多くのラテンアメリカ諸国の国々よりも、政治的に抑圧でなかった」と述べている。

    6 1990年代新体制 
    戦争はデジタル化した。
    イラク戦争では、空爆とミサイル攻撃がイラクの軍事施設と民間施設の両方を粉砕したが、これには11万6000回に及ぶ戦闘機・爆撃機とヘリコプターの出撃が含まれていた。破壊されたのは発電所、製油所、化学コンビナート、道路、鉄道、各種工場などであり、こうした破壊が各地に荒廃と飢餓、伝染病をもたらした。 

    当然、行き過ぎた軍事活動により国内外から批判が起こる。これに対するアメリカの見解は2つであった。
    1つは、イラクは破壊から急速に立ち直ることができたということ。
    もう1つは、市民や非戦闘員を巻き込まないよう非常に注意を払ったものだったということ。
    しかし、事実は見解とは異なっている。 死亡者は過去のどの戦争における死者数よりも少ない(2万人~3万5000人)が、戦争が広範囲かつ長期にわたって市民に死をもたらしたため、影響を受けた人は20万5000人にのぼるとみられる。 

    冷戦と湾岸戦争における勝利が、アメリカを2つのレベルに押し上げた。
    1つ目は、軍事面での技術と組織運営の改革により、「可能なものはすべて実現する」という努力。2つ目は、冷戦後のアメリカが「世界規模で軍事基地帝国を構築する」という理想である。

    度重なる中東での紛争の背後には、部族的、民族的、宗教的なアイデンティティと、そこから発生する対立が根を張っている。9.11事件とそれに続くアメリカの「テロとの世界戦争」の宣言以降、新しい暴力の時代の舞台が設定された。


    7 9.11事件と新しい戦争
    9.11の反撃としての米軍による猛烈な軍事行動は、旧式の戦争を想定していた。つまり、敵がはっきりと定まっており、攻撃を続けることで完全勝利が得られるという展望を含んでいた。
    しかし、今回の敵は特定の国家内部の敵ではなく、不定形の敵である。
    アメリカは10年もの間、中東社会における深い対立と矛盾を真剣に理解しようとせず、外国による侵略が中東国の内部に火をつけ、それが暴力的な反乱にまで拡大する可能性についても真剣に考えていなかった。
    世界を変えたのは、アルカイダによる攻撃ではなくて、むしろワシントンの高慢と過剰反応であったのだ。 

    テロ攻撃の目的は、おぞましい死の恐怖を人々に見せつけることであるが、これは煽情的表現が拡散しやすいデジタル社会に効果的であった。

    2003年、ロバート・マクナマラによってベトナム戦争の敗因の簡潔な説明が行われた。敗因は、「敵の立場に身を置き、彼らの決定と行動の背景にある考え方を理解しなければならなかった」ことである。
    ベトナム戦争以降は、民衆の反乱の可能性が無視され、相手の目線に立って自らを見つめることをしていなかった。そして、この発表がなされたまさにそのとき、アメリカ合衆国は同じミスを犯しながらイラクへの侵攻を開始しようとしていた。


    8 75年目の「アメリカの世紀」
    アメリカの世紀とは次のような出来事の時代である。
    ・故郷を失った人々が世界に多く存在し、その数は第二次世界大戦とその直後を少し下回るだけであること。
    ・アメリカが戦後行った複数の戦争により、帰還兵にPTSDの高い発症率が見られること。
    ・強大な国家安全保障国家を作り上げることで国家を永続的に準戦争状態に置き、民主主義に政治的な危害を与えたこと。
    ・たった一日のテロ事件に対して高慢で大げさな反応を示し、何十年にもわたって巨額な戦費を浪費するようになったこと。

    アメリカは「戦争文化国家」であった。
    戦後70年以上にわたる「パックス・アメリカーナ」の追及は、実は「平和の破壊」をもたらす連続だった。暴力的支配が生み出す「平和の破壊」を「支配による平和」に変えようとさらなる暴力で対処することで、暴力の強化と拡大の悪循環が起こった。 

    「アメリカの例外的な美徳」という神秘的観念には、無責任、挑発、残酷な軍事力への陶酔、偏執狂、容赦のない犯罪行為と犯罪的怠慢に、真剣に考慮を払うという機能が欠落している。

  • 319.53||Do

  • ジョン・ダワーから見たアメリカはこう描かれるのか。
    筆者は日米ともに痛烈に批判するが、やはりアメリカの正義というのは血に塗れている。。。

  • 【由来】
    ・MediaMarkerのトップページで

    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】


    【目次】

  • 法経開架 319.5A/D89a//K

  • 「敗北を抱きしめて」のダワーが米国の暴力的な戦後史を分析する。

  • 現在のアメリカの「テロとの戦争」に至るまでの歴史とイデオロギーを豊富な資料を駆使しつつ振り返る。わかりやすく簡潔に書かれている。詳細→http://takeshi3017.chu.jp/file7/naiyou26001.html

  • 戦争のためにどの主要国家も、物的ならびに人的資源を組織的に活用した。しかし、アメリカ合衆国ほどそれを効率的に行った国はなかった。しかも、アメリカだけが、戦場での死傷者は別として、その軍事力の故だけでなく地理的安全性にも恵まれて、世界的規模で行われた武力紛争から国内が無傷でいられた国であった。この点がいくら強調しても強調しすぎることのない特別に重要な遺産であった。(p.26)

    集団思考というものがどういう形をとるのかということを見事に露呈しているだけでなく、自分達が仲間同士だけの思考範囲にとどまり、世界を、あるいは自分自身を他者の目で見てみる、とりわけ敵対者ないしは潜在的な敵対者の目で見てみることを回避するという、狭隘性を意図的に維持し続けたことを意味していた。アメリカ合衆国は、確固たる意思がなかったためにベトナム戦争では敗北したという「ベトナム症候群」の説明は、真の問題から目を逸らしてしまう。(p.119)

    「アメリカの例外的な美徳」という神秘的観念には、無責任、長髪、残酷な軍事力への陶酔、偏執狂、傲慢、容赦のない犯罪行為に、そして犯罪的怠慢にさえ、真剣に考慮を払うという機能が欠落しているのである。(p.144)

  • 近現代史の巨匠であるジョン・ダワーによる本作は、トランプ就任前の2016年9月の刊行でありながら、トランプが明確に志向するアメリカの暴力を伴う拡張主義を、第二次大戦以降のアメリカ史を丹念に追うことで、それがアメリカという国に強く紐づいている(リベラルとされるオバマ政権時代であってもそれは全く変わることがない)ことを示す論考である。

    これを読むと、改めてアメリカという国が、「本当に存在するかも疑わしい脅威にパラノイアックに固執し、自らの暴力をエスカレートさせていく」異常心理を根底に持つことが、やはりアメリカをアメリカたらしめているのかもしれない、という仄暗さを感じざるを得ない。一方で、脅威をパラノイアックにエスカレートさせていくのは最早アメリカだけの伝統芸ではなく、日本も含めた多くの国がそうなのかもしれない、とも思う。

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